未来が予測できない中で、自分のキャリアを描くためには?──「計画的偶発性理論」で良い点を呼び寄せる
普段はマネーフォワードでMFBC-CTO室でSREを務めるVTRyo氏。そのほか、同人誌や商業誌で物語形式の本を書き、現在は脚本家のもとで脚本を勉強中だという。「元々エンジニアじゃなくて作家になりたかった。だけど、多分書いても売れないし、食べていけなさそうだなと思って、一旦就職した感じですね」と語るVTRyo氏は、どのようにエンジニアと作家の仕事をつなげてきたのだろうか。
セッションはまず、「みなさんは5年後、どんな仕事をしていたいですか?」という問いかけから始まった。VTRyo氏は、「すぐに答えられる人は素晴らしい」としつつも、「5年後のことがわかるかなって言ったときに、僕にはわからなくて。例えば、昨年の11月にChatGPTが出てきましたが、その時と比べると今はだいぶ技術が進歩していて、もう1年後ですらわからないなと思っています」と話す。
未来が予測できない中で、自分のキャリアを計画していくのは難しい。そこでVTRyo氏が紹介するのが「計画的偶発性理論」だ。
「キャリアや人生を前に進めるような壮大な出来事が起きて、それがチャンスに変わるときには、その時、その人自身が重要な役割を果たしています。そして、キャリアの8割は予想しない偶発的な事柄によって決定されると言われているのです」
VTRyo氏は、計画的偶発性理論の例として、スティーブ・ジョブズ氏の「Connecting the Dots(点と点をつなぐ)」を挙げた。将来を見据えて点と点を繋ぐことはできない。後になって振り返ってみないことには、つなげようがないのである。「その点と点がいつかつながると信じているからこそ、自分の心に正直になれる」と言う。
スティーブ・ジョブズ氏は大学を中退した後、カリグラフィの授業に潜り込んで勉強していたそうだ。当時は単なる興味から勉強をしていたそうだが、のちにMacintoshをデザインする際、学生時代に学んだタイポグラフィの知識が役に立った。おもしろそうだと思って取り組むことが、ゆくゆくの成功につながる可能性がある、とVTRyo氏は話す。
「僕ら凡人からすると、ジョブズはあれだけの成功者なのだから、当然良い点と点を呼び寄せていたのだと感じる人もいると思います。しかし、僕たちでも良い点を呼び寄せられるとしたら、面白いと思いませんか?」
偶発的な事柄によって、魅力的なキャリアを築いていく「計画的偶発性理論」。VTRyo氏は、これを再現可能な技術だと話す。
「この偶然は、自分で引き起こせると考えています。そのための5つの要素があり、それは『好奇心』『持続性』『楽観性』『冒険心』『柔軟性』です。でもこれらの素質って、ITエンジニアの皆さんは、持っていることが多いのではないでしょうか」
VTRyo氏によると、プログラミングに興味を持って取り組んだことや、エラーを諦めずにプログラミング技術を習得した経験、新しい技術が出てきたときにそれらに適応する柔軟性など、エンジニアの多くが持っている経験の数々が、よいキャリアの引き寄せに重要であるという。