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脱落者が出がちな社内イベントを継続させるには? ITエンジニアが技術力で支える健康推進プロジェクトに学ぶ

【23-A-4】はたらくを楽しく!エンジニアの健康と協働を促進する社内イベントの仕組みと技術

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 コロナ禍によりリモートワークが増え、部署を超えたコミュニケーション不足、運動不足になりがちな昨今。そんな中、株式会社Works Human Intelligenceの有志が実施している社内ウォーキング大会“Connected Walking”は、社員がチームを組み、ミッションに取り組むことで継続的なイベント参加を促し、健康増進とコミュニケーション活性化に貢献しているという。その手法やルール、継続のための施策と、それを支える技術について、同社の発地大地氏、本川賢治氏が紹介した。

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リモートワークの健康とコミュニケーションの課題に、有志で立ち向かう

 ERP市場 人事・給与業務分野でシェアNo.1[1]を誇る、統合人事システム「COMPANY」の提供元として知られる株式会社Works Human Intelligence(以下、WHI)。「複雑化・多様化する社会課題を人の知恵を結集し解決することで『はたらく』を楽しくする」をミッションとして掲げる同社では、有志によるプロジェクト「Works Healthy Project(以下、WHP)」を立ち上げ、"健康”をキーワードとして活動しているという。2009年に発足後、活動は約15年に渡り、現在は約30名で運営されている。

 [1]2022年度 ERP市場 - 人事・給与業務分野:ベンダー別売上金額シェア
   出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2024」

 「人は楽しくないと動かない。そこで社員目線で企画し、健康作りを"楽しく”実現することにこだわった」と発地氏が語るように、近年はオンラインでのウォーキング大会「Connected Walking」を年2回、新卒研修版と全社版を実施したほか、有志メンバーでオリジナルTシャツを制作・着用して企業対抗駅伝にも参加するなど、活発に活動している。このような活動もあり、WHIは2024年に「スポーツエールカンパニー」(スポーツ庁)と「健康経営優良法人」(経産省)に認定された。

「Connected Walking」の概要

 発地氏は、1日あたりの歩数と予防できる病気の関係について示し、厚生労働省より1日約8,000歩以上の身体活動が推奨されていることを紹介。しかしながら、テレワーク中心の働き方をしているエンジニアは生活習慣病のリスクが高まる3,000歩以下の人も多いという。

 そこで大切なのが自分の現状を把握し、自身で健康を管理することだ。さらに会社としてそうした社員の活動を支援する上で、健康の重要性を理解し、継続のコツや仕組みを知る必要がある。

株式会社Works Human Intelligence
株式会社Works Human Intelligence 本川 賢治氏

 そもそも、こうした健康課題が顕著になったのは、2020年以来のコロナ禍による働き方の変化によるものが大きい。在宅勤務が全社展開され、勤務場所の自由度が高まり、その結果さまざまな問題が生じるようになった。それはWHIでも同様だったという。

 同社の社内調査によると、歩行時間が減り、肥満割合が増加、健康面での課題を感じる人が増えた。またコミュニケーションの減少やメンタル不調という問題も生じている。従来WHIでは、“偶発的な出会い”を促進するため、社内カフェや運動会などの懇親イベントを開催していたが、コロナ禍により実施されなくなり、サークルや部活も消滅。誰もが閉塞感を感じていた。

 しかし、エンジニアが高いパフォーマンスを発揮し、チームの垣根を超えてイノベーションを起こすには、“健康と協働”が欠かせない。そこで、これらの問題を解決するために、WHIではバーチャルオフィスやSlackのtimes(分報)などさまざまな施策を実施してきた。WHPもオンラインラジオ体操などを実行したが、回を重ねるうちに参加者は次々と離脱するようになったという。

脱落者が出がちな社内イベント、継続させるコツとは? 

 オンラインイベントを継続するのは、なかなか難しい──。そんな時、フランスからベランダマラソンで42.2キロメートルを完走したというニュースが飛び込んでくる。WHPも刺激を受け、「走るのは無理でも、歩くのなら在宅勤務でできるはず」という発想に至ったという。

株式会社Works Human Intelligence
株式会社Works Human Intelligence 発地 大地氏

 しかしながら、継続が難しいのは体験済み。そんな時、発地氏は2019年のデブサミでゲーミフィケーションについて学んだことを思い出した。ゲーミフィケーションの要素である「課題」「報酬」「交流」を組み込むことでユーザー体験が向上し、離脱しにくくなるというものだ。さらに2021年のデブサミのセッションからヒントを得て、スクラムや目標設定、作業興奮などを盛り込み、スクラムのアジャイルフレームワークを使おうと考えた。

 それらを取り込みつつ創り上げたのが、前述のオンラインウォーキング大会「Connected Walking」だ。スクラムのスプリント、バックログ、プランニング、レトロスペクティブ、インクリメントなどを意識して盛り込み、ゲーミフィケーションの要素である課題・報酬・交流を織り交ぜている。

