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変化する現場で生きる開発者へ――西村直人氏がアジャイル入門書の変化に見たもの【デブサミ2020夏】

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2021/02/15 11:00

目次

アジャイル開発が広まって、変化を迫られた入門書

 2013年の初版発売から7年。2020年の増補改訂版を出版するまでに、「大きく変化した」と西村氏は振り返る。アジャイル開発に取り組むチームが増え、気がつけば定着しつつあるという。西村氏が支援していた先も、「昔は渋谷の周辺ばかり」だったが、各地へ広がっていった。

 西村氏は、こうした変化を「距離が縮まった」と表現する。自分と同じような視点でソフトウェア開発をする組織が増えてきたからだ。近い視点で風景を見ている、すなわち、距離が近付いたというわけだ。

増補改訂版の発売を祝ったYoutube配信。かつての上司と距離が縮まったことを喜んだ
増補改訂版の発売を祝ったYoutube配信。かつての上司と距離が縮まったことを喜んだ

 2013年当時は「アジャイル開発を広めるため」というのが執筆の主な動機だったが、2020年版の増補改訂版については「新入社員など、新しくチームに加わる人に(すでにアジャイル開発を実践している)自分たちのチームのやり方を伝えるのに使われるような入門書」(西村氏)を想定しているという。

 当初、SCRUM BOOT CAMP THE BOOKの改訂は用語の更新程度で済ませる想定だった。スクラムガイドの更新に合わせて内容を改め、用語などの更新をしようというものだ。「用語の更新などは技術書の宿命」(西村氏)。

 実際に企画会議でも最小限の改訂に留める方針だったが、改めて書籍を読み直すと違和感を覚えた。次第に「改定するだけでいいのか」(西村氏)と思い直すようになったという。

 例えば、2013年版のSCRUM BOOT CAMP THE BOOKでは「プロジェクト」という言葉を多く使っていた。しかし、「昔に比べると、プロジェクトという言葉をそれほど聞かなくなった」(西村氏)と、時代の変化によって書籍の表現に改めたい部分が見つかっていったという。

 プロジェクトという言葉が減ったのは、自社サービスのプロダクト開発の現場でアジャイル開発が広まってきたからかもしれない。プロジェクトの区切りが分かりやすい受託開発と違って、自社サービスの開発では継続的な開発が続く。改訂でも、プロジェクトはプロダクトに書き直すなどの変更をしたという。

変化に対する不安と、それでも変わらなかったこと

 大きく増量したのはコラムだ。2013年版では西村氏たち著者陣が自身の経験をコラムにしていたが、「当時と現場の様子も変わっている」と考え、新たに現役の開発者たちに執筆を依頼した。新しく開発チームに加わる若手などを想定読者としていることから、コラムの執筆者も若手が共感しやすい方々に依頼したという。

 書籍で紹介するベストプラクティスも増えた。スクラムガイドが更新されるように、時代に合わせてアジャイル開発そのものも変化しているのだ。

 こうした開発手法の変化に不安を覚える技術者もいるかも知れない。これまでの方法で積み上げてきた経験が無駄になってしまうと感じるからだ。西村氏は、こうした不安に対してXP(エクストリーム・プログラミング)の原則「変化を享受せよ」を引用しながら、「変化はしても、本質は変わらない」と説いた。

 用語の更新だけでは不十分と感じたことから、予想以上に修正箇所が増えていったSCRUM BOOT CAMP THE BOOKの増補改訂作業。西村氏は「こんなに修正できるのだろうか」と感じたという。それは作業量だけでなく、修正した結果として別の本になってしまうのではないかという不安もあったかもしれない。

 しかし、改めて原稿を見て、心配は杞憂に過ぎないと思い直したようだ。「変化はしても、この本で伝えたかったアジャイル開発の本質は変わらない」と西村氏は語る。伝えたかったのは、「楽しんでものづくりに取り組む」ということ。課題解決にチームで取り組むのは楽しい―――。そのメッセージは、増補改訂した2020年版でも変わらなかったという。

監訳も増補改訂でも、書籍を通じて伝えたい本質は変わらなかったと西村氏は語る。
監訳も増補改訂でも、書籍を通じて伝えたい本質は変わらなかったと西村氏は語る。

 新しい技術が登場し、開発現場の様子も変化を続けている。こうした変化の多くは不可逆で、戻ることはない。「変化はしても、本質は変わりません。経験は必ず役に立ちます」(西村氏)。変化する時代を生きる開発者たちに、西村氏はこうエールを送った。

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  • CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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