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開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー

「デリゲーションポーカー」で不透明な役割分担をカイゼンする~権限委譲のプラクティス

開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー 第3回


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 この連載では、開発現場で実践できるカイゼンのやり方と考え方について、お伝えしていきます。下敷きになっているのは、「カイゼン・ジャーニー」という書籍です。「カイゼン・ジャーニー」も、現場のカイゼンがテーマになっています。この新たに始める連載は、内容としては書籍を補完するもので、チームが現場でこのWebページを開きながら、実際にふりかえりをしたり、カンバン作りをしたりできるように作っています。本を開きながらより、Webページをモニタに映す方が、ワークショップもやりやすいですよね :) また、読者の皆さんが実際の状況を重ね合わせられるよう最初にストーリーがあり、その後解説が続く、といった構成にしています。ストーリーでは、カイゼンを実施するにあたってどんな背景や課題を想定しているかを描いています。よく知らない手法については、ストーリーに目を通すようにしてください。

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 このお話の舞台は、飲食店の予約サービスを提供するIT企業のプロジェクトチーム。ツワモノぞろいのチームに参加した新人デザイナーのちひろは、変わり者のメンバーたちに圧倒されながらも日々奮闘しています。第3回となる今回のテーマは「権限委譲」です。

登場人物

和田塚ちひろ(25)この物語の主人公。新卒入社3年目のデザイナー。わけあって変わり者だらけのプロジェクトチームに参加することに。自分に自信がなく、人に振り回されがち。

和田塚(わだづか)ちひろ

この物語の主人公。新卒入社3年目のデザイナー。わけあって変わり者だらけの開発チームに参加することに。自分に自信がなく、周りに振り回されがち。

御涼()プログラマー。物静かだが、今後もちひろをよく見て助けてくれるお姉さん。

御涼(ごりょう)

物静かなプログラマー。チームではいろんなことに気を回すお母さんのような存在。今後もちひろをよく見て助けてくれる。

鎌倉()社内でも有名な凄腕のプレイングマネージャー。冷静で、リアリストの独立志向。ちひろにも冷たく当たるが…

鎌倉

業界でも有名な凄腕のプレイングマネージャー。冷静で、リアリストの独立志向。ちひろにも冷たく当たるが…

藤沢()頭の回転が早い、このチームのリードプログラマー。鎌倉の意向をうまく汲み取る。

藤沢

チームのリードプログラマー。頭の回転が速く、リーダーの意向を上手くくみ取って、チームのファシリテートにもつとめる。

境川(?)ほぼしゃべらない。実はチーム随一の天才プログラマー。自分の中で妄想を育てていて、ときおり滲み出させては周りを慌てさせる。

境川(さかいがわ)

彼の声を聞いた人は数少ない。実は社内随一の凄腕プログラマー。自分の中で妄想を育てていて、ときおりにじみ出させては周りをあわてさせる。

片瀬()インフラエンジニア。ちひろのOJTを担当していた。

片瀬

インフラエンジニア(元々はサーバーサイドのプログラマー)。他人への関心が薄いケセラセラ。ちひろのOJTを担当していた。

露呈したチームの問題

「おいおい、画面が崩れているよ」

 片瀬さんが、もはや呆れた調子もなく、事務的な感じでチームにそう宣告した。

 その言葉へのチームとしての反応は、無言で私に向けられる視線の数々だった。藤沢さんがいつものように口火を切る。

「和田塚さん、境川さんにレビューはしてもらった?」

 私が答えるより先に、境川さんが首を左右に振った。藤沢さんが大きくため息をつく。

「なんで、セルフレビューだけで、本番環境にコードを反映しているんだよ。これ、前も言ったぞ」

 一瞬言葉に詰まる。でも、今回は私も押し込まれて終わりじゃない。

「でも、この対応って、デザインの改修だけで、この類いのものはもう私に任せるとも言ってましたよね」

 めずらしく反論した私が、藤沢さんには意外に映ったらしい。そして、確かに、「軽微なデザイン修正は私の判断でやっていって良い」と、前々回のふりかえりで決めたばかりで、おそらくそのことを藤沢さんも思い出したのだろう。言葉に詰まった。

