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「IBM Q」に学ぶ量子コンピューターの基本と未来【デブサミ2019】

【15-A-2】IBM Q - 量子コンピューターの最前線

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2019/04/18 12:00

 量子力学の原理を活用する量子コンピューターは、超並列計算処理でモデル化・定式化した問題を解くことができることから、これまでは計算が終わらないために近似解しか得られなかった問題の解が現実的な時間内に求められるとし、ビジネス領域での活用含めて大きな注目が集まっている。そんな量子コンピューターを理解するために、日本アイ・ビー・エムの東京基礎研究所で副所長を務める小野寺民也氏が解説した。量子を使うとはどういうことか、量子コンピューターの開発はどこまで進んでいるのか、そしてIBMが開発した世界初の汎用近似量子コンピューティング統合システム「IBM Q System One」とはどんなものなのか。量子コンピューターの今後やIBMが目指す未来についてお伝えする。

日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 副所長 技術理事 小野寺民也氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 副所長 技術理事 小野寺民也氏

量子コンピューターが注目される理由

 量子コンピューターは、伝統的なITとは少し異なる分野で育ってきたもので、分かりづらい部分が多い。それでも現在、学術領域やビジネス領域などから熱い視線を注がれているのはなぜなのか。日本アイ・ビー・エム(以下、IBM) 東京基礎研究所 副所長 小野寺民也氏が量子コンピューターの基本から現状、そして未来についてひも解いた。

 量子とは、粒子と波の性質を併せ持つ物質やエネルギーの単位を指す。量子は、0と1のどちらでもある状態をとることができ(量子重ね合わせ)、2つないし複数の量子ビットが互いに相関を持つことができる(量子もつれ)。量子コンピューターではこれらの性質を持つ量子ビットを作り、微細に制御して量子の状態を変えながら計算していく。

 方式は、ゲート速度(演算の速さ)とゲート忠実度(演算操作の正確性)によって複数存在する。中でも最も有力視され、研究が最も進んでいるのが「超伝導回路」と「イオントラップ」だ。IBMでは、超伝導回路の量子ビットを持つ量子コンピューターの開発に取り組んでいる。

 量子ビットの状態を操作しながら計算するのが、量子プログラムだ。量子ビットの状態を操作する「ゲート」と呼ばれる演算子が複数あり、量子重ね合わせや量子もつれを生成する。読み出す結果は、0か1になる。どちらになるかは、重ね合わせの状態によって決定する。そのため、同じプログラムを、多数回(数百回から数千回)実行し、結果の分布の中から答えを探り出すことになる。

量子プログラムの例
量子プログラムの例

 そんな量子コンピューターが注目されている理由は何か。小野寺氏はそのひとつに「潜在的な計算パワーが指数関数的に増大する点」を挙げた。

 「量子ビットの数がn個あれば、潜在的な計算パワーとして2のn乗の計算ができる可能性がある。nが10であれば1000、20であれば100万、50であれば1000兆と、並列度は急激に上がる」

 例として、米国オークリッジ国立研究所に昨年納入された、世界スパコンNo.1の「Summit」を紹介。テニスコートの約2面分に256ラック並べた規模のもので、1ラックに「IBM Power System」が18ノード搭載されており、1ノードには6枚のGPUが刺さっている。小野寺氏は「かなり強引だが」と前置きをしつつ、並列度を計算。「GPU1枚で5120程度の並列計算ができるので、だいたい1億42368768、つまり2の27乗と28乗の間くらいの並列計算ができる」という。

 これが50量子ビットのコンピューターであれば、この800万倍の並列計算が可能となる。

 もっとも、パワーを発揮するには量子回路が必要だ。量子ゲートを配置して量子回路を設計、量子アルゴリズムを実装することで、初めて計算ができるようになる。

 量子アルゴリズムについては、素因数分解のアルゴリズムが1994年、ピーター・ショア氏によって発見されている。

 「インターネットバンキングやEコマースなどでは2024ビットのRSA暗号が採用されている。なぜなら、実用的な時間での解読は不可能とされているからだ。しかし、ショア氏の発見した量子アルゴリズムでは、量子コンピューターの性能にも依存するが、2048ビットでも数時間で解読可能とされている」

