データベース設計にはリカバリー困難な「落とし穴」が存在する
「t-wada」の名でも知られる和田卓人氏は、テスト駆動開発の実践者として広く知られる存在だ。本セッションでは、刊行されたばかりの『SQLアンチパターン 第2版』を題材に、AI時代におけるデータベース設計の危うさと、その回避策について語った。
2025年現在、ソフトウェア開発の現場は、AIによるコーディング支援に始まり、自然言語により実装を指示する「Agentic Coding」が広がるなど、大きな変革期を迎えている。ゼロからコードを書くのではなく、AIに補助させながら実装を進めることは、もはや特別な行為ではない。事実、UIやアプリケーションコードであれば、生成しては直し、気に入らなければ捨てるといった試行錯誤が容易であり、失敗のコストも比較的低い。
「しかし、データベースはそうはいかない」と和田氏は強調する。ひとたび投入されたデータは履歴として残り、欠落したデータは原則として取り戻せない。後からスキーマを修正すること自体は可能でも、既存データとの整合性を保つには大きな負担を伴う。失敗にはリカバリー容易な失敗/困難な失敗があり、データベース設計は明確に後者(リカバリー困難)だというのだ。
こうしたリカバリーが難しい失敗、すなわち「落とし穴」は、長らく体系化されてこなかった。その結果、別々の現場で、別々の人が、同じ落とし穴に何度も落ち続けてきた。この状況を変えるために和田氏が監訳者として上梓した書籍こそ、初版の『SQLアンチパターン』だ。
12年前に刊行された初版『SQLアンチパターン』は、SQLの書き方だけでなく、データベース設計やアプリケーション開発までを射程に収め、実務で陥りがちな25の失敗例を体系化した書籍だ。論理設計、物理設計、クエリ、アプリケーション開発という4つのカテゴリに整理された構成は珍しく、現場の課題に直結する内容として高く評価された。和田氏が解説・監訳を務めた同書は、その後12年間にわたって読み継がれ、累計3万部を突破するロングセラーとなっている。
そこから時を経て、このたび新たに刊行されたのが『SQLアンチパターン 第2版』だ。ページ数が増え、新章の追加や既存章の大幅な改訂が施された。中でも、アクティブレコードをアンチパターンとして扱っていた章が削除された点は象徴的だ。この選択には、RailsやLaravelといったフレームワークで広く使われ、実運用で成果を上げてきたパターンを単純に「悪」と断じられなくなったという事情が反映されている。
一方で、本書の骨格そのものは初版から変わっていない。第2版においても4部構成を維持し、アンチパターンを体系的に整理するという基本方針は踏襲されている。書名から「SQLの書き方の本」と誤解されがちだが、実際にはデータベース設計からアプリケーション実装までを射程に収めている点こそが、本書の一貫した特徴だ。特に第1部の論理設計は、誤った判断が最も大きなダメージにつながる領域であり、良かれと思って選んだ設計が深刻な問題を引き起こす典型例が数多く紹介されている。