「……いや、確かにそういう話はしたが、これは軽微な範囲を超えている」

「となると、『軽微って何?』ってなるわな」

 冷静に、片瀬さんが次の展開に先回りした。そうした落ち着き顔が気に入らなかったのか、藤沢さんの矛先は片瀬さんに向けられた。

「片瀬さんは和田塚さんのOJTメンターでしたよね。こういう微妙な改修は相談してもらうべきなんじゃないですか」

「メンターって、いつの話だよ」

 片瀬さんが私のメンターだったのは2年も前のことで、その後は部署異動もしていて、そういう関係性にはもうない。

 もちろん藤沢さんも分かっていて、要は私の面倒を片瀬さんに押し付けようとしているだけだった。

「このチームでは、何を誰に相談するか、どこからは自分でやってしまって良いのか、あいまいですよね。みなさんはいつもの感じで通じ合うかもしれないですけど、後から来た人全然分からないと思いますよ」

 藤沢さんだけではなく、鎌倉さんも私の方を見ているのが分かった。私がチームの運営に踏み込んだからだろう。運営のあり方に物申すのは、震えるくらい勇気が必要だった。社内でも絶対的な存在、鎌倉さんに意見を言うのと同じだからだ。

 だけど、前回片瀬さんにタスクが集中して、結果クラッシュしてしまったように、このスゴイ人たちが集まったチームでも、実は問題を抱えている。私はそう感じ始めている。

 ……でも、無言の鎌倉さんに見つめられるのは、泣きたくなるくらい怖いことだった。

 時間にしてたぶん、5秒くらい。それでも私には、いや私だけではなく、その場に居たみんなにとって、とてつもない居心地の悪さを感じるには十分な時間だ。

 プレッシャーに耐えかねて、ごめんなさいと私が言うより先に、同じく黙っていた御涼さんが口を開いた。

「和田塚さんの言ってることはもっともね」

 藤沢さんも、片瀬さんも、御涼さんが同調したことにぎょっとした様子だった。

「これまで、このチームに後から来て定着したのは片瀬さんくらいで、それ以外はみんなすぐに逃げ出してばかりでしたよね」

 そうだったんだ……。でも、分かる気がする。絶対王者の鎌倉さん、第2のリーダー的な藤沢さん、どんな声だったか思い出せないくらい話さない境川さん、無自覚にケセラセラの片瀬さん。後から来た人にとってこれほど優しくないチームもめずしいだろう。

「私たちの方にも、役割や責任の分担が整っておらず、あうんの呼吸的に済ませているところが多分にありますよね」

 そこがこのチームの良さでもあるのだろうけど、こうして人数が増えてくると、混乱が生じてくる。片瀬さんの件しかり、私のこともしかり。

 藤沢さんが諦めたように、問題があることを認めた感じで御涼さんの意見に同意した。

「分かりましたよ。でも、どうするんです?」

 藤沢さんの言葉にかぶせ気味に、御涼さんは反応した。

「そこで、デリゲーションポーカーよ」

 静かに言い放った、分厚い眼鏡の奥には自信に満ちた御涼さんがいた気がした。

次のページ
解説「デリゲーションポーカー」

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この記事の著者

市谷 聡啓(イチタニ トシヒロ)

 ギルドワークス株式会社 代表取締役/株式会社エナジャイル 代表取締役/DevLOVEコミュニティ ファウンダー サービスや事業についてのアイデア段階の構想から、コンセプトを練り上げていく仮説検証とアジャイル開発の運営について経験が厚い。プログラマーからキャリアをスタートし、SIerでのプロジェクト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

新井 剛(アライ タケシ)

 株式会社ヴァル研究所 SoR Dept部長/株式会社エナジャイル 取締役COO/Codezine Academy Scrum Boot Camp Premiumチューター CSP(認定スクラムプロフェッショナル)/CSM(認定スクラムマスター)/CSPO(認定プロダクトオーナー) Javaコンポー...

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https://codezine.jp/article/detail/11471 2019/05/16 15:19

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