「IBM Q」で描く量子コンピューターの未来

 IBMは、さまざまな量子コンピューターの研究開発に早期より着手し、中でも超伝導量子ビットを使った万能量子コンピューターの開発に注力している。しかし課題も多いという。

 例えば超伝導量子ビットは、励起状態や重ね合わせの状態を、マイクロ秒の単位で2桁程度の時間しか保つことができず、その時間内に実行したい計算を終わらせなければならないといった制約がある。ゲートによる量子ビットの状態の操作は、いつも正しく行われるわけではなく、一定の確率で失敗してしまう。結果を読み出す際も間違える可能性がある。こうした理由から、現状の量子コンピュータは、近似的でスモールスケールなものだ。「現在のスパコンではできない計算ができる、というわけではまったくない」と小野寺氏は明かす。

 いずれは、数百万や数億量子ビットでエラー耐性のあるラージスケールの量子コンピューターが開発される。そんな期待はあるものの、実現するのはまだ数十年先と小野寺氏は展望を示す。

 ただし、近似ではあるがミディアムスケールの量子コンピューターであれば、数年後に登場する可能性はある。現時点のスパコンにはできないことができ、しかも機械学習や量子化学、最適化といった領域に役立つアプリケーションも開発される可能性も低くはない。予測段階ではあるが、期待を込めて多くの企業が投資をしているという。

 そうした流れで登場したのが、汎用近似量子コンピューティング統合システム「IBM Q System One」(以下、IBM Q)だ。IBM Qは、超伝導回路の量子ビットを採用しているので、絶対温度0度近くに冷却した、雑音のない世界で動作させることが必須だ。そのため、IBM Qには希釈冷凍機が取り付けられている。講演では、量子プログラムからマイクロ波でエレクトロニクスを制御しつつ、希釈冷凍機にマイクロ波を送り込んで量子状態を操作、結果を読み取るまでの流れをアニメーションで紹介した。

 IBMは、2016年5月に5量子ビットの量子コンピューターを、2017年5月には16量子ビットの量子コンピューターを発表した。その後、2017年11月には商用向けの20量子ビットの量子コンピューターの提供と、50量子ビットのプロトタイプの準備を発表。2019年1月にアメリカで開催された「CES 2019」ではガラスケースに入ったIBM Q System Oneが展示され、世界の話題をさらった。希釈冷凍機なども併せて改善され、ゲート演算のエラー率は第1世代の20量子ビット「Austin」の9.68%から、第2世代の20量子ビット「Tokyo」の7.79%へと向上している。

 ソフトウェアについては、SDKの「Qiskit」が2016年7月より公開されており、誰でもIBM Q向けのプログラムを書くことができる。2018年半ばには、量子化学、機械学習、最適化の各アプリケーション開発向けの「Qiskit Aqua」を公開した。

 このほか、量子コンピューターの研究開発を加速化させるため、IBMは学術機関や企業、スタートアップなどグローバルなネットワークの構築にも取り組んでいる。国内では、慶應義塾大学理工学部の矢上キャンパス内に量子コンピューターの研究拠点「IBM Q Network Hub」を開設。同ハブを介して米ニューヨーク州のIBM Thomas J. Watson Research Centerに設置された最上位の量子コンピュータにクラウドアクセスすることが可能で、量子コンピューティングや量子アプリケーションの研究開発を支援する。

 ラージスケールでエラー耐性の高い量子コンピューターを目標に、一歩ずつ未来へと歩を進めるIBM。同社の量子コンピューターは「IBM Q Experience」のクラウドサービスで体験できる。

 「量子の夢の世界は、弊社だけで目指すものではない。さまざまなパートナーとともに量子の旅を続けていく。それがIBMの理想とする未来だ」

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 日本アイ・ビー・エム株式会社

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  • CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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