はじめに
本連載は、全12回のリレー形式で「FileMaker Pro」というデータベースソフトウェアを紹介していきます。前回は、Juppoグループの永井氏が、FileMakerを使ったソリューションの規模や運用形態について紹介しました。今回は(株)ジーネクストの伊藤が、実際に簡単なシステムを作成しながら、FileMakerの機能や特徴について解説します。「まずは作ってみる」ことを通じて、FileMakerの一番の利点とその前に留意すべきことを考えてみたいと思います。
FileMakerでシステム開発を行うにあたって
まずは「やること」を明確にする
第2回で永井氏が分かりやすく料理にたとえていたので、こちらでも引用させて頂きましょう。
いざ料理を作る際に、やらなければならないのが、「食べる人のことを考え、メニューを決めること」です。誰に、どんな材料を使って、どんな料理を作るかを考えることになります。ただ料理と違って、一定期間使い続ける(あるいは他の人に使ってもらう)システムですから、あとあと困らないように作っておくことが肝心です。
FileMakerは、「誰にでも簡単に作れる」ことが他のDBMSと比べて際立って優れています。特に慣れてくれば小難しいドキュメントや決め事などなくても簡単に作れることは事実です。つまり昔の職人さんのように、板にかかれた間取り図一枚で家を建てるのと同じようなことが、FileMakerではできてしまうことになります。
また、それで結構大きなシステムまで作ってしまえますが、逆にそれが開発(あるいはメンテナンス)の妨げになることが多々あります。
したがって、FileMakerを使ったシステム(というほど大げさではなくても)の場合でも、「何を実現するのか」を整理することから始める必要があります。これを「要件定義」といい、それを「文書としてまとめた」ものが「要求仕様書」ということになります。
要求仕様書の必要性
これはインハウス(企業内でのシステム利用)であってもデベロッパーに依頼してシステムを作る場合であっても、企業の中で業務として利用するシステムは、「要求仕様書をつくってから実際の開発作業を始める」ようなクセを付けましょう。
なぜなら、FileMakerはカード型のデータベースとして利用することもできますが、そのパフォーマンスはいまやカード型のデータベースに留まっていません。そのような能力を十二分に生かすためにも、単純にできてOK! という前に、何のためにどのように作るかをまとめることが、結局近道となります。
特にSIerとして受託開発した場合、この「要求仕様書」が命綱になります。
というのは、相手先に複数の担当者がいれば、同じ業務でも担当者と同じ数だけ考え方があるのが普通です。特に人力(つまり力技)で業務を行っている場合は、数々の業務について明確に決まっていない場合でも、結構業務が流れていたりします(人間の場合は自由に判断していますので……)。
このように、相手先のさまざまな考えや業務を整理し、相手先と情報を共有して確認するためには、文書で確認しあうことが確実ですし、何よりも後で「言った・言わない」で揉めることもなくなります。
要件をまとめるメリット
たしかに要求仕様書をまとめるには時間もエネルギーもかかります。しかしFileMakerの場合は、開発を始めた後は他のデータベースで開発するより圧倒的に短期間で開発できますし、その保守も楽になりますので、この要求仕様書を作成する作業が、いっそう大切になります。
また、自社開発の場合でも、そもそも何の目的でシステムを作るかを考えることにより、その業務に合わせたシステムを作るのか、あるいはシステムに合わせて業務のフローを変更し本質的な業務改善につなげるのか、多くの人の知恵を合わせ活かすことができます。
FileMakerは、時として「作ることも楽しい」魅力のあるシステムですから、その落とし穴にはまらないようにすることも重要です。