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プロダクトマネージャーカンファレンス2020レポート

元ヤフー・東京都副知事の宮坂学氏が語る、行政のプロダクトマネジメントとは?――PMカンファレンス基調講演


スマートシティ構想も、スマートなホームページを実現・運用することから

 デジタルインフラの整備は行政の重要な仕事ではあるが、本来の目的である「都民の『幸福=クオリティオブライフの向上』」を実現するためには、ネットワークインフラの整備だけでなく、5Gの特性を生かした価値あるサービスの提供も求められる。

 そのためのアプローチとして、宮坂氏は「まだ新しい5Gについては、試行錯誤や実証が必要になる」と前置きしつつ、「まずは身近なところでは『都のホームページを見る』というのが都民にとって身近で必要な体験であり、そのユーザー体験を高めることが大切」と語った。例えば、災害時でも落ちずにしっかりと情報を提供できるサイトにすること、そのためにCDNの導入やデータの軽量化など解決できることは少なくない。また一部マニュアルを作って区市町村に渡すなど、兼任も多い情報システム担当者の支援を行っているという。

 宮坂氏は「感染拡大防止協力金などの場合は、実際にユーザーに使ってもらったフィードバックを反映させるなど、スプリント式でより良くなっていく成功体験を積み上げている。また、リリース後もNPSなどでの満足度測定を行い、ユーザーの評価が上がることで職員にとっても大きなモチベーションアップの機会となっているという。作りっぱなしではなく、フィードバックを受けていくことで、より良いものに改善していく。そのためにも『まずは作って、話はそこからだ』という文化を醸成したい」と意欲を示す。

 このように、仮説検証型で開発を行うケースが増えている一方、例えば年間予算の縛りもあり、古くからの行政のやり方ではそぐわないことも少なくない。宮坂氏も「『調達』という言葉があるように、サービスは導入しておしまいという考えでやっていたところはある」と指摘し、「一方、サービスは永遠に改善していくことがいいところ。民間のネット企業、IT企業のものづくりと変わらない。どうしても契約や調達のルールはあるので、そこから変えるべく、構造改革チームを立ち上げて改革を行っていく」と語った。

 さらには、民間企業ではコンバージョンなど成果のとり方に一定のひな型があるが、行政では対象範囲が広くなかなか適用が難しい。そこで、原始的ながらアンケートやWebアナリティクスツールを使って閲覧者の数をカウントするなど、ベーシックな方法論で地道にやっていくという。

 「『ホームページから』はじめたのは本当に良かった。毎朝、PVを見ることが習慣づき、意識が変わる。愚直に運用する上で大事な要素が詰まっていることを改めて感じる。もともとスマートシティづくりを意図して参画したが、まずはスマートなホームページができるようでなければ、Society5.0も上滑りしてうまくいかないだろう。作って終わりではなく、使ってもらえているかが大切」と宮坂氏は強調した。

デジタルデバイド以外に、あらゆるデバイドをデジタルで解決していく

 行政のホームページは、「情報がおいてある」が基本であり、「活用してもらう」ための工夫に乏しい。しかも「広くあまねくすべての都民に」提供する必要があり、ターゲット設定の難しさもある。

 宮坂氏は「まだ答えが出せていないのが正直なところ」と述べ、「民間のようにマーケットの2~3割が押さえられればいい世界ではない。むしろ、セーフティネットとしてこぼれ落ちそうな人をサポートする役割が大きい。その意味で、民間が上を伸ばし、行政が下を押し上げるイメージだが、同時に成長産業をつくる、支援するのも行政の役割であり、今も明確な答えが出せていない。おそらくサービスごとに性格も異なり、人によってはデジタルか紙かを選択できることが望ましい。オムニチャネル的に行政サービスを作りながら、両方をおろそかにしないで進めていきたい」と語った。

 さらに「デジタルデバイド」という言葉があるが、そのほかにも言語の違いや、目や耳が不自由といった差異は紙でもすでに存在している。そうした部分に対しても、デジタルは解決策を提供することができるのではないか。

 「難易度が高い開発にはなるが、そういうサービスになればインクルーシブ(包括性)が高まり、みんなが使えるサービスになっていくと考えている。若い人がスマホでガンガン使うイメージを持ちがちだが、本来のサービスのデジタル化は『みんなが使えるもの』であるはず」と宮坂氏は強調した。

 そのためには、情報技術系の職員だけでなく、行政系も含めた職員全体の組織文化も大事になる。しかし、それは決して単なるデジタルリテラシーの話だけではない。むしろこれまで職員が育んできた「現場感」を大切にしつつ、デジタルと組織的に融合させることが自然にできる組織となることだ。極端に言えば、現場感なくデジタルサービスを作っても使えないものになる可能性が高い。その意味で、現場感とデジタルという全くの異文化をどう融合させるかは、宮坂氏も悪戦苦闘中であり、「しかし、これがうまくいけば、すばらしい事業を成し遂げられると信じている」と力強く語った。

 こうしたビジネスとエンジニアリングを取り持つ役割が「プロダクトマネージャー」とすれば、都の行政においてもそうしたポジションが増えていくことになるだろう。実際、すでにエンジニアまたは現場職のどっちのバックボーンであっても、都と民間の間にいて事業を進めている人は少なくない。今後さらにそういう人たちが増え、実際に改革を進めていくことが期待される。

 宮坂氏は、行政サービスを推進していく役割を持つ人たちを「3つのトライアングル」として捉えているという。1つは法律などに精通し、議会との調整などを得意とする「行政実務のエキスパート」であり、2つ目は「行政の中にいながらICTもわかる人」、そして3つ目は「大学や企業で技術をしっかりやっているデジタル系の人」だ。ただし、この三者が協力し、連携し合うためには、プロダクトマネージャー的な人が間に入ると良いのでは、というイメージを持っているという。

 コロナ対策サイトを構築した時は、宮坂氏が1か月間は伴走したものの、その後は行政の人がエンジニアと直接コミュニケーションをとり、画面に映るグラフを見て話しながら開発するようになったという。すでにそうした融合・連携は東京都だけでなく、民間でも見られるようになってきたのは間違いない。

 最後に宮坂氏は、「東京都行政はできることにあふれている。チャレンジ精神にあふれた人は、東京都はもちろん、他の自治体にも参加してみてほしい」と語り、「行政に参加してみて、街を守るためにいろいろと活動して参加している人たちがいることが見えてきた。都の職員だけでなく、市民や民間も一緒に街づくりに取り組んでいることを実感している。デジタルの分野でも、もっと民間の人たちが行政に参加できる間口を作っていきたい」とメッセージを送り、結びの言葉とした。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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