相手の立場に立ち、相手にいかに価値を与えるかを考える
失敗事例までも楽しいことに変換してきた福井氏。若い頃、火消し役として遅延しているプロジェクトに徹夜で携わったことも、「身体的にはつらいのですが、それも別に嫌だとは感じませんでした。なぜなら、問題を解決する喜びがあったからです。わりと楽しんで取り組んでいました」と語る。
これまでで一番、つらかった時期は? と聞くと、「コンサルタントという職種に就いたとき」だと言う。なかなか思うようにうまく仕事が進まず、当時の社長に「自分視点では無く、どうすれば相手が成功するかという視点に変えてみなさい」とアドバイスを受けた。
「仕事で行き詰まると、人は『自分の能力が足りないからうまくいかないんじゃないか』という思考に陥りがちです。そうではなく、いかに相手のビジネスにとって価値を与えることができるのかを相手の立場になって考えることが大事だと教えてもらいました」(福井氏)
実はこの考え方を身につけたことが、AWSへの転職につながったという。アマゾンには「Our Leadership Principles(OLP)」という16項目からなるアマゾン社員の行動規範があり、その中の一つに「Customer Obsession(顧客に執着する)」が記されている。「このOLPが自分の考えにとてもマッチしていると感じて、AWSに応募しました」と福井氏は話す。
ロールとスキルがマッチすれば、年齢は関係ない
日本ではまだ60歳定年設定の企業も多い。そんな中で今年の8月で66歳を迎える福井氏は今もエンジニアとして最前線で仕事をしている。
「私がエンジニアとして楽しく仕事ができているのも、アマゾンは定年がないからです。アマゾンではロールに求められているスキルセットがあるかが重要で、年齢は一切、関係がないんです」(福井氏)
常に自身の成長を目指すことが求められ、ロールチェンジも可能です。自分の能力・スキルがロールにマッチしていれば、年齢に関係なく仕事を続けられるというわけだ。
「もし定年制度が不安だというのであれば、可能であれば定年制度のない会社に転職したほうがよいと思います」と福井氏は薦める。転職に当たっては、自分のスキルが世の中でどの程度評価されるのかを常に把握しておくことが大切である。その手段として活用できるのが、コミュニティに参加することだという。
福井氏も20代後半からコミュニティに参加した。「初めて参加したのは、マイクロソフト系技術のメーリングリスト。そこで質問したり、答えたりといったことをしていると、コミュニティ活動に参加しないか? と声がかかり、セッションの講師を務めるようになりました。1999年に東京に転勤になってからは、XPJUG(「XP祭り」を開催しているコミュニティ)に参画。このコミュニティ活動は今も続けています」(福井氏)
コミュニティ活動をすることで、福井氏自身、業界の中で自分がどのくらいのポジションにいるのかを把握できたという。
また、プレイヤーとしてキャリアを積むか、マネジメント側に進むかという選択肢についても、「個人的なスキルセットで価値を出せるのであればIC(Individual Contributor:部下を持たない技術のスペシャリスト)、マネジメントで価値を出せるのであればマネージャーというポジションを選ぶべきだと思います。私は以前の会社でシニアマネージャーも経験していますが、現在は、ICとしてのロールのほうがより価値を提供できると考えてエンジニアを続けています」と福井氏は語る。
技術進化が激しいIT業界。新しい技術が続々と登場する。シニアになっても追随していけるのかという不安についても、福井氏は「新しい技術が出てきても、それを修得するスタートラインはみんな同じ。若い人に比べると肉体的な衰えというデメリットはあっても、それを補う知識と過去の経験というメリットがある。というのもどんな新しい技術も過去の技術の流れの中で生まれてきたものなんです。その知識と経験があるから、その技術が出てきた背景を理解し、その技術が必要な理由について推測が成り立ち、比較的容易に身につけることができます」(福井氏)
