「支援するAI」と「置き換えるAI」の差
3つの施策によってツールの展開は進んだ。現在、Devinが270名、Cursorが130名、Claude Codeが24名、GitHub Copilotが530名(エンジニア以外のメンバーも含む)に展開されている。Cursor Agentは月に40万行のコードを生成しており(すべてが採用されるわけではないが)、全体のPRのうちDevinによるものはマージ済みで約15%を占める。
展開を進める中で、もう一つ現実的な壁も見えてきた。AIが効果的に推論できない古いプログラミング言語や独自の文字コード、レガシーな環境に対してはツール自体が対応できないケースがあるのだ。「レガシーの問題を解決するためにAI駆動開発ツールを使いたいのに、レガシーすぎるが故にツールを使えない」という皮肉な状況が、長年の開発資産を持つ組織には生じうる。
ただし、数字を詳しく見ると気になる点がある。Cursorのユーザーは130名にのぼるが、Premium Requestを使い切るほどハードに活用しているのは約20名(15%)程度にとどまる。CursorやClineによるPR数の増加は、Devinのような形では確認できていない。
こうした数字から見えてきたのは、CursorやClineのようにエンジニア個人を支援するツールよりも、Devinのように開発プロセスの一部を置き換えるツールの方が、PR数といった指標への影響が見えやすいということだ。
また、ツールの活用度合いはAI駆動開発への熱意の分布とほぼ連動しており、ツールを展開しても使いこなしている人が一部に限られる以上、組織として大きな効果は生まれにくい。
「AIツールの展開」というキャズムは越えられたが、「AIによる開発プロセスの変容」というより深いキャズムが、その先に存在していた。
次のキャズムへの挑戦
2025年8月、MonotaROは改めて方針をアップデートした。次のフェーズは、開発プロセス全体(SDLC:Software Development Life Cycle)にわたってAIの活用度を引き上げることだ。
まず計画・設計・実装・テスト・デプロイ・運用という各フェーズと各チームを掛け合わせてAI活用度を評価・可視化する基準を策定し、活用が進んでいるチームのプラクティスをAIトレンドラボを通じて展開していく。移行は段階的で、まずCursorやClineを使って試行錯誤しながらAIに任せられるプロセスを少しずつ増やし、その後DevinとMCP(Model Context Protocol)を組み合わせてAIが単独でプロセスを完結させる状態を目指す。
「Devinだけでプロセスが完結する状態をめざすと、必然的にコンテキストやMCPの整備が必要になるので、AI駆動開発チームで先行して着手する」と香川氏は述べる。そしてこうした技術的な変革と並行して、価値探索プログラム、トレンドラボ、道場の3つの仕組みにSDLCでの評価と可視化を加えた4本立ての取り組みを継続させていく。
仕組みがなければ「熱量」は広がらない
ツールを配布するだけでは、もともと熱意のあるメンバーにしか届かない。個人の熱量に頼る展開は持続可能な文化にはなりにくい。熱量のあるメンバーを巻き込み、横のつながりを生み、スキル習得の機会を用意する仕組みを設けることが、キャズムを越えるための条件となる。
MonotaROは「AIによる開発プロセス変容」という第二のキャズムの手前にいる。「ツール展開」を達成した後にこそ、本当の変革の課題が始まる。この認識は、同様の取り組みを進める多くの開発組織にとっても、参考になるはずだ。
