はじめに
本連載では、Windows環境で開発可能なマルチプラットフォームGUI技術を解説します。第1回目の本稿では、デスクトップアプリの開発に利用できる技術を総覧しながら、それぞれを選択するポイントをまとめてみることにします。
アプリ開発の基盤技術
まずは、アプリを開発するための、基盤となる技術(SDK、API)について解説しましょう。なお、ここでは個々の技術について深く追求するのではなく、あくまで全体像をつかむための解説にとどめておきます。
技術レイヤー
.NETを中心とした、基盤となるAPIやGUI技術などを階層ごとに並べてみました。.NETは、.NET 5から、.NET Frameworkや.NET Coreなどを統合したものになっており、それ以前とは構成が異なりますので、.NET 5以降とそれより前で分けています。ただし、執筆時点においては、.NET 6のいくつかの機能はプレビューリリースの段階です。
Win32 API
Windowsでデスクトップアプリを開発する場合に、もっとも基本的となる手法は、C/C++言語などで、Win32 APIを利用する方法です。
Win32 APIは、Windowsアプリを作成するための、C言語ベースのライブラリ/フレームワークです。Windowsアプリにとっては、もっとも低レベルなライブラリであり、当然ながら、.NETのような、より上位のフレームワーク内でも利用されています。
Win32 APIを直接使えば、Windowsの機能をすべて制御できます。ただし、すべてのGUI処理を記述するには、多くのコードが必要で、空っぽのウィンドウを表示するプログラムでさえ、数十行のコードとなります。今では、Win32 APIのみを使ってアプリを新規開発することはほとんどないでしょう。
WinRT
Windows 8以降のWindowsでは、WinRT(Windowsランタイム)と呼ばれるAPIが搭載されるようになりました。WinRTは、Win32 APIをより発展させたAPIで、C++言語で実装されています。Win32 APIでサポートされていなかった機能が多く追加されていますが、従来からのWin32 APIを置き換えるものではなく、Win32 APIとは併用可能です。
WinRTでは、いわゆるモダンUIと呼ばれる、Windows 8以降のユーザーインターフェースに対応しています。また、Windows 10以降のUWP(ユニバーサル Windows プラットフォーム) 向けのアプリ開発にも、WinRT APIを利用します。
WinRTは、C++言語で実装されていますが、C++言語から利用するには、一般には、C++/WinRTと呼ばれるライブラリを利用します。このライブラリを利用すれば、C++言語で、UWPアプリの開発が可能です。また.NET 5 以降では、C#/WinRTというライブラリを利用すると、C#を用いてかんたんにWinRTのAPIを実行することができます。
Windows App SDK
Windows App SDKは、Windows 10以降に対応する次世代のコンポーネントと開発ツールのセットです。2021年11月に、ようやく安定版のバージョン1.0がリリースされました。
Windows App SDKは、プレビュー版までは、Project Reunionというコードネームでした。Reunion(再結合)という名前は、従来のWin32アプリとUWPアプリに分断していた開発プラットフォームを統一(再結合)するという意味です。Microsoftは、従来のUWP移行の戦略を見直し、Windows App SDKという統一したプラットフォームで提供するようです。
なおWindows App SDKは、OSとは分離されており、従来のWin32 APIを置き換えるものではありません。また、Windows App SDKはオープンソースとなっています。
Windows UI ライブラリ (WinUI)
Windows UI ライブラリ (WinUI) は、Windowsデスクトップと、UWPの両方のアプリケーションに対応したフレームワークです。また、ネイティブのUIフレームワークであり、C++言語から利用できます。
今のところ、WinUIには、WinUI 2とWinUI 3という、2つのバージョンがあります。WinUI 2は、Windows 10以降のSDKと統合されていますが、WinUI 3は、前述のWindows App SDKに含まれます。C++言語でデスクトップアプリを開発するには、WinUI 3を利用することになるでしょう。
Mono
Monoは、.NET Frameworkのオープンソース実装(ランタイム、C#コンパイラ、クラスライブラリを含む)で、LinuxやmacOSといったマルチプラットフォームの環境で動作します。
Monoは当初、Microsoftとは別のXimian社でのプロジェクトであり、当然ながら.NET Frameworkとは、実装の異なる部分がありました。しかし、.NET Frameworkがオープンソース化されて以降は、Monoに、多くのMicrosoftのソースが取り込まれることとなり、互換性が向上しています。また今では、Monoは、Microsoftの子会社となったXamarin社で開発、サポートされています。
各OSのMonoのランタイムを使えば、Windowsで開発した.NET Framework用のアプリケーションを動作させることができます。後述するWindowsフォームもMonoでサポートされていて、Windowsで開発したWindowsフォームアプリのソースを、Mono用にビルドすることも可能です。