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元ヤフー・東京都副知事の宮坂学氏が語る、行政のプロダクトマネジメントとは?――PMカンファレンス基調講演

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2020/11/27 11:00

 今年で5年目を迎えた「プロダクトマネージャーカンファレンス」。コロナ禍の折、オンライン開催となったものの、参加者は昨年の2倍以上に増え、世の中の関心の高さを伺わせた。冒頭のウェルカムトークで実行委員会の代表理事を務める横道稔氏は、「コロナにかかわらず、先が見えない未来をリードしていくのがプロダクトマネージャーの仕事。その仕事が活性化することで、世界を救うと考えている」と開催の意義を改めて強調した。オープニングを飾る基調講演には、東京都副知事の宮坂学氏が登場し、実行委員の及川卓也氏を聞き手に「行政サービス」というプロダクト開発にあたってのビジョンや考え方について語った。

目次

あらゆる都民にデジタルが実現する「幸福=クオリティオブライフの向上」を提供する

 ヤフーの代表取締役社長を経て、2019年9月に東京都の副知事に就任した宮坂学氏。東京都に4人いる副知事の一人であり、唯一の民間企業出身として、主に東京都行政における情報技術部門を統括し、5G時代にそなえて3つの施策に取り組んでいるという。

左:東京都副知事 宮坂学氏、右:プロダクトマネージャー・カンファレンス実行委員 及川卓也氏
左:東京都副知事 宮坂学氏、右:プロダクトマネージャーカンファレンス実行委員 及川卓也氏

 1つ目の施策は「つながる東京」と掲げた、公共の場における高速のモバイルインターネットの普及だ。2300kmにもわたる都道、都営地下鉄線、バスのネットワーク、そしてビックサイトなどの施設や都立高校に至るまで、パブリックスペースにおけるインターネット環境の整備を行っている。2つ目が、建設局、環境局、福祉保健局などにおける、デジタル活用による事業改善。そして、3つ目がデジタル環境の整備による、行政職員の働き方改革および就業環境の改善だ。

 宮坂氏は「行政の職員のデジタルインフラは民間と比べると20年以上遅れている」と指摘。「その中でよくぞ頑張っているという感じだが、日々使用するデジタル機器がモダンでないとアウトプットも変わらない」と語り、副知事就任直後から取り組みが開始され、今年2月にはスマート東京実施戦略が発表されたことを紹介した。さらに、デジタル改革を推進するための組織を編成しようとしており、「100%内製化とはいかなくとも、『プロ同士で話し合いながら作れるレベル』には引き上げ、残り3年の任期中に実現したい」と語った。

 こうした取り組みは、まさに「行政のDX」と捉えることができるだろう。それでは、その「ミッション・ビジョン・コアバリュー」とはどのようなものなのか。

 宮坂氏は「都民の『幸福=クオリティオブライフの向上』を実現することと定義している。その実現において、デジタル技術を活用し価値を増幅させていくことが私の役割であり、どんな人であっても取りこぼすことなく提供できることが必須と考えている」と述べ、「誰もがここに住んで良かったと思える東京、自分の子どもにもここに住んでもらいたいと思える東京にしていきたい」と熱く語った。

 抽象度が高いミッションでも、具体的な取り組みにおいては「ユーザーの課題を解決すること」が基本となるのは、企業も行政も同じだ。それでは都の行政にとって「ユーザー」とはどのような人々なのか。

 宮坂氏は「住民に向けた一般的な行政サービスと言えば区市町村との関わりが多く、都については企業やNPO法人などの人格も含めた『広義での都民』との接点が多い。ビジネスや旅行で来ている人なども、住民票はなくても都のサービスを受ける人として対象となり、長期的なサービスの提供者として未来に生まれてくる子どもたちも含まれる。そういった幅広いペルソナを認識しなくてはならないと考えている」と語った。

多様なステークホルダーとの連携のため、ICT専門組織の創出・強化を図る

 都の行政サービスとしては企業への支援策など「G(Government)toB」が多いと思われるが、子育て支援など「GtoC」も決して少なくない。区市町村ともフラットな関係で緩やかに役割分担をしながら行政サービス全体を成り立たせていく必要がある。「GtoGtoC」もまたパートナーである区市町村が間に入った場合、都の意図が住民に届きにくいといった懸念もある。そもそも住民は、行政サービスの提供主体が区市町村か都なのか、または国なのか、ほとんど意に介さないだろう。そうした状況下で、都にはなかなか難しい舵取り役が求められる。

 これについて宮坂氏は「正直難しいところが多い。国民であり、都民、市民(区民)であり、人としては一人の同じ人格であるユーザーに対して、『行政のサービス』としてシームレスに過不足なく提供する必要がある」と語り、施策として「連携を高めるために、区市町村の情報システム担当者などとコミュニケーションをとり、話をする機会を設けている」と説明した。残念ながら、今年に入ってコロナ禍で実現が難しくなっているが、引き続き都と区市町村がフラットに連携できるような環境づくりに取り組んでいくという。

 また、行政の組織の問題として、担当の職員が1~2年で変わり、ノウハウの蓄積や関係づくりなどの面で支障がある場合も多い。そこで、宮坂氏はデジタルを扱う部門としてICT職という職種を作り、たとえ建設局、環境局、教育庁などに行っても、同じICT職としてのポジションは変わらないようにしたいという。実は、これまでも東京都はハードの部分ではエンジニアリングカルチャーが強く、水道局や建設局などでは職員の多くが技術に精通した人材だった。その結果、東京の都市部インフラは堅牢で、メンテナンスもしっかりとなされている。一方、情報技術部門にはまだエンジニアリングカルチャーが確立していないため、丸投げになりがちだったというわけだ。

 現在都庁の中では約150人がICT分野の担当として働いており、その中で「技術がわかる」人は15人程度とまだ少ない。その人数を増やし、ICT組織が成長することによって、今後は外部のパートナーも仕事をしやすくなると予測される。その組織強化も宮坂氏の仕事というわけだ。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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