クラウドネイティブ化やAI導入でシステムの複雑性が増す中、従来の「監視」は限界を迎えつつある。コスト高騰やベンダーロックインといった課題に、世界標準「OpenTelemetry」はどう答えるのか。OpenTelemetry共同創設者であり、元VFXアニメーターという異色の経歴を持つTed Young氏に聞いた。映画制作の現場で分散システムの課題に直面し、エンジニアへ転身した同氏。彼が提唱する「垂直統合から水平分業へ」という思想は、日本の開発現場をどう変えるのか。AI時代の新たなオブザーバビリティの未来に迫る。
VFXアニメーターからクラウドの世界へ飛び込んだ異色のキャリア
──TedさんはかつてVFX(Visual Effects)業界でアニメーターとして働かれていたと伺いました。エンジニアとしてはユニークな経歴ですが、なぜ異なる分野へ転身されたのでしょうか。
Ted Young氏(以下、Ted):確かに少し変わった経歴に見えるかもしれませんが、実際にはそれほど遠い世界ではありません。私が携わっていたのは手描きではなく、コンピューターアニメーションだったからです。
かつて友人たちと「Palma Visual Effects」というスタジオを立ち上げ、その後「Laika」というスタジオで映画『コララインとボタンの魔女』などの制作に携わりました。
VFX、特に完成品のレンダリングは計算負荷が非常に高く、サーバーファームでの並列処理が必要です。「どう負荷を分割するか」「なぜ遅いのか」「なぜ壊れるのか」。これらは今日のクラウドコンピューティングにおける課題と全く同じです。
その後、気候変動問題へ関心を持ち、アニメーション業界を離れ、「伝えること(コミュニケーション)」に興味を持ち、ウェブプログラミングの世界へ移りました。そして、より安定した環境でコンピューティングに集中するため「Cloud Foundry」に参加し、Kubernetesに似たコンテナスケジューリングシステムの設計に携わりました。
現在は趣味として実写映画の制作を行い、仕事としてはクラウドコンピューティングの分野に携わっています。この組み合わせが、自分には合っていると感じています。
──そこからどのようにして、OpenTelemetryの立ち上げに至ったのですか。
Ted:分散システムの作業をする中で、当時のデバッグツールやオブザーバビリティ(可観測性)の現状に不満を感じ、「もっと良くできるはずだ」と考えたのがきっかけです。 そこで分散トレーシングについて学び、「OpenTracing」というプロジェクトの立ち上げを支援しました。最終的に、Google発のプロジェクト「OpenCensus」と合併し、「OpenTelemetry」が生まれました。
オブザーバビリティ「3つの柱」の実態とOpenTelemetryの役割
──OpenTelemetryプロジェクトを始める必要性を感じたのはなぜでしょうか。当時の業界にはどのような課題がありましたか。
Ted:オブザーバビリティを変える必要があると感じたからです。以前は「メトリクス」「ログ」「トレーシング」が「3つの柱」だと言われていましたが、実際にはトレーシングを使っているのは一部の巨大企業だけで、実質は「2つの柱」でした。しかも、それらは分断されていました。メトリクス用、ログ用とツールが別々に存在し、垂直統合された「サイロ」を作っていたのです。
正しく設計するなら、これらは統合されるべきです。トレーシングこそが、メトリクスとログをつなぐ有用なコンテキスト(文脈)を提供します。デバッグの際、人間がツール間をつなぐ「接着剤」になるのではなく、コンピューターがその役割を果たすべきだと考えました。
もう一つの重要な点はOpenTelemetryが「オープンソース」であることです。SolarWindsのサプライチェーン攻撃が良い例ですが、セキュリティの観点からも、企業がプロプライエタリ(独自)なエージェントをシステムに組み込むことは時代遅れになりつつあります。
データの生成(テレメトリー)部分を標準化し、オープンにすることで、ユーザーは透明性を確保できます。そしてベンダー側も、「集めたデータでどう分析するか」の部分で競争できるようになるのです。
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近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)
株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...
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