決済サービス「fincode byGMO」の技術スタック
GMOインターネットグループで、決済にまつわる課題を解決するソリューションを提供しているのが、GMOペイメントゲートウェイと同社連結会社のGMOイプシロン。GMOペイメントゲートウェイは決済業界のリーディングカンパニーとして、総合的な決済関連サービス及び金融関連サービスを展開している。同社の総合オンライン決済サービス「PGマルチペイメントサービス」は、主にエンタープライズ企業や公的機関などに導入されている。一方のGMOイプシロンが提供しているのは、事業をスモールスタートで立ち上げたい事業者や、最短で決済システムを実装したい開発者に向けた決済サービス「fincode byGMO」だ。スタートアップやテクノロジー企業のスピード感に合わせて設計されており、開発をスムーズに進められるよう最適化されている。
fincode byGMOが開発された背景にあったのが、「自社のサービス開発が優先」「サービスの中の一部機能として存在する決済はなるべく工数をかけずに済ませたい」という事業者ニーズ。それに応えるべく、同プロダクトは申し込みから実装、運用に至るまでの一連の流れを効率化。エンジニア自身がドキュメントを見てすぐに試せる環境や、ノーコード/ローコードでの実装可能な開発支援アセット(SDKやUIコンポーネントなど)が多数提供されている。しかもメールアドレスひとつでアカウントを開設できるようになっている、登録後すぐにテスト環境が利用できるなど、エンジニアフレンドリーなプロダクトとなっている。
技術的な特徴の一つが、決済サービスのすべての機能をクラウド(AWS)上で運用していること。サーバーサイドはJavaフレームワークのSpring Bootで開発したAPI群をAmazon ECS クラスター上で展開するという構成で、フロントエンドはVue.jsのSPAで構築している。とはいえ、「決済処理のすべてがクラウドで完了するわけではない。バックエンドの決済ネットワーク接続はダイレクトコネクトを経由してオンプレミスの基幹システムを利用しており、高い安定性と効率的なネットワークコストを実現している」。こう語るのは、GMOペイメントゲートウェイの駒井氏である。
駒井氏はCOBOLプログラマーとしてのキャリアをスタートさせ、業務で経験を積む傍ら、独学でLinuxやJavaなどのオープン系の技術を勉強。「2000年代は個人でWebサイトを構築し、自宅サーバーで運営するなんてこともしていました」と明かす。2008年からは協力会社の立場でPGマルチペイメントサービスの立ち上げに参画し、翌2009年にGMOペイメントゲートウェイへ入社。画面作成(PHP)担当から始まり、サーバーサイド(Spring+Java)、インフラ、アーキテクチャ設計など、徐々にリードエンジニア的なポジションを担うようになったという。2016年よりプロダクトから離れ、同社サービスインフラのクラウド化や新規事業立ち上げなどに従事。現在はR&D研究開発室の室長として、データ分析基盤の構築、デザイン専門部署の組織化などに従事している。
開発効率とセキュリティを両立させるMCP対応
生成AIの伸展により、さまざまな業務領域でAI活用が進んでいる。GMOペイメントゲートウェイやGMOイプシロンでも同様でAIエージェント経由で決済機能を活用できる仕組みの開発に先駆的に取り組んで来た。駒井氏はその旗振り役でもある。
今年6月、fincode byGMOがAIエージェントと連携可能な決済サービスとしてMCPに対応した。MCPとは2024年11月にAnthropic社から発表されたAIエージェントと外部サービスを連携するためのオープンプロトコルだ。
今回のMCP対応では、次の2つのMCPサーバーを提供している。一つが開発ドキュメント検索のMCPサーバー。「fincodeのリダイレクト型決済を組み込むにはどうしたらいいですか」と入力すると、仕様書やAPIリファレンスを含むfincode byGMOの開発ドキュメントを高速検索し、AIが自然言語で回答してくれる。
これまで開発シーンで何か困ったことが生じると、開発者は自らfincode byGMOのWebサイトにアクセスして、ドキュメントを検索していた。しかしMCPに対応したことで、開発者はAIエージェントに入力するだけで、技術情報を得られるようになる。「効率的に自己解決できるようになり、開発スピードも上がり、開発者の開発負荷も軽減できる」と駒井氏。
もう一つが、リダイレクト型決済URLを作成するMCP。「1,000円の決済URLを作って」と入力すると、AIエージェントがfincode byGMOのAPIを実行し、リダイレクト型決済URLを即座に発行する。
MCP対応がエンジニアにもたらす最大のメリットは、「AIエージェントからfincode byGMOの決済機能を自然言語で操作できるようになること。それにより従来必要だった詳細なAPI仕様の理解やコーディング作業が不要になる点だ。開発コストや学習コスト、管理コストの大幅な削減が期待できる」とfincode byGMOのプロダクトマネージャーを務める中谷氏は語る。中谷氏は、2022年に新卒でGMOイプシロンに入社。元々は営業職だったが、開発やUIデザインの知識があったことから、今のポジションに転身。現在は、プロダクトマネージャーとして営業とエンジニアリングの架け橋的な役割を担っている。
