PM兼モバイルアプリエンジニアを目指す理由とは?
2021年、トヨタグループは自社グループが展開するモビリティサービスやビジネスをテクノロジーで支援するためにKINTOテクノロジーズを設立した。現在はクルマのサブスクリプションサービス「KINTO」を中心に、さまざまなサービスを開発し提供している。
2022年4月1日、同社はOsaka Tech Labを大阪に設置。1人から始まった同拠点は年々成長し、2024年9月現在、26人の社員が所属している。その1人が沖田氏である。
沖田氏がKINTOテクノロジーズに入社したのは2022年9月。「企画やエンジニア、デザイナーなど、それぞれ異なる立場の人が自らの強みを生かしつつ、協力し合ってプロダクトを創造する仕事をしたかった。KINTOテクノロジーズはトヨタグループの内製開発組織なので、それができると思いました」とKINTOテクノロジーズを選んだ理由を話す。現在沖田氏は、開発編成本部モバイルアプリ開発グループに所属し、モバイルアプリエンジニアとしてだけではなく、プロジェクト全体をマネジメントするPJMと開発PMとしても活躍している。
そんな沖田氏だが、新卒では証券会社に入社し営業に従事していた。その後、第二新卒採用でSIerに転職し、システムエンジニアに転身した。「ここからエンジニア人生がスタートしました」(沖田氏)
それからKINTOテクノロジーズに入社するまで、さまざまなプロジェクトを経験してきたという。「テクニカルスキルはもちろん、顧客対応スキルも身につけました」(沖田氏)
現在、KINTOテクノロジーズの従業員数は約300人で、その多くは東京、愛知・名古屋の拠点で働いている。そのためOsaka Tech Labの社員は、東京や名古屋で主導しているプロジェクトに所属する。「関西にいながら、東京や名古屋で主導しているプロジェクトで研鑽を積むことができる。関西にいながらも、トヨタグループの仕事ができるのがOsaka Tech Labで働く魅力の一つです」と沖田氏は話す。
沖田氏が今、目指しているキャリアはPM兼モバイルアプリエンジニア。「このキャリアを目指しているのには理由がある」と沖田氏。沖田氏がKINTOテクノロジーズに入社してやりたいことは、立場の異なる人たちと協力して、ユーザーに役立つ新しいプロダクトを創造していくこと。そういうプロジェクトをつくっていくためにも、プロジェクトの方針に意見を出せる立場になろうと考えたからだ。
沖田氏は立場の異なる人の間を立ち回るよりも、黙々と自分のタスクに取り組みたいタイプ。エンジニアの立場でいろいろな立場の人とディスカッションしてモノづくりができるのであれば、「それで満足できたと思う」と言う。もちろん、KINTOテクノロジーズでもそういう機会はゼロでは無い。だが携わるのはトヨタグループの案件。「プロジェクトに関係する人が多く、どうしてもステークホルダーやエンドユーザーと直接、コミュニケーションを取る機会はマネジメントに限られてしまうことが多いのです」(沖田氏)
当初、Androidエンジニアとして入社した沖田氏だが、iOSエンジニアとしてOsaka Tech Labでのキャリアがスタートした。最初に参画したプロジェクトは「my route」というMaaSアプリ。「1エンジニアとしてソースコードを書いていました」と当時を振り返る。次に携わったのは、2023年4月、新規に立ち上がった「KINTOかんたん申し込み」アプリ開発プロジェクト。このプロジェクトで沖田氏は、iOSチームに参画している協力パートナーのとりまとめ役を担当した。
常にチャレンジできるKINTOテクノロジーズとは?
