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キーパーソンインタビュー(AD)

「属人化テスト」からの脱却。AIを味方にして未経験者を即戦力にしたtoridoriのQA組織の作り方

 急成長する事業において、そのシステム開発のスピードに品質保証体制が追いつかない課題に直面する企業は多い。株式会社トリドリ(以下、toridori)でも、主力サービスであるインフルエンサープラットフォームサービスの拡大に伴い、エンジニア個人の裁量に依存したテスト運用の限界が顕在化していた。この課題解決のため、2025年3月から専任QAチームの立ち上げが開始。Claude CodeなどのAI活用によりテスト設計効率を30%向上させ、さらに半年間で200件の不具合を事前検出し、定量的なリリース判断体制を構築した。営業職からエンジニアへ転身し、QAチーム立ち上げを担ったエンジニアリングマネージャーの池田尚仁氏に聞いた。

プロダクトの成長で浮き彫りになった品質保証の課題とは

 toridoriは、マイクロインフルエンサーと企業のマッチングプラットフォームサービスを提供している。マイクロインフルエンサーとは、フォロワー数が数千〜数万人程度で、特定の分野やジャンルに特化したインフルエンサーのことだ。フォロワーとの距離が近く、投稿に対して「いいね」やコメントなどのリアクションを多くもらえるため、企業は自社の商材と親和性が高い層にピンポイントで効果的なアプローチをすることが可能になる。

 同社の主力サービス「toridori marketing(トリドリ マーケティング)」では、企業が商品やサービスのPR案件を作成してインフルエンサーを募集し、インフルエンサー側は「toridori base(トリドリ ベース)」というアプリ上で案件を確認してエントリーする。マッチング後、インフルエンサーはSNSで商品やサービスを紹介するという構造になっている。

 2025年に入り、同社はプロダクトへの投資を大幅に拡大。案件作成機能の大規模リニューアルをはじめ、さまざまな新機能開発が加速している。しかし、この成長に伴って品質保証体制の課題が浮き彫りになった。

 「特にテストを専門に行う、品質保証をミッションとして持っているチームがありませんでした。開発するエンジニアがそれぞれの裁量でテストを行っていました」と語るのは、toridoriでQAチームの立ち上げを担った池田尚仁氏だ。

株式会社トリドリ エンジニアリングマネージャー 池田尚仁氏
株式会社トリドリ エンジニアリングマネージャー 池田尚仁氏

 テストに関する課題の1つが、文書化の不備だった。インシデント発生時に必要となるテストのログやドキュメントが残っていないケースや、記録されていても統一フォーマットではなかった。そのため、リリース間での比較や分析ができない状態だった。

 「品質を上げていくためのPDCAをどう回したらいいのかが分析できない状況で、品質も統一されていませんでした」と池田氏は当時の課題を振り返る。

ゼロからQAチーム立ち上げて品質保証体制の確立を目指す

 この課題解消のため、QAチームの立ち上げを担当することになった池田氏。新卒から7年半を営業職として過ごし、30歳でエンジニアに転職した。toridoriではバックエンドエンジニアとして開発業務に従事していたが、2025年3月にQAチームの立ち上げを任された。現在は開発部でエンジニアリングマネージャーとして、QAチームと基盤システム開発を担う「基盤プラットフォームチーム」を統括している。

 QAチーム立ち上げの背景には、単純に不具合の多さという課題もあったが、それ以上に「プロダクトカンパニーとしての品質保証体制確立」という戦略的な意図があった。

 「2025年からプロダクトへの投資が大きくなり、今後プロダクトも多様なコンポーネントが増えたり、規模が大きくなってきたりします。品質を保証するための部隊や品質保証に対してPDCAが回せるような仕組みが開発の組織として必要になってきていました」と池田氏は立ち上げの経緯を説明する。

 チームの目標は、短期的には外部パートナーに依存しているテスト関連業務の内製化を目指し、長期的には、不具合がないことを前提としながらUX(ユーザー体験)を高めていく提案をQAチームが行えるようになるのを理想としている。

 「QAチームは社内で最もプロダクトを触る部隊の1つです。『ここをもっとこうした方がいいのではないか』『このようにしたほうが良くなるのではないか』と、改善の提案ができるようになっていきたいです」と池田氏は語る。

