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【RubyKaigi'08】「Rubyを仕事に2008」まつもとゆきひろ×最首英裕対談

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2008/06/21 00:00

日本Ruby会議2008「0th day」(6月20日)では、メインセッションとしてRubyの生みの親まつもとゆきひろ氏と、Rubyビジネス・コモンズ(RBC)を主催する最首英裕氏(株式会社イーシー・ワン代表取締役社長)による対談「Rubyを仕事に2008」が行われた。

今のエンタープライズRubyは、10年前のJavaのようだ

 JavaとRubyをメインの開発言語としている最首氏が、開発の現場におけるJavaとRubyを比較すれば、まつもと氏もそれをうけて「Javaの良いところは受け継いで、悪いところは同じ轍を踏まない」ようにしたいと語った。エンタープライズ分野でも完全に使われつつあるRubyが、10年は先行して実績のあるJavaからなにを学ぶことができるのだろうか。

 1996年ごろのインターネットブームの最中にJavaが登場してきたとき、最首氏自身は「これで開発すれば早いのではないか」と可能性を感じたが、周囲には批判的なひとが多かったという。しかし、批判している人が多いということは「やっている人」も少ないはずだと判断し、JDK 1.1のころにイーシー・ワンを立ち上げた。すぐにブレイクして、4年で会社をJASDAQ上場を果たし、以降もJavaを専門に開発を続けてきた

JDK 1.1
 1997年2月にリリースされたバージョンで、日本語化を含む国際化、JavaBeans、JDBCなど現在につながる重要な機能が追加された。

 それがRubyに取り組み始めたのは3年ほど前のこと。B2Cのソリューションとして、Javaでは顧客の「尺に会わない」ことが出てきたためだ。Rubyを検討して導入した際に驚いたのは、社員がとても喜んで積極的に取り組みはじめたこと。社内にRuby専門チームを立ち上げ、社員同士による社内教育も実施したため、今では社員の8割がRubyも使えるようになって「専門チーム」は解散、新規の案件でRubyの話を入れないことはないという。

 RubyがJavaに対して優位なのは、いわゆるアジャイル開発においてだと最首氏は語る。肥大化したエンタープライズJavaに比べると、顧客から要求されたことをいち早く目に見える形にしやすい点が大きな利点であり、早い段階で足がかりとなるものを見せながら、イテレーションを繰り返して開発を進めていく。また学習曲線の速さ、教育コストに関してもRubyには利があるという。実際の開発では、大量のバッチ処理やメインフレームとの連携などはJavaで開発し、その周辺にRubyを使い、クライアントサイドはSwingAPIというように使い分ける。

右から対談中のまつもと氏、最首氏、司会の高橋氏
右から対談中のまつもと氏、最首氏、司会の高橋氏

まだ評価の定まらないエンタープライズRubyだが、今後は急激に導入される可能性も

 このようにエンタープライズ分野でも実用されつつあるRubyだが、顧客企業からの評価はまだ定まっていないようだ。「Javaは信頼できるが、Rubyは信頼できない気がする」といった人がいるそうだが、最首氏によれば新しい技術に対してはだいたい同じような傾向があり、今でこそ信頼できるといわれるJavaも10年前は、今のRubyよりもっとボロクソにいわれていたと振り返る。一方で、Rubyの信頼性を検証して「十分のパフォーマンスと信頼性を持っている」と結論した大手企業もある。不安な企業は、知らないからだろうという。

 それをうけて、まつもと氏も「本質的じゃない、本当はたいしたことじゃないところを重視されるのは困る。Rubyはたいがいの(エンタープライズ分野の)仕事には十分速い」と語る。また逆に、実態を超えて極度に高い期待をしているひともいる。変更に強い傾向はあるけど、カットオーバーの直前まで仕様変更に対応できるわけではないと苦笑する。

 また最首氏も、Railsのパフォーマンスは決して褒められるほど速くはないが、パフォーマンスのボトルネックとなるのはだいたいデータベースなどであり、Ruby 1.8でもさほど問題になることはないという。むしろRubyのパフォーマンスが問題になるくらいトラフィックを集められれば「万々歳じゃない?」と笑わせた。

