アジャイル開発を広めるための入門書
「開発現場がイメージできる入門書を作りたかった」。オンライン開催されたデブサミ2020夏で、⻄村直⼈氏は『SCRUM BOOT CAMP THE BOOK』を最初に執筆した2012年当時の思いや、2020年5月に発売された増補改訂版を執筆して感じた変化を語った。
介護業界向けSaaSを運営する株式会社エス・エム・エスに務める西村氏は、一般社団法人 アジャイルチームを支える会でアジャイル開発の支援もしている。SCRUM BOOT CAMP THE BOOKを最初に執筆をした当時、アジャイル開発に取り組むチームはそれほど多くなかったという。
「今日お伝えしたいのは、大きな変化です」。西村氏はこう切り出した。新型コロナウイルスの影響でテレワークが中心の働き方に変化したのはその代表例だ。ほかにも、DX(デジタルトランスフォーメーション)への注目が高まり、ソフトウェア開発のあり方も変化しているという。こうした変化に対する考え方を、西村氏は書籍の増補改訂という、変化に合わせて修正した体験を通じて語った。
自分たちが良いと感じている開発スタイルがどうすれば広まるのか――。その考えが、西村氏の執筆する動機だったという。2013年当時、アジャイル開発という言葉はある程度知られていたが、実践している人は一部のみというのが日本の開発現場だった。自分たちにとっては普通のスタイルであるアジャイル開発を広める手段が入門書の執筆だった。
書籍『アジャイルサムライ』の監訳に携わったのも、同様の理由だ。そして、この監訳がSCRUM BOOT CAMP THE BOOKの執筆に強く影響している。
当時、西村氏が所属していた会社では、新入社員などアジャイル開発を経験していない若手が増えていた。こうした若手に「分かりやすく伝える手段がないか」(西村氏)と考え、アジャイルサムライの監訳に携わった。ちょうどアジャイル開発への注目が集まっている時期でもあった。
アジャイルサムライの訳書は高い評価を得たが、同時に「実践するのは難しい」という意見も多かったという。中でも、「実際にアジャイル開発をする現場のイメージが分からない」という意見が西村氏の元に多く届いた。そこで、「開発現場のイメージが伝わるような、アジャイルサムライを補完する入門書を作ろう」(西村氏)と考え、執筆したのが、SCRUM BOOT CAMP THE BOOKである。
自らの視点を追体験できるように
西村氏は入門書の執筆に際し、「アジャイルサムライのどこが魅力なのか、プロダクト開発のように自分なりに分析した」と話す。
分析したアジャイルサムライの魅力の中に、イラストが多いというものがあった。西村氏は「イラストが豊富で現場のイメージができるものと考え、漫画にしようと思いついた」という。出版社から打診のあったスクラムの書籍企画に、西村氏の方から「漫画で描けないか」と提案した。
自ら提案したものの、漫画を使った入門書の作成は想像以上に苦労の連続だったという。西村氏は「多くの方の協力がなければ実現できませんでした」と振り返り、執筆に関わった人々への感謝を口にした。こうして、キャラクターたちの掛け合いでスクラムに取り組む様子を描いた漫画が収録された現在のSCRUM BOOT CAMP THE BOOKになっていったという。
他にも、全体像の理解がしやすいように配慮したり、読みやすいページ数など、アジャイルサムライを参考に書籍を作っていった。
書籍で取り上げる内容は、西村氏自身がスクラムでの開発を学んだ経験を参考に、開発に初めて取り組む時の学習過程を追体験できるように配慮した。最初は手順やルールを覚えながら手探りで開発を始め、少しずつルールの背景や狙いを理解していくといった流れだ。理解を深めていくうちに、キャラクターたちもスクラムでの開発に手応えを感じていく。