ゲーミフィケーションやスクラムの要素を社内イベントの継続に適用

 まず仮説検証のため、2021年の新卒研修で50人を対象にスモールスタートを実施。ルールは、(1)各自、目標歩数を決めて歩く、(2)記録用スプレッドシートに歩数を毎日入力する、(3)週1回振り返りアンケートに答える、(4)設定ミッションにチャレンジする、の4つのみ。チームと個人でポイント獲得を競うというものだ。

 実際の手法について、本川氏が時系列にて紹介した。まずは参加エントリー。自分たちでチームを作ってエントリーするほか、個人でエントリーしてランダムなチームに参加することもできる。チームが確定すると、Slack上に自チーム専用の「チームチャンネル」が自動で作成され、メンバーが招待される。イベント期間が開始されると、ミッション内容が記された「ビンゴカード」が配布されるので、チームメンバーと分担して取り組み、ビンゴを揃えるとポイントがもらえる。

BINGOの例

 ミッションの達成写真をチームチャンネルに投稿し、”Walk fun!”の絵文字をつけると、Reacji Channelerで参加者が全員入っている全体チャンネルへ転送され、みんながリアクションで応援してくれる。翌日にはBotから歩数入力のリマインドが届き、歩数を確認して記録するという流れだ。

歩数入力のリマインドが届き、記入につなげる

 そして、木曜日になると、botから週末に向けてリマインドが届く。個人宛に歩数とクリアしていないミッションを知らせ、週末の実施を促すというわけだ。そして、月曜日には「週次振り返りアンケート」が送られ、KPT(Keep/Problem/Try)を回答し、次週の目標が設定される。これを4週(4回)繰り返し、イベントが終了したら得点上位のチーム&個人、Slackを使ったチーム、リアクションが多かった投稿などが表彰される。

 2023年11月の実施では、CxOも積極的に写真を投稿し、社員との距離が縮まった。また、クロージングイベントの開催や、上位入賞チームと取締役会長とのプライズランチも実施している。本川氏は「健康経営の一環として、経営層が積極的に参加・支援をしてくれたことで、イベント盛り上げの追い風となった」と評した。

イベントの全社展開に伴い、運営の自動化をすすめる

 50名の新卒社員にスモールスタートした際のアンケートで満足度が高かったこともあり、全社版開催への検討が始まった。全社版「Connected Walking」については、人事と相談し、健康保険組合から2,000ポイント/人の協賛を受け、勢いづくかと思われた。しかし、業務の傍ら運営している状況では、新卒版のように頻繁にSlackのチェックやコメント、リマインドなど盛り上げ作業ができない。そこで運営メンバーの業務を洗い出し、イベント実施中のタスクが毎週繰り返し実施するため負荷が高いことを確認。課題として「1.参加者数の増大によって運営側の工数が圧迫」、「2.参加者のモチベーション維持向上」を挙げた。

イベント実施中のタスクを洗い出してみると……

 この「Connected Walking」成功のカギとなる、イベント運営を支える仕組みや技術面については、発地氏が紹介した。「社員が本業もやりながら短い時間で楽しく続けられる」ために、運営工数を削減しつつ、チームチャンネルで交流を促すような施策の検討が始まった。

 まず、施策の実施にあたり、運用工数の削減は大きな課題だ。そこで、Googleスプレッドシートで作成した「歩数記録表」からGoogle Apps Script(GAS)で情報を取得し、それらを分析・変換処理をして、Slack APIで個人ごとの情報を届けるという仕組みを構築した。たとえば、次のような業務について自動化で工数を削減している。

施策(1):未入力者への働きかけ

 未入力者に対して自動でリマインドを行うbotを作成。未入力者一人ひとりに一括でリマインドを送信することができ、リマインドにかかる工数が大幅に削減され、イベント全体チャンネルで@channelを付けてアナウンスするよりも、体感で未達成者の50〜70%がBot実行後に行動するなど、高いリマインド効果が得られた。

施策(2):チームチャンネルの作成やメンバー招待の手間の削減

 スプレッドシートで管理しているチーム表に基づいて、チャンネルの作成とメンバー招待を行う。作業の負担軽減だけでなく、チャンネルが早々に開設にされたことでメンバー間の交流がイベント開始後スムーズに開始できたほか、イベント運営側にも各チームチャンネルへのアナウンス自動化や参加者の投稿数の取得が可能となるといったメリットがあった。

施策(3):チームごとのリンク案内

 各チームへのアナウンスをチームチャンネルに投稿できるアナウンスbotを作成。チームごとのお知らせの他、ビンゴシートなどをチームチャンネルに投稿し、自動でピン留めするというもの。参加者事に異なるリンクを配布したり、運用工数を削減したりできるだけでなく、入力シートへのアクセスの導線も改善できた。