開発チームと協働するフラットなQA体制の設計方法

 QAチーム立ち上げで池田氏が特に重視したのが、開発チームとの関係整理である。まず責任分界点を明確にするため、「テストの計画と実施」「品質の状況の可視化と報告」「品質・開発プロセスの改善」「テストの効率化と仕組み化」の4項目に分けて、実行責任と最終責任を表で整理し、合意を取るプロセスを設けた。

 QAチームが品質情報を提供する一方で、リリース判断の最終責任はエンジニアリングマネージャーが持つという役割分担をした。「プロジェクトごとの不具合起票数と平均値との比較情報は提供しますが、リリース延期などの最終判断は現状QAチームでは行いません。ですが、組織のフェーズなどで変わる可能性があると考えております」と池田氏は説明する。

 協働体制構築でもう1つ重要だったのが、既存の開発フローとの親和性確保である。「なるべくエンジニア側の習慣を崩さないようにしたい」という方針のもと、QAチーム独自のツールを導入するのではなく、開発チームが普段使っているツールに合わせる選択をした。

 従来はNotionで行っていたテスト設計のレビューを、エンジニアが慣れ親しんでいるGitHubのレビュー機能に移行。また、不具合が発見された際の修正依頼についても、開発チームが日常的にタスク管理で使用しているLinear(プロジェクト管理・課題追跡ツール)で起票することで統一した。さらに、Linearで不具合が起票されると自動的にSlackにメンションが飛ぶ仕組みも整備し、エンジニアのコミュニケーションハブであるSlackに情報を集約した。

 「開発組織へQAチームの浸透を図るため、設計からリリースまでの既存フローを最大限に流用し、エンジニアの習慣変更を最小限に抑えるように心がけました」と池田氏は方針を語る。

 この取り組みの結果、上下関係やチームの隔たりなくフラットな協働関係を築くことができた。また、開発チームとの垣根をなくし「ワンチーム」として機能するため、QAメンバーがバックエンドエンジニア相当の知識を習得できる独自の研修プログラムを構築中だ。バッチ処理やSQLといった実務に直結する技術を体系的に学ぶことで、単なる画面上のテストにとどまらず、システム全体を理解した上で開発チームと同じ目線で課題解決できる人材の育成を目指している。

AI活用でテスト設計を30%高速化。未経験者の即戦力化方法

 QAチームの効率化において大きな役割を果たしたのがAI活用である。特にClaude Codeの導入により、テスト設計業務で顕著な成果を上げている。

 「Claude Codeを使ってテスト設計をする前とあとで比較すると、おおむねスピードは30%程度向上しました」と池田氏は効果を共有した。

 未経験者育成における効果もあった。未経験者が1か月目からテスト設計業務を担えるようになった例もある。「専門的な知識が不足していても、Claude Codeによってルールが体系化されているため、大まかな指示を与えるだけでも、要求に合致するアウトプットが得られます。そのため、未経験者でも早期にスキルを習得できるようになりました」と池田氏はAIの教育効果を評価する。

 AIによる育成手法も確立した。「なるべく早い段階でAIのツールを使ってもらうようにしよう」という方針のもと、新メンバーはDevin(AIコーディングエージェント)に仕様を質問しながら設計を進めることができるようになった。Devinは自然言語でのやり取りが可能だ。コード生成から調査まで幅広い開発業務をサポートできるため、未経験者がプロダクトの仕様を理解する際の頼りになる存在となっている。「メンターのような役割をAIがしてくれています」と池田氏は表現する。

 なお、toridoriでは2025年8月からAI活用補助制度を導入しており、従業員が希望するAIツールの導入費用を月額最大200米ドルまで補助している。池田氏も「AIのツールの導入に積極的であり、選べるツールが多いです」と語る。そんな環境が、QAチームの効率化、プロダクト品質の向上を後押ししているのだ。

煩雑な環境準備を巻き取り、実装に集中できる体制を実現

 toridoriのQAチームが扱う領域には、マッチングプラットフォーム特有の課題がある。企業とインフルエンサーという異なるステークホルダーのバランスを考慮する必要がある。「あちらを立てるとこちらが立たずといったことになる部分があると感じています」と池田氏は指摘する。

