本記事内で紹介した講座が進化した「アジャイルな組織づくり入門講座」の概要はこちら。
開発の枠を超えて拡がるアジャイル、どうやって実践する?
――アジャイル界隈では既に有名な新井さんですが、改めまして自己紹介をお願いします。
長年開発者をやった後、管理職でのマネジメント、コーチング、エバンジェリスト活動を経て、その中で知り得たアジャイルの知見をいかした組織開発やプロダクト開発の支援を行っていました。現在では現場の課題に向き合いながら、チームや組織、プロダクト開発、組織横断の支援策に伴走する活動を行っています。
――開発者の間でアジャイル開発が普及して久しいですが、改めて言語化するとどのような開発方法でしょうか?
難しい質問ですね(笑)。アジャイル開発には一言で言える明確な定義は無いのですが、一言で言うなら「自分達で考えて、改善しながら進めていく開発手法」でしょうか。自分達の組織の不都合な真実が浮き彫りになる開発手法でもあるので、そうした事実を改善のための「良い情報」として捉えていくという、価値観の転換も必要になります。
――そうした手法が、このように普及に至ったのはなぜだと思いますか?
まず開発者の中で普及したのは、単純に「嬉しい」からだと思います。開発者は自分で考えるのが好きな方が多い。だから、どんどんプロセスやプロダクトを自分達のアイディアで改善していく。さらに、それが世の中を良くするプロダクトやサービスに繋がるのは嬉しいことですよね。そうした貢献意欲とアジャイル開発がマッチしたんじゃないかと思います。
最近のDXの流れの中で、次第にビジネス側にも広まってきているのは、ビジネス価値やお客さんの価値を考えながら、いかに早くそれを提供するかというところマッチしたのではないでしょうか。
優先順位を付けて合意を深めながら短いサイクルで価値を提供することで、顧客からのフィードバックも得やすくなり、さらに良いプロダクトやサービスに繋がり、それが世の中の役に立つというところが認識されるようになったのかと。
――アジャイル開発には明確な定義が無いということでしたが、そうなると新しい組織でアジャイル開発を正しく行って成果を出したり、人に教えたりするには、一口で「こうすれば良い」と言えないのが難しいところだと思います。
そうですね。スクラムガイド2017において、スクラムの定義として「軽量」「理解が容易」「習得は困難」という特徴が挙げられていたのはまさにその点を良く表していたのだと思います。読んだり聞いたりして「わかった!」とはなるのですが、いざ実践するのは難しい。なので、理論と実践の繰り返しが必要になると思います。実践してうまくいかなければ教科書に戻って理論を見直し、そこで得たものをまた実践に移す。その繰り返しの中で自分達だけで解決できない部分は、こうした講座やイベント、外部のアジャイルコーチなどで学びを深めていき、スキルを上げていくことが大事です。
また、課題感や関心事によって、同じ学びのリソースを使っても違う学びが得られたり、同じ学びでも新しい発見に繋がったりすることもあるので、そうした媒体の選択肢を持っておくのが良いのかなと思います。
アジャイルを楽しみながら追体験することで、実際に自組織で活用できるように
――講座では、どのような課題感を持つ方が参加されていますか?
やはり、「アジャイルに取り組みたい」「学び直したい」「つまずいている」といった方が多いです。あとはチームでのコミュニケーションに課題を感じている方ですね。先ほどお話したアジャイルの拡がりによって、この「チーム」にエンジニア以外の方も含まれるようになったので、できるだけ平易な言葉で説明するようにしています。
――なるほど、アジャイルが開発の枠を超えて浸透していく中で、講座の対象者も拡がっていっているのですね。その他に工夫しているポイントなどはありますか?
一番工夫を凝らしている部分としては、心理的安全性を深める過程を学び、チームをつくる体験を持って帰ってもらえるよう、この講座を楽しんでもらえるようにしている点です。この講座で学んだ理論を実際に自組織で活用していただくためには、チームの他のメンバーの情緒的な部分の理解が必要です。そうした部分も含めて追体験することで、実際に自組織で活用する際にやりやすくなります。
具体的なところで言うと、リラックスするためのグランドルールが挙げられます。参加者のみなさんは全員が初対面なので、程度の差はあれ最初は緊張されています。また、オンラインという制限もあるので、なかなかその堅さが取れない。そうした中で、「お茶飲んでいいですよ」とか「お菓子食べていいですよ」とか、一見当たり前と思えることをとしてあえて伝える工夫をすることで、なるべくリラックスしながら学びを最大化できるように心がけています。
そうした甲斐もあり、自分で言うのもなんですが、反応は良いです。最後に講座の一環として、全体の振り返りを全員で行うのですが、その中でも「初対面の人と何かを目指して取り組むことを学べた」「ひとりでやるより、チームで取り組むことで、固定観念を壊しやすくなる」といった、チームで取り組むことの楽しさとパフォーマンスの高まりを感じてもらえているようです。
――最後にこの記事を読んでアジャイルや講座に興味を持っていただいた方に一言お願いします。
仕事なので大変だったりストレスを感じながらやらなければならなかったりするともたくさんあると思います。しかし、それはもしかしたら自分で決めたルールに勝手に苦しめられているだけかもしれません。自分が仕事をはじめた時の楽しさや、ひとりでは成し得ない大きな成果をチームで達成した時のことを思い出すきっかけに、この講座がなれば良いと思います。現場が楽しくなればパフォーマンスも上がるしやる気も出るので、組織にとってもプラスになると思います。
――本日はありがとうございました。
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