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Developers Summit 2025 セッションレポート

プリセールスエンジニアの実践知──ビジネスに技術を届けるキャリアの真価

【14-E-7】技術とビジネスをつなぐプリセールスエンジニアというキャリアの選択肢

 開発エンジニアの本分は、技術を駆使して価値あるプロダクトを創出することにある。だが、どれほど洗練された技術が注ぎ込まれても、ユーザーの心を動かさなければその価値は世に届かない。ユーザーの課題を正確に掴み、プロダクトの真の魅力を引き出す橋渡し役として機能するのが、今回紹介するプリセールスエンジニアという存在だ。本セッションでは、SIerからキャリアをスタートし、現在はdbt Labsでソリューションアーキテクトとして活躍する伊藤俊廷氏が登壇。プリセールスエンジニアというロールの具体的な業務内容や求められるスキルセット、そしてその先に広がるキャリアパスまで、自身の経験を交えながら立体的に語った。

プリセールスエンジニアの役割とビジネス上の位置づけ

 伊藤俊廷氏は、野村総合研究所でソフトウェア開発やプロジェクト管理を経験した後、3社にわたってプリセールスエンジニアとしてのキャリアを歩み、現在はDataOps領域を手がけるdbt Labsにてソリューションアーキテクトを務めている。

dbt Labs, Inc. Solutions Architect 伊藤 俊廷氏
dbt Labs, Inc. Solutions Architect 伊藤 俊廷氏

 セッション冒頭では、Developers Summitのスポンサー枠で登壇するプリセールスエンジニアやエバンジェリストの多さに触れ、「つまりデブサミはプリセールスエンジニアたちで成り立っていると言っても過言ではない」と冗談交じりに語る一幕も。そのうえで、特に新しいテクノロジー製品が次々と市場に投入される昨今、技術と顧客ニーズの橋渡しを担うプリセールスエンジニアの存在がいっそう重要になっていると強調した。

 とはいえ、こうしたロールの役割やスキルセットはまだ広く理解されているとは言い難い。「外資系のプリセールスエンジニア」と聞くと敷居が高く感じられることも多いが、伊藤氏は、自身がSIer出身であることを踏まえ「プリセールスというキャリアへの心理的ハードルを下げたい」と意欲を見せる。

 プリセールスエンジニアの役割を正しく理解するためには、セールスサイクル全体を見渡す視点が欠かせない。伊藤氏はこの全体像を「Pre-sales(販売前)」と「Post-sales(販売後)」の大きく2つのフェーズに分け、それぞれで関与する職種や活動の目的が異なることを示す。

「売る前」までのフェーズをプリセールスエンジニアが担当する
「売る前」までのフェーズをプリセールスエンジニアが担当する

 見込み顧客(リード)の獲得や選別を担当するのは、Sales Development Representative(SDR)や営業担当者だ。こうして商談化されたリードに対し、課題の深掘り(ディスカバリー)や技術的な評価支援、ソリューションの提案を担うのが、プリセールスエンジニアである。

 「売る前までがプリセールスの領域であり、我々の存在意義が最も発揮されるフェーズ」と伊藤氏。顧客の課題を正確に捉え、自社プロダクトによる解決策を設計していく姿は、単なる技術職というより「戦略的パートナー」と表現するほうがふさわしい。

 商談が成立した後のフェーズ、すなわちPost-salesにおいては、契約締結や導入支援、ユーザー教育、継続利用の促進といった活動が中心となり、ここではカスタマーサクセスマネージャーやプロフェッショナルサービス、サポートエンジニアが活躍する。プリセールスエンジニアはその前段階で顧客の信頼を得て、製品導入の意思決定を引き出す役割を担っているため、BtoB領域において極めて重要なポジションだと言える。

 ここで伊藤氏は、プリセールスエンジニアというロールに対して世の中に根強く残る誤解と、実際の業務とのギャップについても言及した。

 よくある誤解のひとつは、「どんな課題にも対応できる万能なコンサルタント」としてのイメージだ。確かに技術知識や業界理解は求められるが、プリセールスエンジニアはあくまで自社プロダクトやサービスを軸に、顧客の課題に対して最適な提案を行う役割である。あらゆる技術を横断的に扱う専門家というよりも、自社のソリューションを深く理解し、そのケイパビリティを的確に顧客に当てはめる「戦略的エンジニア」に近い存在だ。

 また、「話が上手ければ務まる仕事」といった見方も、現場の実態とはかけ離れている。むしろ求められるのは、顧客の発言の奥にある真の課題を見抜くリスニング力と、そこから論理的に解決策を導く思考力である。伊藤氏は、「プリセールスとは、話すよりもまず聞く仕事」であると強調したうえで、「1時間の顧客ミーティングで、45分以上も喋り続けるプリセールスは、むしろ失敗」と断言する。提案において重要なのは、製品のスペックを並べ立てることではなく、顧客が本当に困っていることを引き出し、それに応える形で提案を構築することというわけだ。

 こうした役割の本質を視覚化したのが、伊藤氏が提示した「課題とケイパビリティの交差点」を軸とする概念モデルだ。片側には顧客の持つビジネス/技術課題、もう一方には自社サービスの特性やプリセールスのスキルセットが配置され、それぞれの重なり合いが提案の質を規定する。

プリセールスエンジニアとしての価値提供を示す概念図
プリセールスエンジニアとしての価値提供を示す概念図

 もちろん、この重なりが最初から大きいわけではない。顧客課題を自社製品に寄せながら、同時にプリセールス側の理解を拡張していくことで重なりを広げ、最終的には「課題の本質に迫る提案」へと至る。これこそが、伊藤氏の言う「ソリューション提案における探索と拡張のプロセス」である。

 さらに伊藤氏は、外資系企業におけるプリセールスエンジニアの職務名についても補足した。実際の肩書きは企業によって大きく異なり、「Sales Engineer」「Solutions Engineer」「Solutions Architect」「Customer Engineer」「Presales Engineer」「Solutions Consultant」など、企業によって名称はさまざまだが、いずれも共通するのは「セールス組織の一員として提案活動を支えるロール」である点だ。

 「今の自分の肩書きはソリューションアーキテクトだが、やっていることはプリセールスエンジニアと変わらない」と伊藤氏。いずれにせよその職務の本質は、顧客対応や提案を中心とした、戦略的営業支援の役割なのだ。

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この記事の著者

水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

井山 敬博(イヤマ タカヒロ)

 STUDIO RONDINOのカメラマン。 東京綜合写真専門学校を卒業後、photographer 西尾豊司氏に師事。2008年に独立し、フリーを経て2012年からSTUDIO RONDINOに参加。 STUDIO RONDINO Works

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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