 さらに参加者のモチベーション維持のために、次のような施策を実施。これらについても自動化することで運営の負担を軽減している。

施策(4):目標歩数や BINGO達成状況の経過共有

 スプリントの中盤にあたる木曜日頃に、歩数目標およびビンゴの達成状況をチームチャンネルに共有する。タスクのリマインダーにもなり、この投稿を見て各チームが残タスクの分担を始めるなど、協働のきっかけにもなっている。

施策(5):1週間ごとの目標&KPTでふりかえり

 週次の振り返りアンケートの結果をチームチャンネルに共有する「おつかれさまbot」を作成。達成状況に応じてコメントが変わり、トータル歩数などパーソナライズされた情報が共有される。これによって、チームメンバーとの会話のきっかけが生まれ、モチベーション維持にもつながった。

施策(6):コミュニケーション数の把握

 Slack投稿取得や分析スクリプトを実装し、各チームチャンネルの投稿情報をSlackが取得してスプレッドシートに書き出していく。チームの盛り上がりが可視化され表彰の指標となるほか、定量的なデータに基づきコミュニケーション数向上のテコ入れ施策を検討できるようになった。

 なお、GASの実装では、「ブラウザベースでしかエディターがない」「バージョン管理が難しい」「行動分割ができず、再利用が難しい」などの課題もあったが、GASのGoogle製CLIツール「clasp」を活用することで解決。ローカルから”コマンド一発”でデプロイし、TypeScriptやLinterによる静的検査といったツールの恩恵を受けられるようにするなど、開発者体験を向上することができた。

 自動bot化で無駄な手戻りを削減できた一方、発地氏は「運営メンバーに必ずしも技術があるとは限らず、メンテナンスのハードルは上がる印象がある」と語り、「複雑なスクリプトに関してはclaspを導入するなどの棲み分けが有効かもしれない。また、ゼロから開発し直すなら、Googleのasideが使いやすく進化している」とアドバイスした。

エンジニアリングで“楽しく働く”に貢献

 こうした施策運営の自動化を実現した結果、煩雑なルーティンワークから解放され、少ない運営人数でも「どうしたら参加者が楽しんでくれるか?」という本質を追求できるようになったという。参加者からも好意的なフィードバックが寄せられた。なお、GASやSlack APIの実装は世の中に参考事例が多く公開されているため、ChatGPTやGitHub CopilotといったAIを用いた開発と相性がいいという。また、今回使用した技術や仕組みは、ウォーキング大会だけでなく、オンボーディングやチーム運営にも応用できると考えられる。

 イベントの参加者・参加率は右肩上がりに増加。2023年の11月に開催した全社版イベントでは、管理職や執行役員なども含め、全社員の約4割にあたる750名が参加し、そのうち約94%が4週間のイベントを最後まで完走した。また、開発部門の1日あたり平均歩数は約4,000歩から6,500歩に増加、30分以上の運動を継続している人も増えている。

 定性的な効果については、経営層や人事部へのインタビューでも好感触だったという。たとえばCHROの八幡氏は、「この活動が社員の健康維持や健康意識の向上に大きく貢献している。従業員エンゲージメントの観点でも、その果たす役割は大きい」と語っており、新卒研修担当の平野氏も「“リフレッシュ”確保の重要性、社会人としての健康意識の醸成ができた。同期の繋がり強化や、会社へのエンゲージメント向上にも繋がっている」と回答している。さらに、石川芳郎会長からは「このイベントのお陰で血液検査も血圧も完璧だった」というコメントが寄せられた。

 また継続的な効果の検証のため、イベント開催から9か月経過した現在(2024年7月)の状況を改めてアンケートで確認。運動習慣については「イベントをきっかけに運動するようになり、今も継続している」「以前より体重計に乗る機会も増え、健康に対する意識が変わった」といった声が聞こえてきた。また社内コミュニケーションについても「普段の業務では接しない他部署の人との接点ができた」「偶発的な雑談が期待できなくなった今、雑談を奨励するためのとても良い機会」「中途入社したてでイベントに参加したが、この時つながった人とは趣味で今もつながっている」などのポジティブな声があがっており、協働の促進に一役買っているという。

 発地氏、本川氏は、「こうしたイベントで“はたらくを楽しく”に貢献できた」と語り、そのメリットについて(1)健康と交流協働の活性化ができること、(2)社内向けの小さなサービスとして、PDCAサイクルを回す体験ができること、(3)活動自体が楽しいこと、を挙げた。運営メンバーとして継続して活動できている理由について、本川氏は「エンジニアにとって、自分が関わった仕組みや施策がユーザーに利用されることや、評価されたり世の中に広がったりすることには、シンプルな面白さがあると思う。それが原動力になっているのではないか」と評した。

 発地氏も「社内イベント成功のポイントは、参加を促す仕掛けと継続する仕組み、さらに『楽しんでできること』が何より重要。大事なのは、みんなの背中を押すきっかけづくりと持続する仕組みづくり。エンジニアは技術で会社を健康にできる」と語り、「少しでもやってみたいと行動を起こすきっかけになれば幸い」と結んだ。

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提供:株式会社Works Human Intelligence

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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