パイプ演算子
PHP 8.5では、パイプ演算子により、入れ子になった関数を左から順に記述できるようになりました。従来は、関数呼び出しを入れ子にするには、引数として記述する必要があるため、階層が深くなるとカッコが何重にもなり、可読性を妨げる要因となっていました。あるいは、一時的に関数の戻り値を格納する変数など、冗長な記述を生み出していました。
以下のリストは、文字列をさまざまな関数で加工するものです。
// 関数を入れ子で呼び出して文字列を加工
$temp = "<p>Hello, world!!</p>";
$result = join("", array_filter( // 配列の'<', '>'でない要素を結合
array_map(strtolower(...), // 配列要素を小文字に変換
str_split(htmlentities($temp))), // 文字列をHTMLと見なしてエンティティ化、配列へ分割
fn($v) => $v != '<' && $v != '>'));
print $result . PHP_EOL; // <p>hello, world!!<p>
// 関数の引数と結果受け取りに一時変数を使って文字列を加工
$temp = htmlentities($temp); // 文字列をHTMLと見なしてエンティティ化
$temp = str_split($temp); // 文字列を配列に分割
$temp = array_map(strtolower(...), $temp); // 各要素を小文字に変換
$temp = array_filter($temp, fn($v) => $v != '<' && $v != '>'); // 配列から'<', '>'を除去
$result = join("", $temp); // 配列を結合して文字列化
print $result . PHP_EOL; // <p>hello, world!!<p>
[NOTE]関数引数の「...」
上のリストで、例えばstrtolower関数の引数になっている(ように見える)「...」は、PHP 8.1から利用できるようになったクロージャを生成する記法です。この場合、strtolower関数の呼び出しがクロージャになり、array_map関数に渡されます。なお、可変長引数を表す「...」とは意味が異なります。
パイプ演算子(|>)を使うことで、関数の戻り値をcallableに渡すことができ、これによって関数呼び出しのチェインを分かりやすく記述することができます。
mixed |> callable
callableは、以下のリストのように引数を1個受け取り、処理結果を返すように記述します。なお、callableをアロー関数で記述する場合には、全体をカッコ「()」で囲む必要があります。
// パイプ演算子で文字列を加工
$result = "<p>Hello, world!!</p>"
|> htmlentities(...)
|> str_split(...)
|> (fn($x) => array_map(strtolower(...), $x))
|> (fn($x) => array_filter($x, fn($v) => $v != '<' && $v != '>'))
|> (fn($x) => join("", $x));
print $result . PHP_EOL; // <p>hello, world!!<p>
カッコを何重にも重ねていたり、一時変数を使用したりしていたコードに比べると、「何を実現したいのか」という意図がはっきり伝わってきます。
クローン時のプロパティ設定
PHP 8.5では、cloneキーワードが拡張され、オブジェクトのクローン時にプロパティを変更できるようになりました。従来は、クローン後に個々のプロパティを書き換える必要がありました。
class MyClass {
public int $a = 10;
public int $b = 20;
}
$array = [ // 書き換え用の配列
"a" => 100,
"b" => 200,
];
$obj = new MyClass();
$cloned = clone $obj; // クローン
foreach ($array as $key => $value) { // ここで書き換える
$cloned->{$key} = $value;
}
print_r($cloned); // [a] => 100, [b] => 200
PHP 8.5のcloneでは、第2引数に書き換えるプロパティの連想配列を与えることで、クローンとプロパティの書き換えを同時に行うことができます。
$array = [ // 書き換え用の配列
"a" => 1000,
"b" => 2000,
];
$cloned = clone($obj, $array); // クローン+プロパティの書き換え
print_r($cloned); // [a] => 1000, [b] => 2000
finalプロパティプロモーション
PHP 8.5では、コンストラクタプロパティプロモーションにfinalプロパティを指定できるようになりました。
これにより、オーバーライドできないプロパティを明示できます。コンストラクタプロパティプロモーションは、PHP 8.0で導入された、プロパティの宣言と初期化を同時に実行できる構文です。
class MyClass {
public function __construct( // コンストラクタプロパティプロモーション
public int $x // プロパティ
) {}
}
そして、finalプロパティは、PHP 8.4で導入された、プロパティをオーバーライド不可にするキーワードです。これまで、コンストラクタプロパティプロモーションではプロパティにfinalを指定できませんでしたが、PHP 8.5においてこれが可能になりました。
以下のリストではプロパティ$xはfinal指定されているので、継承側でオーバーライドしようとしてもエラーとなります。
class MyClass {
public function __construct(
final public int $x // finalを付加してオーバーライド不許可
) {}
}
class YourClass extends MyClass {
public function __construct(
public int $x // Fatal error: Cannot override final property MyClass::$x
) {
parent::__construct($x);
}
}
定数のアトリビュート
PHP 8.5では、定数にアトリビュートを指定できるようになりました。これにより、クラスや関数、変数に指定できていたアトリビュートが、定数にも指定できるように拡張されました。
アトリビュートとは、PHP 8.0で導入された、クラスや関数にメタデータを与えるための構文です。
// MyAttributeアトリビュートを定義
#[Attribute(Attribute::TARGET_ALL)]
class MyAttribute {
public function __construct(public string $message) {}
}
#[\MyAttribute("This is a constant")]
const MyConstant = 100;
アトリビュートは、単一の定数宣言に対して使用できます。また、constキーワードで宣言される定数に対してのみ有効で、define()を使った定数宣言に使用することはできません。
#[\MyAttribute]
const MyConstant2 = 200, MyConstatnt3 = 300; // 複数の定数宣言→エラー
#[\MyAttribute]
define('MyConstant4', 400); // define()による定数宣言→エラー
