チームとして自立して動けるよう、開発チームの仕組みを変えた
Web開発部門のマネジメントを担当した後、2022年10月よりRettyの執行役員VPoE プロダクト部門長を務めている常松祐一氏。2023年7月には初の著書『アジャイルプラクティスガイドブック チームで成果を出すための開発技術の実践知』も発売し、ソフトウェア開発者を中心に大きな反響を呼んでいる。
そんな常松氏のキャリアだが、大学卒業後はキヤノンに就職し、R&D部門でソフトウェア系の技術開発に従事した。主に複写機の画像処理、電子辞書のソフトウェア開発とマネジメント、監視カメラを使ったソリューションの開発などに携わったという。13年間キヤノンで働きながらWebの基本的な技術も習得し、2019年にRettyに転職した。
転職の際は、「マネジメントの経験を積みたい」という思いがあった。身軽な組織で早いタイミングで機会を見つけてマネジメントの経験を積みたいと転職先を探すなかで、Rettyの前VPoEと勉強会で出会い、Rettyの選考に応募した。
入社後はエンジニアリングマネージャーとして、toC(エンドユーザー向け)、toB(飲食店など事業者ユーザー向け)のWeb開発を管理していた常松氏。Rettyではユーザーへいち早く価値を届けていくため、2019年に組織全体へのLeSS導入を実現したという。
LeSS導入以前のRettyは、良くも悪くも企画に責任を持つマネージャーによるチーム統制、リーダーシップがはっきりした組織だった。開発チームはWeb、アプリ、検索などミッションごとに分かれ、「Retty」という1プロダクトを扱う組織にも関わらず、ワンチームとしての安定したアウトプットが出せていなかった。そこで常松氏は組織全体で1つのスクラムを回すため、LeSSの導入を決断した。「まずはじめに、企画と開発の組織を分け、開発は自分たちでチームを組んで設計・開発し、スケジュール管理も自分たちでして、自立して動けるようにしていきました」と常松氏は言う。
全部を変えるのではなく、まずは一部門、toCのWeb開発チームから変えていった。従来のやり方を変えることに対して、メンバーは当初不安を抱いていた。しかし常松氏は「ひとまず試してみて、だめだったら元に戻せばいい」と伝え、実行した。その結果、残業が減り、課題に対してチームで話し合う時間を取れるようになった。「変えてから1、2週間経ったら『意外にいける』という雰囲気が出てきました。実際にやり始めることで、メンバーにも『こういうことか』と自分の体験として理解してもらえたと思います」と常松氏は語る。
toCのWeb開発チームがうまく回り、社内でも成果が出ていると評価されたことで、それを横展開することになった。これが大規模スクラム(LeSS)の全社適用につながっていく。toCの次はtoBのWeb開発チームの仕組みを変えた。それにより、以前は個人戦だったチームがチーム戦になり、プロダクトの方も改善の兆しが見られるようになった。
ちょうどその頃、新型コロナウイルス感染症が広がり「Go To Eatキャンペーン」のための開発を全社を上げて行うことが決定した。常松氏はその開発責任者となった。Go To Eatキャンペーンの開発を優先順位の一番上に置き、エンジニアはほぼ全員それに関わった。
toB側の開発に負荷がかかったが、チームの仕組み改善により「個人ではなくチームでやる」という形ができていたため、toBの開発をtoCのメンバーが手伝うことができた。その結果、予定通りに開発を終えることができた。常松氏は「Go To Eatキャンペーンは当時一番開発工数が大きかったのですが、何事もなく終わったし、リリース前に検証も全部終わりました」と当時を振り返る。以上のような段階を経て、全社で力を合わせてひとつのプロダクトを作る組織になるよう、LeSSを軌道にのせていった。