AI-DLCとは何か——「計画→質問→レビュー」でAIと人間の速度を合わせる
AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)とは、大規模で複雑なシステム構築のためのツール・役割・方式を統合した、AIネイティブな開発プロセスだ。AI-ManagedとAI-Assistedの中間に位置し、AIが生成・提案した内容を人間がレビューして意思決定する。最終的な責任は人間が担う。
設計の背景にあるのは、開発に潜む大量の「待ち時間」への問題意識だ。複数チームをまたぐ調整で要件定義だけで2〜3カ月かかるケースも珍しくない。こうした非効率を根本から解消するために、AI-DLCは誕生した。
鍵となる考え方が「生成の前に計画を立てさせる」ことだ。AIへの依頼時にいきなり出力させるのではなく、まず計画を先行させ、理解できない点を質問させ、その回答で補正した上で成果物につなげる。「AIの生成速度と人間の意思決定の速度を合わせて高速化しています」と福井氏は説明する。
AI-DLCは3つのフェーズで構成される。最初のInceptionフェーズは要件定義に相当する段階だ。特徴的なのが全員参加の「モブ形式」で、PdMがAIとやり取りする場面に、デベロッパー・テスター・UIデザイナーが同じ部屋に集まってリアルタイムでディスカッションに加わる。引き継ぎコストをなくし、全員が同時に理解を深めることが狙いだ。「通常5人・10人で2〜3カ月かかる工数が、このフェーズでは4〜8時間で完了します」と福井氏は語る。
Inceptionが終わると、ユーザーストーリーをユニット単位に分割し、2〜3名のチームで並列開発するConstructionフェーズへ移行する。設計・実装・テスト・IaCによるデプロイまでをこのフェーズで担い、最後のOperationフェーズで運用とインシデント管理を行う。3フェーズは一巡で終わらない。AIの出力はその場で修正も廃棄もできるため、何度でも繰り返せる。
成果は数字に表れている。AWSがグローバルで150〜200社、日本国内でも20数社と取り組んできた結果、平均66%の生産性向上を記録した。リリースにかかる工数は従来比で約3分の1に短縮された計算になる。「3カ月かかっていたボリュームのものが、3日でリリースできた事例も実際に起きています」と福井氏は明かす。
プロダクション品質のサービスも1人で開発──AI-DLCの威力
AI-DLCを導入するためのリソースは、AWSが複数の経路で用意している。ホワイトペーパーやセルフペースワークショップをはじめ、AWS Builder Centerにはさまざまな情報が集約されている。実践の入口として活用しやすいのが、GitHubで公開中のAI-DLCワークフローだ。ステアリングファイルとルールファイルのかたちで提供されており、Amazon Q DeveloperやKiro、Cursor、Cline、Claude Codeといったコーディングエージェントに組み込むことで、プロセスに沿ったワークフローが自動的に動き出す。「次に何をすればいいかを、AIが全部教えてくれます」と福井氏は強調する。
セッションではKiroを使ったライブデモが披露された。「フードデリバリーシステムを作りたい」と入力すると、AIはまずInceptionフェーズの概要を説明し、すぐに情報収集を始める。主なユーザータイプ、対象プラットフォーム、決済機能のスコープ、マイクロサービス構成の採否、技術スタック——これらを選択肢形式で次々と質問してくる。「MVPとして決済はモックで構わない」「マイクロサービスで最初から構築する」と、人がスコープを意思決定しながら答えていく様子が示された。
回答が揃うとRequirementsファイルが自動生成され、設計・実装フェーズへとシームレスに移行する。実装後はユニットテスト・インテグレーションテスト・E2Eテストが順次追加され、全テストが通過するまで繰り返す。
完成したシステムは、AWS上で実際に稼働する本格的なものだ。顧客が注文を入れるとレストラン管理システムが受け取り、調理が始まる。調理完了から配送完了まで全てのビジネスイベントはEventBridgeを経由して伝播し、各ドメインはECS上のコンテナで稼働する。IaCによるデプロイまで含め、プロダクション品質に仕上がっていた。「このシステムをチームで作るとしたら、何カ月かかりますか」——会場に問いかけた福井氏は、仕事の合間に1〜2時間ずつ積み重ね、64時間(8人日)ほどかけて個人でここまで作り上げたと明かした。AI-DLCが実現するポテンシャル感じさせれるでデモだった。