 このように現在は良し悪し両面からの誤解があるが、だんだんわかっているひとが増えてくると、導入が急速に進む可能性があると最首氏は語る。「Javaのときもそうだったが、急激に倒れてくる傾向がある」という。開発言語の決定は、非技術的なところで決まることが多く、ある特定のシステムにアクセスするライブラリがあるがないか、開発者の人数が確保できるか、客の好み、といった障壁があるが、だんだん解消されているという。

 一方で、Rubyはこれまで先端的なプログラミング言語であり、新しいもの好きの「とがったひと」が使ってきたが、これからは普通の言語になっていき、今年あたりから「やらされました」レベルの開発者も増えてくるだろうと予想する。最首氏が「もう『Rubyを知ってる』というだけで信じてはいけない」といえば、まつもと氏も「今までのとんがった人たちが『もう飽きたからほかの言語に行こう』と言わないように新しい何かを用意しなきゃ」と語った。

 ただし今現在のRubyエンジニアは、Javaなどに比べれば人数を確保しづらい状況にある。これからRubyエンジニアは間違いなく増えていき、これまでCOBOLやVBしかやってなかったプログラマですら参入してくるかもしれないくらいほど間口は大きいが、現状についてはRubyを使った大規模開発が増えてきて、誰に聞いても「Ruby技術者が足りない」という状況なので「この会場にいるひとはチャンス! 人材として価値が高い」とし、人材が飽和する前に地位を築くべきだと冗談めかして奮起をうながした。

コミュニティとビジネスの架け橋に

 今後Rubyエンジニアが十分に活躍するためには、既存のRuby技術者のコミュニティと、ビジネスの言葉をしゃべるひとの間を取り持つ役割が必要になる。そこで期待されるのが、最首氏が主催する「Rubyビジネス・コモンズ(RBC)」と、まつもと氏が理事を務める「Rubyアソシエーション」だろう。

 最首氏がRBCを立ち上げたのは、昨年7月。これまでに獲得できたRubyのノウハウを「投資してしまおう」という意図だという。また自治体の支援も得られたことで、敢えて東京ではなく福岡で立ち上げた。490名のメーリングリスト参加者のうちエンジニアの比率は7割で、あとはデザイナーやコンサルタント、営業・企画職などからの参加もあり、このような多彩な会ができたのも「Rubyのたたずまい」が影響したのではと語る。

 まつもと氏も、今までとは違う感じのかかわり方を要求されるひとが増えてきたため、ビジネスのひとがほしいがコミュニティからは出てこないようなことに対応するため、Rubyアソシエーションという組織を作ったという。

 たとえば実際に仕事をするときに技術者の質をコストをかけて判別できないので、そのための指標がほしいという声に応えて、CTCとともに昨年10月から「Ruby技術者認定試験」をはじめた。これは4月からPCベースの試験になったので、47都道府県どこでも受験できる。いまは「シルバー」しかないが、将来的にはもっとレベルの高い「ゴールド」や「プラチナ」も用意したい。また試験の利益をもとに、ミニ「Google Summer of Code」みたいなものも企画したい、と構想を語った。

 最後に最首氏は、企業が開発プロセスとしてRubyを利用できるかどうか、ユーザー企業も自分の目で確かめてもっと勉強すべきだとしつつ、「根拠を聞かれても上手く答えられないが、ここまできたら(エンタープライズRubyの成功は)もう時間の問題だ」「テクノロジーの可能性は大きい。それを技術者の中だけにとどめてはいけない。技術が実現できることをもって、非技術者の輪の中にもイノベーションを起こそう!」と熱っぽく語り、Rubyによるイノベーション=「ルビノベーション」という造語を紹介した。

 まつもと氏は、いまのRubyは「遅い」「技術者がいない」「しかし最新の技術だと思われている」の3点において、10年前のJavaと同じ状況なので、その後10年間でJavaで起きたようなさまざまな技術の進化がこれから10年間のRubyでも起きるのではないか、そう思うと「わくわくする」と語った。一方でJava開発の現在は「わくわくしながらJavaを使ってるひと」が減っているようにも見えるため、Rubyは今後もわくわくする言語であるよう「Javaの良いところは受け継いで、悪いところは同じ轍を踏まない」とまとめた。

 【関連リンク】
Rubyビジネス・コモンズ - コモンズ・サイト
Rubyアソシエーション

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