これらの経験を積んでいくうちに、今年4月にPMへの転身を打診された。チャレンジしたいとは思ったが、「本当にそんなチャレンジができるのだろうか」という不安もあったという。KINTOテクノロジーズにはこれまでPM兼モバイルアプリエンジニアの前例がなかったからだ。
そんな沖田氏の不安を取り除いたのが、KINTOテクノロジーズの風土とOsaka Tech Labの仲間の存在だった。同僚だけでなく上司も「失敗しても経験だから」と沖田氏を後押ししてくれたのだと言う。
こうして沖田氏はPMへの一歩を踏み出すことになった。プロデューサーチームを兼任し、3つのグループから成る販売DXプロジェクトの開発チームのサブPMに就任した。それ以外に現在、PJMを務めるプロジェクトが1つ、開発PMを務めるプロジェクトが2つ、合計4つのプロジェクトに携わっている。
入社して1年半ながら、PM兼モバイルアプリエンジニアへの道を着実に歩んでいるように見える沖田氏だが、PMに転身した際に感じた壁もあるという。
第一に感じたのは板挟み。「これは想像以上だった」と明かす。プロジェクトはプロフェッショナルな人たちで構成される。「皆、自分の役割に誇りを持って取り組んでいるため、譲れないところもある。ですが、プロジェクトを前に進めるには、落とし所を決める必要がある。どちらの言い分もわかるだけに、決断をする時は苦しさを感じます」(沖田氏)
第二に立場によって仕様の粒度が異なること。例えばプッシュ通知機能が欲しいという要望があったとする。開発チームにこのまま伝えると、「期待する機能が出てくることはほとんどありません」と沖田氏。プッシュ通知と行ってもいろんなパターンがあるからだ。どんなプッシュ通知が必要なのか、企画開発の人たちと話して初めて同じ認識を持つことができるようになる。「立場によって、期待する粒度が異なることを改めて把握した」と沖田氏。
第三に多角的な視点が必要になること。例えば沖田氏が担当している販売店DXのプロジェクトは、販売店の実務も考慮して仕様をつくっていく必要がある。「テクニカルな観点だけではなく、ビジネス観点も必要になるため、ハードルが一気に上がりました」(沖田氏)
大変なことがある一方、エンジニアの感性が活きる瞬間も多々ある。その一つが見積もり。「ふわっとした要求でも、ある程度ブレイクダウンすることができる」と沖田氏。また仕様についても、実装者ならではの観点で、仕様を詰めることができるという。そしてエンドユーザーや企画が求めていることを、開発チームにうまく伝わるよう翻訳できることだ。
企画やエンジニア、QAなど、立場の異なる人たちが協力し合ってプロダクトをつくるプロジェクトチームを一から立ち上げる。そのために「チームの間や開発工程の間をつなぐ、オンリーワンの存在になり、情報がスムーズに流れる仕組みをつくっていきたい」と沖田氏は意気込みを語る。
そのために体現していくべきことが2つある。1つはリスペクトし合える関係を構築すること。「上下関係では無く、お互いの役割を尊重したディスカッションができるようにする。そのためにファシリテーションのスキルを磨いています」(沖田氏)
もう1つは、仕様の見える化である。顧客や企画、開発、QAチームそれぞれが同じ仕様を確認できるような仕組みも作っていきたいという。「直近、携わっているプロジェクトで先例をつくろうと取り組んでいます」(沖田氏)
Osaka Tech Lab「大阪発のプロダクトリリース」へのチャレンジ
これらは沖田氏個人の夢を実現するためチャレンジだが、Osaka Tech Labでも今年から夢に向けたチャレンジが始まった。Osaka Tech Labからプロジェクトを立ち上げ、Osaka Tech Lab発のプロダクトをリリースすることだ。「現在はプロダクト創造に向けた種まきをするため、アイデア出しやプロトタイプ開発などラボラトリーな活動を始めました」と沖田氏。Osaka Tech Labでは、人数が少ないながらもフロントエンド、バックエンド、モバイル、クリエイティブ、分析、プラットフォーム、セキュリティ、QA、さらにはマネジメントというように、あらゆる分野のメンバーが揃っている。
夢に向かって歩み出したOsaka Tech Lab。「プロジェクトが立ち上がった際には、モバイルエンジニアとして関わり、プロダクトをリリースしたい」と沖田氏は言う。
Osaka Tech Labと沖田氏の夢が実現するかどうかはわからない。しかし、沖田氏は「つらいことがあっても、続けていれば少しずつ前に進んでいくし、チャンスはきっと転がり込んでくる。そのためには想いを消さないことが大事だと思います」と語った。