 技術的にも独特な課題がある。外部のSNSと連携する機能や、SNS側に投稿がないとうまく動かない機能があるのだ。そのため、自社システムだけでは完結しないテストが多い。機能の動作を確認するために、テスト用のSNSアカウントを作成してテスト投稿するなどデータ準備が必要になる場面もある。

 QAチームがこうした煩雑な環境準備を担うことで、開発エンジニアが実装に集中できる体制を構築している。「データ準備は、エンジニアにとって負担軽減になっていると思います」と池田氏は語る。

 QAチームは、池田氏1名から3名に拡大し、外部パートナー2名を含む5名体制で運営している。短期目標である内製化に向けて着実に進展する中、約半年間での成果も数値で表れている。

 「起票されてクローズされたチケットの数がおよそ200件あります」と池田氏は報告する。控えめに見積もっても100件のインシデントを未然に防いだ計算だ。

 より重要な成果は、リリース判断の品質向上である。「リリース判断を数値ベースで行えるようになりました」と池田氏は語る。従来の「何となく延期しよう」という曖昧な判断から脱却し、不具合起票率などのデータに基づく科学的な判断が可能になった。

 今後の展望として池田氏が描くのは、「シフトレフト」の実現だ。現在はリリース前にまとまって実施しているテストを、開発プロセスの早い段階に組み込んでいく構想である。「エンジニアが面倒だと思うテストを巻き取り、開発チームがより創造的な業務に集中できる環境をつくりたい」と池田氏は語る。 

職種の境界線は消える。「腹落ち感」を重視する育成と組織文化

 AI活用を通じてQAの業務に取り組む中で、池田氏は興味深い気づきを得ている。「実装担当とテスト担当、やっていることは同じでは?」という発見である。

 「要件をアプリケーションに変換する」のが実装であり、「要件をテスト用のフォーマットに変換する」のがテスト設計。元になる要件は同じで、アウトプットのフォーマットが違うだけという本質的な共通性に気づいた。

 この変化は職種の境界線にも影響を与えている。「QAと開発のエンジニアもますます境目がなくなっていく」と予測する池田氏。開発エンジニアもQAエンジニアも両方向のスキル習得の重要性を指摘する。

 一方で、QAエンジニアリングには未経験者でも参入しやすいという特徴がある。「比較的、QAエンジニアの方が門戸が広がっていると思います。バックエンドエンジニアと比べると、未経験の方でもなりやすい職種です」と池田氏は分析する。

 採用においても柔軟性を重視している。当初はQA経験者での募集をかけていたが、応募が少なかったため「組み込み系ソフトのテストのような業務をやったことがある」「何かしら仕組み化して改善した経験や、プロセスの改善をしたことがある」といった関連経験を持つ人材にターゲットを広げ、採用での成功を収めている。

 未経験者育成で池田氏が重視するのは「腹落ち感」である。表面的な知識ではなく本質的な理解を促している。

 教育について池田氏は「本質的な理解がなければ知識の定着度が大きく異なります」と語る。テスト技法を教える際も「こういう場合にはこの技法が有効です」という表面的な説明ではなく、「なぜその技法を選択するのか」「この問題が発生するとどのような課題が生じるか、だからこの手法が必要なのです」など、根拠まで踏み込んだ指導を心がけている。

 実務重視のアプローチも特徴的だ。「なるべく早く実務をやっていただくようにしている」という方針のもと、参画したばかりの新メンバーでも完了できるサイズにタスクを切り出して任せることで、実践的なスキル習得を促進している。

 品質保証という重要な責任を担いながらも、toridoriのQAチームは「正論をぶつける」姿勢を大切にしている。「プロダクトをよくするため」を前提として、開発チームに対しても「こちらの方が正しくないですか?」と率直に伝える文化を築いている。

 営業職からエンジニアとなり、現在はQAチームと基盤システムチームを率いる池田氏の挑戦は、プロダクトカンパニーとして成長するtoridoriを象徴している。池田氏は「QAチームの業務で最も面白かったのは、何もないところから、組織やワークフローなどの仕組みを1から作るところでした」と語る。急成長企業では、従来の枠にとらわれず、「プロダクトをよくする」ことにこだわった挑戦の機会が多数存在していることが想像できる。

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提供:株式会社トリドリ

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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