例えば月謝制のサービスを提供している小規模事業者であっても、AIエージェントをハブにして、顧客リスト、電子メール、fincode byGMOを連携させることで、未払いの人だけに支払リンクを埋め込んだメールを送信する仕組みを簡易に実現できるようになるという。「ビジネスのバックオフィス処理と言えば決済や請求はつきもの。fincode byGMOのMCPを使えば、高価で時間のかかるバックオフィスシステム構築をすることなく、エージェントという形で容易にバックオフィスシステムを実現する助けになる。まだリリースして間もないのですが、今後、そのようなユースケースが多数、登場してくると想像しています」(駒井氏)
このようにMCPサーバーでは決済リンクを作成する一方、決済の内容には影響を及ぼさないようにしているという。その理由について駒井氏は「セキュリティやコンプライアンスに関する機密性の高い処理は、プライバシーマーク認証やPCI DSSの取得、ISMS準拠のセキュリティ基準を満たし堅牢性が確保されているfincode byGMOのサーバーサイドで完結させたいと考えたため」と言う。というのもAIエージェントが決済処理までを担うことは、まだ社会に受け入れられていないからだ。「現時点では、実際に決済行為を行うのは人にやってほしいというのが、社会が受容している範囲だと思う」と駒井氏は語る。
なぜ? MCPサーバーをOSSとして公開
fincode byGMOをMCP対応させたことも決済サービスとして際立つ取り組みだが、それ以上にユニークなのが、GitHubでMCPサーバーをOSSとして公開したこと。エンジニアフレンドリーな思想があるとはいえ、かなり思い切った取り組みだ。なぜ、OSSにしようと思ったのか。
「AI×決済を考えたときに、社会がどこまでAIを信頼し、どのようなユースケースでAIに決済をゆだねるか、状況は刻一刻と変容するだろうと考えた。従って、この時点では、OSSとして提供することでいかようにも変更できるという余地を残しておきたかった」と駒井氏は率直な思いを吐露する。
もう一つの理由が、提供スピードの問題。「今この時点でMCPサーバーを使ってAIエージェントで何か構築しようと考えている人は、我々が開発して提供するのを待つのではなく、OSSを使って必要な部分は自分たちで改変していくDIY精神を持った層ではないかという仮説がありました。そのため、改編する余地があるOSSとして提供し、開発者やAIエージェントをつくる人たちの反応を速やかに見たいと思いました」(駒井氏)
GitHubで公開することについても、意思決定をしたプロダクトマネージャーの中谷氏、駒井氏らは、「特に議論することもなく、OSSとしての公開は最初からごく自然な流れで進んでいったと思う」と振り返る。
自然言語でfincode byGMOの決済機能を実装できるようになるとは言え、本当に簡単にできるのか。駒井氏は「必要なアセットは、Claude DesktopなどのMCPホストとMCPサーバーの基本的な考え方の理解ぐらい」と話す。MCPサーバーを提唱しているAnthropic社の公式ドキュメントを確認することは前提として、あとはZennなどのエンジニア情報共有サイトの記事などを見るだけでも十分、理解できるという。そして一番大事なことは、「とりあえず、触ってみること」と駒井氏は言う。
先述したように、fincode byGMOはメールアドレス一つでテストアカウントが取得できる。あとはClaude DesktopにMCPサーバーを設定し、「1,000円の決済するURLを生成してください」と呼びかけるだけで、クレジットカード決済の仕組みができる体験ができるというのだ。
すでに活用したユーザーからは「自然言語のプロンプトで決済につながるところがいい」「簡単に作れて感動した」など、好評の声が届いているという。またGitHubで公開したことについては、AIエージェントを開発している企業から、「MCPサーバー自体はポピュラーになってきているので、インターネット上では様々な開発者によるMCPサーバーが公開されているが、公式が公開していること自体に価値がある」「公式のお墨付きなので、安心して使える」という声が届いているという。
「私たちのOSSを参考に、AIでやりたいことを実現してほしい」
現在はクレジットカード決済だけに絞っているが、今後、どのような展開を考えているのか。「今のところ明確なロードマップは決まっていません」と駒井氏。今は反響を見ている段階だからだ。「フィードバックが集まってきてから、次の一歩を決めようと思っています」と話す一方で、「例えば、決済ではなく、請求書機能をMCP提供して、支払を延滞している方に特別な請求書を出すみたいな処理にもマッチするかも」と可能性を語る。
これらはfincode byGMOのロードマップだが、駒井氏の頭の中ではfincode byGMO以外のプロダクトのMCP対応という展開も考えうるという。その背景には、「将来的に、AIが決済領域を担当するのは当たり前にしたいという」という駒井氏の思いがあるからだ。
というのも、今はまだAIエージェントを活用したシステム開発は、市民権を得た段階だが、今後は主流になっていくことが予想される。「fincode byGMOをエンジニアフレンドリーという観点に加え、AIエージェントの観点からも使いやすくしていかなければならない。AIネイティブ時代に選ばれる決済サービスにしていくことが重要」と駒井氏。そのための第一歩が今回のMCP対応だという。「ぜひ、自由な発想で触っていただき、感想を寄せてほしい」と駒井氏。
またOSSで公開しているので、その仕組みのシンプルさも見てほしいという。「RESTful API(REST API)が整備されているのであれば、MCPは非常に身近な世界。AIに習熟したエンジニアでなくても、AIエージェントと親和性の高いサービスの提供が可能になる。私たちのOSSを参考に、MCPの世界に触れ、AIエージェントによってやりたいことを実現する。そういうきっかけになればとても嬉しいですね。」(駒井氏)

