AIエージェント開発の潮流とバイブコーディング
AIエージェントはソフトウェア技術者を置き換えるのか? 現在、この問いはもはや机上の空論ではなく、現実的な論点になっている。Salesforceによる採用停止のニュースや、Metaのマーク・ザッカーバーグ氏による「AIエージェントが中級技術者と同等のコーディング能力を持つようになる」という発言は、業界に少なからぬ衝撃を与えている。
本セッションの登壇者である三菱電機株式会社・奥田勝己氏は、先端技術総合研究所においてプログラミング言語やコンパイラの研究に長く携わってきた。近年はLLMとプログラミング言語を組み合わせた研究に注力している。その経験に基づき、「AIが人間を代替するのか」について、現場の実務に根ざした冷静な視点を提示する。
まず、AIエージェントとは何か。奥田氏はこれを「LLMとツールを組み合わせたもの」と定義する。ChatGPTやClaudeといったチャットボット単体とは異なり、Web検索、計算、ファイル操作などツールを介して自律的に外部環境とやり取りできる点に特徴がある。GitHub Copilot、Cursor、Clineのような開発支援ツールも、広義にはAIエージェントとみなせる。
そして、この流れで登場した開発スタイルが「バイブコーディング(Vibe Coding)」だ。直訳すれば"雰囲気コーディング"で、エンジニアがほとんどコードを書かず、自然言語のプロンプトだけでソフトウェアを構築するアプローチのことを言う。
ここで奥田氏はバイブコーディングのデモンストレーションとして、自作の簡易衛星シミュレーターを紹介した。「準天頂衛星のシミュレーターを作りたい」と指示すると、AIは即座に初期コードを生成し、動作する画面を構築。「表面をもっとリアルに」「軌道を物理法則に合わせて修正して」とフィードバックを与えると、描画や挙動の精度が段階的に向上していった。人間はコードを書かず、生成されたプロトタイプのレビューと指示に専念することになる。
このプロセスはアジャイル開発との親和性が非常に高い。「1回のイテレーションで必ず動くソフトウェアを出力し、バックログ(プロンプト)を消化していく。このサイクルを高速に回せば、従来は数週間を要したスプリントを1人でも短期間で完了できる」と奥田氏は話す。
この変化はスクラムマスターや開発メンバーといった役割の再定義を迫るだろう。しかし、それはただちにエンジニアの仕事が消えることを意味しないと奥田氏は話す。「AIは間違えることもあり、正しくても最善の答えとは限らないという前提に立ち、適切なフィードバックで修正を促すことが、これからの開発の肝になる」と強調した。
