キャリアのロールモデルを見つけるために
「5年後、どうなっていたいか」という問いに、即座に答えられるエンジニアはそう多くない。日々の開発に追われるなかで、自分の将来像を描くのは決して容易なことではないからだ。
そんなときこそ、自分より少し先を歩くロールモデルの姿が、指針となる。本セッションは、現場の最前線で活躍するエンジニアたちのリアルな声を通じて、「EM(エンジニアリングマネージャー)」と「テックリード」という2つのロールの実態に迫るものだ。それぞれの立場から見える景色やキャリアの重ね方に触れることで、今後の進路に悩むエンジニアにとって、一つのヒントとなることを目指している。
企画の起点は、株式会社カケハシの小田中育生氏と翔泳社が手がけるWeb連載「エンジニアキャリア図鑑」。今回のセッションでは、実際にそのテーマを引き継ぎ、異なる立場で開発組織を支える実践者同士による対話が繰り広げられた。
モデレーターを務めた小田中氏は、ナビタイムジャパンでVPoE(Vice President of Engineering:開発組織全体を統括する技術部門の責任者)を担当し、現在はカケハシにて複数の開発チームを統括するEMとして活躍している。10年以上にわたってエンジニアのキャリアと向き合ってきた経験を背景に、「メンバーが自らのキャリアを自分の手でつかもうとする瞬間に立ち会うことに、深い喜びを感じている」という。
1人目の登壇者は、株式会社ログラスの塩谷知宏氏。大学院修了後に外資系研究所の研究員としてキャリアをスタートさせ、社内異動を機にエンジニアに転身。その後、複数社で新規サービス立ち上げやプレイングマネージャーとしての経験を重ね、現在は「Loglass 人員計画」のEMとしてチームを牽引している。
もう1人の登壇者は、同じくログラスの村本雄太氏。2021年に入社し、当時15人規模だった組織の成長を第一線で支えてきた。「Loglass 人員計画」の立ち上げ期からプロダクト開発を牽引し、現在はテックリード的な立場としてチームとプロダクトの両面をリードしている。前職ではインフラ管理やSREチームの立ち上げ、新規事業開発など多様な役割を経験し、そうした背景が現在の実践に生きている。
セッション本編では、まず小田中氏が、EMとテックリードという2つのロールを現場の当事者はどのように捉えているのかを問いかけた。
塩谷氏がマネジメントを担うのは、「Loglass 人員計画」の開発チームである。スクラム体制で日々の開発を進めつつ、EMとして、チームの枠を超えて組織全体への貢献を見据えた動きを意識しているという。目の前のコードだけでなく、その成果が事業価値につながるかどうかまでを俯瞰し、必要に応じて軌道修正を図っていく。「単なる進捗管理にとどまらず、組織全体との接続を設計していくことが、EMとしての重要な役割」だと語る。
一方の村本氏は、「ログラスには明確なテックリードというロールは存在しない」と前置きしたうえで、自身が実際に担っている業務について紹介。毎週月曜朝の「OKRトラッキング」では、事業部長やプロダクトマネージャーと共に、進捗状況や顧客の課題について議論を重ねていると話す。そのなかで、技術的な観点から提案を行い、改善策を模索する役割も担っているといい、まさに、エンジニアリングと事業をつなぐ橋渡し的な動きを担っていると紹介した。
両者の話を受け、小田中氏は「開発チームの中にいながら、他チームや事業側と連携して目標に向かう姿勢には、EMとテックリードに共通する部分がある」と指摘する。
ここで塩谷氏は、EMとしてもうひとつ意識している視点として、「リアクティブ(問題が起きてから対応する)」だけでなく、「プロアクティブ(起こり得る課題を先回りして動く)」な姿勢の重要性を挙げた。1on1やスクラムイベントなどを通じて顕在化した課題に対応するだけでなく、まだ形になっていない兆しにも目を配り、早い段階で手を打つ。「もちろん予測が外れることもあるが、『動かない』という選択肢はない」というのが、氏のポリシーだ。
この考えに、小田中氏も深くうなずく。「決まっていることはやれば済む。でも、決まっていないことに仮説を立てて動くのは難しい。だからこそ、そこにこそ価値があるし、面白さがある」。予定調和ではない未来に向けて、どこまで踏み込んで動けるか。その力が、ロールとしての真価を分けることになるのだ。
