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食堂のホールスタッフ40人がSlackで毎日課題提案! スマレジとEBILABの全員エンジニア型アジャイル開発【デブサミ2020】

【13-C-5】批評家不要!気がつきゃ全員エンジニアリング。アジャイルなTeamでプロダクトを生み出し続けるスマレジとEBILABの挑戦とこれからの企業の存在意義

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2020/03/25 12:00

 全員参加型の開発が大切と言われるアジャイル開発。とは言え、多人数では全メンバーのモチベーションをそろえたり、非エンジニアのメンバーを巻き込んだりすることが難しくなる。そのような中、来客予測AIや店舗分析BIを提供するEBILAB(エビラボ)は、100年以上の歴史がある老舗商店・飲食店のホールスタッフを巻き込んで現場の課題を洗い出し、アジャイル開発に取り組んでいる。アプリとクラウドによる高機能なPOSレジシステムを提供するスマレジと、飲食店の現場経験を基に最先端のプロダクトを開発・提供するEBILAB。この両社がどう連携し、双方にとってメリットのある形でどう発展していくか、対談が行われた。

目次

スマレジもEBILABも、社員「全員エンジニア」宣言!

 伊勢神宮の近くで100年以上にわたって食堂・土産物店「伊勢ゑびや大食堂/ゑびや商店」を営む有限会社ゑびや。同社は2012年ごろからIT活用を推進し、2018年に飲食店現場で培ったノウハウを基に来客予測AIや店舗分析BIを提供する、株式会社EBILABを立ち上げた。

 同社 代表取締役の小田島春樹氏は、飲食店には大きな課題があると話す。

 「飲食店は、年間を通じていつ、何曜日のどの時間帯に来客が増えるかを把握することがとても難しいのです。状況に応じて食材の仕入れ量を変えなければいけませんし、その予測がうまくいかなければ在庫を抱えてしまいます」(小田島氏)

株式会社EBILAB 代表取締役 / ファウンダー 小田島春樹氏
株式会社EBILAB 代表取締役 / ファウンダー 小田島春樹氏

 大学でマーケティングと会計を学んだ小田島氏は、天候データや観光客数、これまでの売り上げや来店客数などの情報から、来客数を予測できる「来客予測AI」を開発した。これによりフードロスを75%削減するなど、目覚ましい成果をあげている。さらに、スマレジから自動収集したPOSレジのデータを可視化し、分析することで飲食店の課題を解決する店舗分析BI「TOUCH POINT BI(タッチポイント BI)」も開発。飲食・小売店経営に必要な全ての情報を一元管理できる状況を整えた。

EBILABは、45日先までの客数を予測できる精度95.7%の「来客予測AI」や、店舗情報を分析する「TOUCH POINT BI」などを提供する
EBILABは、45日先までの客数を予測できる精度95.7%の「来客予測AI」や、店舗情報を分析する「TOUCH POINT BI」などを提供する

 一方、クラウド型のPOSレジシステムを展開するスマレジは、もともとエンジニア率100%の企業だったが、取引先が増え、営業や管理部、カスタマーサポートなど非開発系のメンバーが増えると共に、メンバーがエンジニアに依存してしまう問題を抱えていた。同社 代表取締役の山本博士氏は、次のように話す。

 「データを強みとしている会社のはずなのに、自社のショールームに来てくれたお客さまのデータすら紙で管理していました。しかもちょっとしたExcelの数式を書くにもエンジニアに頼むようになっていたのです」(山本氏)

株式会社スマレジ 代表取締役 山本博士氏
株式会社スマレジ 代表取締役 山本博士氏

 そこに強い危機感を覚えたスマレジは、2020年1月に経営理念を刷新。「OPEN DATA, OPEN SCIENCE!」と掲げ、社員「全員エンジニア」のスタンスに舵を切ることに決めた。

スマレジでは、クラウド型POSレジシステム「スマレジ」を中心に、「Waiter」や「TIME CARD」など飲食店・店舗経営に有用なプロダクトを提供している
スマレジでは、クラウド型POSレジシステム「スマレジ」を中心に、「Waiter」や「TIME CARD」など飲食店・店舗経営に有用なプロダクトを提供している

 一方のEBILABは、もともと土産物店・飲食店の経営がメインだったため、社内にエンジニアがいなかった。取締役CIOの堤庸介氏は、店長として勤務する非エンジニアリングメンバーであり、現在データサイエンティストを務める秋吉しのぶ氏も、旅館の仲居だった経験を生かし、ホールスタッフとして働いていた。Excelを少し触れた経験しかない堤氏が、独学でMicrosoft Azureやデータサイエンスについて学び、パソコンはほぼ初心者だった秋吉氏は、いまやAzure Machine Learningを使い、ノンコードで機械学習を用いたシステムを開発できるまでになっている。

 EBILABは、どのようにして非エンジニアリングスタッフを開発に巻き込めるようになったのだろうか。

 「結局、現場を知っているメンバーがいなければ、店頭で使えるテクノロジーになり得ません。いくら開発に力を入れても、使う人が意見を言える環境を整えないと、せっかくつくったものも使われない。だから、メンバーを巻き込むというより『とにかく気軽に来て~』といった感じ。『とりあえずチームに入って、話をしよう』と言い続けることを心がけています」(小田島氏)

 店頭に立つキッチン・ホールスタッフの課題を把握するためには、現場の意見が何よりも不可欠だ。EBILABの常盤木龍治氏は、同社の「全員エンジニア型のアジャイル開発」の特徴について次のように話す。

 「160席ある食堂を運営していますが、パートやアルバイト、高齢の会長も含めて40名以上のスタッフが全員Slackを使い、リアルタイムに現場の課題を開発側にあげています。たぶん世界で一番Slack使っている飲食店なんじゃないかな」(常盤木氏)

株式会社EBILAB 取締役 / ファウンダー 常盤木龍治氏
株式会社EBILAB 取締役 / ファウンダー 常盤木龍治氏

 一見、全員の意見を吸い上げるのは手間もかかるし、それぞれがバラバラであるため面倒なことが多いように見える。しかもエンジニアリングについて全くわからないスタッフから意見を聞くのは、開発に混乱をきたすのではないかとすら思えてしまう。EBILABがここまでメンバーの意見を重視するのには、大きな理由がある。

 「エンジニアリングって、コミュニケーションなんです。コミュニケーションの設計がエンジニアリングの質に直結しています。スペシャリティの違う人たちがゼロ距離で同じ課題に向き合える状況をつくれれば、エンジニアリング課題は解決できるでしょう」(常盤木氏)

 プロダクトを開発する際、ついシステムの「発注者と受注者」「開発者と利用者」は対立関係になってしまい、見えない壁をつくってしまいがちだ。

 「大事なのは、そんな関係性を全部ぶっ壊すこと。全員が同じ目線でフラットにいつでも意見を言い合える環境をつくることが、何よりも大切です」(常盤木氏)

 EBILABでも当初、現場スタッフがテックリードに気を遣ってしまい、うまく意見を言えず亀裂が入った時期もあった。しかし、飲食店の現場とエンジニアの考え方が違うのは当たり前。現場のメンバー、テックリードの双方と丁寧な会話を重ねた結果その溝は埋まり、信頼関係が生まれて質問があったら即回答が飛んでくるような「同期型コミュニケーション」ができるようになったという。


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