ランチミーティングで「口火を切る」——大企業ならではの導入戦術
技術的な検証結果を踏まえ、話題は組織への導入プロセスに移った。岩瀬氏自身がプライベートでClineやCursorを使い込み、「開発の世界観が変わる」という肌感覚を得たことがきっかけだった。社内で導入を進めるには、まず組織長や開発を理解している権限者を説得する必要がある。社内で信頼貯金があるエンジニアやテックリードを「そそのかす」のが最も早いと岩瀬氏は語る。
合意を得る手段として最も効果的だったのはデモだ。組織長の目の前でClaude Codeを使い、実際にモバイルアプリのコードを書かせたところ「これはすごい」とすぐにスポンサリングを得られた。「偉い人は忙しいので、正式な場ではなくランチミーティングで食べながらデモするのがおすすめ」という実践的なアドバイスも飛び出した。
導入にあたって避けられないのが知財・法務との連携だ。シャドーITは絶対に避けなければならず、知財や法務といったコーポレート部門との相談が不可欠になる。岩瀬氏が指摘するのは、よくある失敗パターンとしての「向こうにOKと言わせたい」というスタンスだ。相手にはすぐにバレるし、敵対関係になりやすい。正しいアプローチは「一緒に規約を読んで考えてくれませんか」という相談姿勢であり、同じ方向を向いて戦う関係性を築くことが重要だと強調した。
コンテキストエンジニアリング——AIを動かすのは「社内のデータ整備」
組織にコーディングエージェントを導入した後、チームとして意識すべき重要な論点がある。AIエージェントは汎用知識を備えているが、業務のドメイン知識は全く持っていない。「業務ドメインの理解度が非常に重要で、エージェントが正しく効果的に動くためにはコンテキストの整備に投資する必要がある」——これをコンテキストエンジニアリングと呼ぶ。
社内の情報がAIにとって使いやすい状態になっているか。ドキュメントに情報が残っているか。残っていたとしても発見可能な状態にあるか。岩瀬氏は「謎の巨大なExcelに仕様が書き込まれていないか」と問いかけた。大企業の社内情報の多くはPDFやWord、PowerPointといった非構造化データであり、生成AIが「いかに簡単に正確に情報を、すばやく見つけられるか」が生成AI活用の前提条件になっていると語った。
