ユーザー視点の価値創出のため、アジャイルでのアプリ開発を決意
シチズン時計株式会社は、高精度な時計製造を中心に、多岐にわたる製品を展開してきた老舗企業だ。近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にも力を入れており、2024年4月に新たにリリースした「Health Scan」というプロダクトでは、アプリケーション開発の内製化に初めて挑戦したという。
「Health Scan」は、同社の対応機種である上腕式血圧計や手首式血圧計、電子体温計、体組成計と連携し、測定データを自動で記録・分析する機能を持つというものだ。またユーザーが自身の健康状態を瞬時に、かつ視覚的に把握し、適切な改善策を講じるためのサポートも提供する。
同社ではこれまで、アプリ開発を外部委託に頼ってきた。しかしこの体制には、一部の機能がブラックボックス化してしまい、内部での理解や改善が難しくなることや、外部ベンダーを介することで、コミュニケーションコストが非常に高くなるといった課題があった。さらには保守や運用の面でも問題が生じ、「ユーザーへの迅速な価値提供が難しくなった」と黒川氏は話す。
これらの課題を乗り越えるため、同社はアプリの内製化に踏み切った。しかも採用したのは、100年以上の歴史の中で得意としてきたウォーターフォール型開発ではなく、アジャイル型開発だ。この判断は、同社の中期経営計画で掲げられている「ありたい姿」、つまりユーザー視点での価値創出と継続的な向上にも結び付く、と黒川氏は話す。
なお、アジャイル開発の導入に際しては、導入自体が目的化しないように、しっかりとした認識のすり合わせを行ったという。黒川氏は次のように振り返る。
「ステアリングコミュニティやプロダクトオーナー(PO)との間で、『アジャイルはあくまで目標を実現するための方法』という認識の共有を徹底した。これにより、チームが迷うことなく目的に向かって突き進むことができ、エンジニアとしても開発を進行しやすかった」