Force.com ~ 100%ビジネス向けのクラウド
次にセールスフォース・ドットコムの及川氏が同社のクラウド「Force.com」について説明。及川氏は“ただのGeekでいられない”というキーワードを掲げ「テクノロジーを追求する開発者であるGeekと、経営者や管理職、IT以外のビジネスマンをSuitsとすると、その間を取り持つのが『Force.com』です。純粋な開発環境というよりは、ビジネスに寄ったものと考えてください。開発者は、技術だけを追いかけていてはダメで、オーダーしてくるお客さまのビジネスの成功を考えなければなりません」と、開発者のあり方について話した。
及川氏は「クラウドコンピューティングといってもいろいろあります。Facebookはコンシューマー向けのソーシャルアプリケーションを実現するプラットフォームで、AmazonやGoogleはCPUやストレージを中心に一般向けのWebアプリケーションを提供しています。Salesforceの場合は、100%ビジネス向けです。なぜFacebookやAmazon、Googleの名前を出したかと言うと、Salesforceはそれぞれ連携ができるからです。Salesforceの特徴は、ハードウエアや基本的なフレームワーク作成などの準備がされているため、今日からすぐに使い始めることがき、即座に目的のビジネスアプリケーションを開発できる点にあります」とクラウドならではの利点をアピールした。
さらに、及川氏はリレーショナルなデータベースをストアできることや、それにアクセスするためのWeb API、ワークフロー承認プロセス、レポーティング、カスタムロジック、インターフェイスなどの機能があることを解説。加えて、StarbucksやDELL、オバマ大統領のサイト「Change.gov」でも利用実績がある、エンドユーザーからのアイデアを収集する「Salesforce CRM Ideas」などの事例を紹介した。DELLの場合、「Linuxのプリインストールモデルがほしい」というユーザーからの意見が多数集まったため、その結果を受けてLINUXをインストールしたモデルの提供を開始した。オバマ大統領のサイトでは、「新政権に何を求めるか」という国民からの要望を集めることに成功したという。
Windows Azure ~ PCと同様のインターフェイスを目指すクラウド
続いて登場したパネラーはマイクロソフトの萩原氏。同社のクラウドベースのWebサービス基盤「Windows Azure」について解説した。「Windows Azure」の構成は、クラウドOSである「Windows Azure」上に「Live Services」やWorkflowなどの「.NET Services」、データベースに相当する「SQL Services」といったビルディングサービスブロックがある。将来的には今ある同社のサーバ製品がクラウド上でも同様のインターフェイスで動作するようになるという。「PC上でもクラウド上でもどちらでも動く環境を作っていくが、現実的にはその両者を組み合わせるのがいいソリューションではないかと考えています」と萩原氏。
萩原氏は、トランザクション処理のベンチマークを見せ、既存のスケールアウトの戦略でも十分な性能を出しているものの「性能的には満たしていますが、コストはかかります。今後は、標準的なサーバを使っていかに安いコストでスケールアウトしていくか、というのがクラウドをすすめるモチベーションとなっています」とした。
続いて「Windows Azure」のアプリケーションアーキテクチャについて「WEBアプリケーションを扱う『Webロール』、ビジネスロジックを扱う『Workerロール』があります。ロールは、コンテナに非依存な抽象化されたプログラムの実行単位みたいなものです。その間にストレージサービスがあることが重要です。クラウドの場合は、メッセージをキューに入れることによる非同期トランザクションを使ってスケーラビリティを実現しているからです。インターネットから来た処理はWebロールに渡され、それがストレージに渡され、Workerロールが取り出します。このように、クラウドは10万台~100万台規模のサーバで並列処理をしているため、今までのアプリケーションとは違った実行方法をしています」と、インフラの違いを解説した。
インフラは異なるが、外から見た開発環境はこれまでとあまり変わらず、Visual Studioを使った開発ができ、既存の.NET向けのアプリケーションはわりと簡単にクラウド上に展開できるととし、Visual StudioにAzureのSDKをインストールした環境での開発のデモンストレーションを行った。
RC2/IBM Technology Adoption Program/BlueCloud ~ さまざまな形態のクラウド
モデレーターの米持氏は、IBMのクラウドの取り組みを紹介。「社内の部門単位ではサーバを立れられず、クラウドを活用しています。研究所は『RC2(Research Computing Cloud)』、社内のテスト用は『IBM Technology Adoption Program 』を使います。『BlueCloud』は、アメリカや中国の大学や、新規の企業向けに貸し出しているクラウドです。CPUの時間貸しなども行なっています。また、“マルチテナンシーアプリケーション”といって、一つの環境に複数の会社に入ってもらって利用するシステムもあります。“ディザスター・リカバリー”といって、何かあったときのリカバリーに使うためにデータを預かるのクラウドもあります」など、さまざまな取り組みを紹介した。
また米持氏は、ソフトウエアの構造もクラウド的になっていると指摘「Lotus Quickr」「WebSphere sMash(Groovy)」「Lotus Mashups」「InfoSphere MashupHub」などは、インストール後はブラウザで操作し、ローカルのPCにはファイルを保存しないようなものが増え、開発者は雲の下に来るようになっているとした。仮想化もクラウドには重要で、“アプライアンス”と呼ばれる、OSやDBをVMのパッケージにするという仕組みも増えているとした。
さらに米持氏は「クラウドは、各社の技術や取り組みは違うものの、スタイルは同じ」と指摘し、クラウドには、GoogleやSalesforceなど、インターネットで展開されているパブリックなものと、会社の中だけで展開されるプライベートなもの2種あるというガードナーの資料について説明した。