本記事は、プロダクトマネジメントがテーマのオンラインメディア「ProductZine(プロダクトジン)」からの転載記事です(オリジナル記事)。
組み込みソフトウェアでもWebサイトやスマホアプリのようなUIの提供が求められている
QtはアプリケーションにおけるGUIの効率的な実装に特化したフレームワークである。このフレームワークは、ライブラリ、デザインツール、IDE、プログラミング言語などを包含しており、クロスプラットフォームに対応している。これにより、デスクトップ、スマートフォン、タブレット、組み込み機器で動作する、さまざまなアプリケーションが開発可能だ。約30年の歴史を持ち、自動車や船舶のコックピット、ファクトリーオートメーション、POSシステムなど、多岐にわたる分野で活用されている。Qtのフレームワーク自体はオープンソースでも提供されている。
平井氏は、技術的な知識を持ちながらセールスチームを支援し、技術的な説明やデモの作成などを行っている。エンジニアとしてのバックグラウンドを持ちながら、ユーザーの課題も理解できる立場にいる。
Qt Insightのリリース背景について平井氏は「GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の重要性が世界的に高まっていることが大きな要因です。現在、多くの人々がスマートフォンアプリなどの高品質で使いやすいGUIを備えたサービスを使用しています。組み込みデバイスにおいても、これらに匹敵するレベルのGUIが求められていますが、開発されたGUIが常に企業の意図通りに利用されているわけではありません」と語る。
近年、車のダッシュボードが物理的な針によるメーターからデジタル表示へと変化している。さらに、自動販売機やコーヒーマシン、ファクトリーオートメーションなどもスクリーンにスマホライクなUIを備えることが増えており、高い水準のユーザー体験の提供が必要とされている。
従来、ユーザーからのフィードバックや意見を収集する一般的な方法としては、アンケートやインタビュー、ユーザビリティテストが行われていた。これらの方法は時間もコストもかかる上に、必ずしも統計的に有意なデータを得られるわけではない。一方、Webやスマホアプリの業界ではユーザーの行動分析ツールが広く使われており、それによってUIをチューニングしている。UIが意図した通りに機能しているかを分析できなければ、製品は使いにくいまま変わらずに、満足度の低い体験を提供してしまうことになる。これまで組み込みソフトウェアの分野ではこのようなソリューションが不足していた。そこでQt Groupは、Webやスマートフォンアプリで行われているレベルのユーザー行動分析を組み込み分野にも提供するためにQt Insightをリリースした。
組み込みソフトウェアのユーザー行動をWeb解析のように確認できる
Qt InsightはQtで開発されたアプリケーションにトラッカーAPIを組み込むことにより、ボタンの押下や画面遷移などのイベントをクラウドに送信する機能を持っている。このプロセスは24時間365日稼働し、ユーザーの行動データをリアルタイムで収集できる。収集したデータはWebブラウザで確認できるダッシュボードで可視化される。Qt Insightには、Web解析で一般的な機能などが備わっており、組み込みデバイスにおいても同様の分析が可能だ。
データはQtが提供するクラウドサービスに収集されるが、ユーザー自身が管理できる「プライベートクラウド」のオプションもある。データの扱いに敏感な顧客に配慮したオプションだ。なお、ネットに接続していないデバイスの場合は、収集データを端末内に保管しておき、それを取り出してクラウドに一括アップロードすることもできる。
「例えば、OTA(Over The Air)アップデート機能を持つデバイスでは、ソフトウェアの行動分析を行った後に、リモートでUI変更などを実施し、その影響をQt Insightを用いて確認できます。A/Bテスト的な活用方法も可能で、インターネットサービスのような柔軟性をもたらします」(平井氏)
QtではさまざまなUIフレームワークを提供しており、美しいUIパーツを使った実装方法を利用できる。しかし、ユーザーが使いやすいUIを作ることは話が別だ。平井氏は「使いやすさは実際に試してみなければ分かりません。そこでQt Insightの役割が重要になります」と説明した。
Qt Insightのダッシュボードにアクセスすると、ユーザーの平均セッションの長さやデバイスの使用間隔が見られる。デバイス数や最も頻繁に利用されているユーザーインタラクション、ソフトウェアバージョン、最も閲覧されているスクリーンなどのデータも提供される。また、ユーザーがどの時間帯や曜日にアプリケーションを最も使用しているか、地域別の使用状況、アプリケーションのクラッシュ率なども確認できる。CPUやOSなどの情報も得られ、フィルタリング機能を使って特定の条件でのデータ抽出ができる。
ユーザーがどのようにアプリケーション内を見て回っているかを可視化する画面「User flows」では、サービス提供側が意図した画面にユーザーが実際にたどり着いているか、または想定とは違う画面に移動しているかなどが分かる。また、ソースコードとして存在しているものの、GUIとしてほとんど利用されていない「デッドコード」を特定することもできる。
Web解析で一般的な直帰率や、画面ごとの滞在時間なども各画面に対して分析できる。比較機能を使用すると、異なる国やデバイスモデル、ソフトウェアバージョン間での使用状況の違いを確認できる。これにより、特定のバージョンアップがユーザー行動にどのような影響を与えているかなどの分析が可能となっている。
さらに、ファネル分析機能もある。これは、設定されたステップに対しユーザーがどの程度完了しているかを示すものであり、特定の目標達成率を測定できる。また、クラッシュ分析機能では、アプリケーションのクラッシュ率を把握し、どのような操作がクラッシュにつながるかを特定することも可能である。
プロダクトマネージャーとして、データに基づく意思決定を
これらの機能によって、Qt Insightはプロダクトの使い勝手の向上や問題の原因特定、投資対効果の改善を支援する。Qtを使用している企業にとって、Qt Insightを利用すれば、UI改善対応に必要な人件費やその他のコストの削減が期待できる。
プロダクトマネージャーの視点として平井氏は「製品のロードマップや機能の優先度を判断する場合、口コミや開発者の意見だけでは不十分です。人気のある機能を強化したり、重要な機能を追加したりするためにはリアルなデータが必要です。社内コミュニケーションや経営層との議論でも、勘や経験に頼るだけでなく、データに基づく判断が可能になるでしょう」とコメントした。
Qt InsightはQtで開発されたアプリケーションに対して使用できるので、商用ライセンスのQtに加え、オープンソース版のQtを使っているプロダクトでも利用できる。Qt Insightには2か月間の無料トライアルがあり、その後継続するには年間サブスクリプションを購入する形となる。なお、トライアルの登録方法などについては、Qtのブログで公開されている平井氏によるQt Insightの入門記事が詳しいので、そちらも併せて参照して欲しい。
GUIの重要性は高まっており、その最適化は商品の差別化において必須となっている。平井氏は最後に次のようにメッセージを残した。
「孫子の兵法にある『彼を知り己を知れば百戦危うからず』の言葉のように、相手と自分のことを知ることが重要です。限られたユーザーによるインタビューやパイロットテストもよいですが、市場にいる多くのリアルなユーザーから24時間データを収集することで、さらに精度の高い情報に基づいて自身のユーザーのことをより深く理解することができるはずです。確かなデータ収集を通じてUIの品質を向上し、より素晴らしいプロダクトをつくっていきましょう」
「Qt Insight」をより詳しく知るには
本記事でユーザー行動分析ツール「Qt Insight」に興味を持たれた方は、ぜひ公式ページもご覧ください。製品特徴に加え、動作する仕組みの解説や導入メリット、見積もり方法などが詳しくまとまっています。無料のトライアルも申し込めますので、実際に触って、その価値を実感いただければと思います。