2011年11月、アドビシステムズ(以下、アドビ)は新たな戦略として、Flash Platformは今後「Adobe AIRによるモバイルアプリ」および「デスクトップ向けFlash Playerプラグイン(主にゲームやビデオ)」に注力し、モバイルブラウザ向けのFlash Playerの開発は終了すると発表した。
この発表は一時大きな話題となったが、その後、同社のMike Chambers氏より、このような判断に至った経緯や、今後のFlash Platformの位置づけが詳しく説明された(詳しくはMike Chambers氏のブログを参照)。
この記事では、同社は今後エンタープライズ領域においてどのようにFlexやHTML5と関わっていくのか、その戦略や展望についてレポートする。
Flexは今後、コミュニティ主導型へ
――先日、Apache Software FoundationへのFlex SDKの寄贈計画が発表されました。アドビは今後、Flexにどのくらいコミットしていく予定ですか?
まず、アドビシステムズとしては、Flexに関する開発をコミュニティ主導型で牽引していくモデルに変更していくのは、非常にエキサイティングなことだと思っています。コミュニティ自体が長きにわたり、そういったモデルを求めてきたとも言えるからです。
アドビシステムズ側では、長期的に見た場合には、これまでと同様のリソースをFlexに投資する予定はありません。今後は、コミュニティとの連携を増やし、移行に関しては必要に応じて手伝っていきたいと思っています。そのような進め方により、今後はFlexの開発をバランスよく行うことができると考えています。
――Flexの開発に対するアドビの具体的なリソース配分は?
アドビ側ではFlex専任のエンジニアリングを用意し、リソースを割り当てていく予定です。特に期間を決めて行うような限定的なものではありませんが、ただ、これまでFlexに当ててきたリソースよりは少なくなるのではと考えています。
――今後のFlash Builderのサポート予定は?
一度Flexコミュニティのメンバーを20人ほどサンフランシスコに招待し、その場で今後のFlexのロードマップについてや、Apache Software Foundationへの移行作業についても話し合いたいと思っています(※後日行われたディスカッションの模様は『Adobe TV:Flex Community Summit: December 2011』を参照)。
Flash Builderは現在、Flex SDK 4.6に対応していますが、今回のバージョン4.6が、Flex SDKを搭載する形で対応するものとしては最後となります。今後、FlexがApache Software Foundationに移行されていくことにより、アドオンなどで利用する形へと変わっていくでしょう。ただ、今後も従来通り、Flash BuilderでFlexを使っていくことはもちろん可能です。また、ゲームなどに使われるpure ActionScriptなどの部分も、引き続き改善していきたいと思っています。
さらに、新しいツールも引き続き開発中です。例えば、Adobe MAXのSneak peeksでプレビュー版を公開したアプリ内部の構成をリッチに表現するツール「Monocle(モノクル)」などは、パフォーマンスチューニングやデバック時に有効となるでしょう。
モバイル向けのFlash中止の発表に対して
――今回、モバイル向けのFlash中止の発表に対して、周囲の反応はどうでしたか?
発表前から、対Appleなどの構図を書かれてしまうだろうと予想はしていました。発表当初の全体的なリアクションとしては、やはり「これまでフラッシュを支えて提唱していたのに」と感じるコミュニティの皆さまからのフラストレーションが多かったように感じます。
そして発表の2日後、ブログにて説明させていただき、アドビの意思決定をユーザーの皆様にご理解いただけたかと思っています。しかし、理由は理解できても、情報の開示やプレスでの報道などで意思をうまくお伝えできず、フラストレーションを感じる部分もあったかと思います。
――今後、ユーザーはFlexの開発を続けていいのでしょうか。また、どれくらいの期間、HTML5に対する優位性は続くとお考えですか?
現在、技術的な側面で捉えると、やはりHTML5は全体的なトレンドとなっていると思います。3年~5年というスパンで考えると、エンタープライズ向けのアプリは、HTML5を中心に行われていくでしょう。
しかし、どうしてもHTML5を選択しなければならないというわけではなく、今後もFlashは、デスクトップでもモバイル(AIRアプリケーション)でも存在し続けます。
アドビは、これらに対し積極的に開発を進めていきますし、FlexがApache Software Foundationに寄贈されるということは、今後もFlashが継続して開発されることを保証するということでもあります。ただ、現行プロジェクトに何を使用しているかにかかわらず、技術としてHTML5のこと「も」知っておく必要があることは確かです。
実際、開発者に対して、クライアントがHTML5では何ができるのか問いかけられたり、HTML5を使用してほしいと依頼されるケースも増えてきつつあります。その時、最適な選択肢を提供できるよう、HTML5の正しい知識を知っておくことが必要です。複数の選択肢を提示したうえで、Flexが最適だと判断いただいた場合は、採用していただくという形になるでしょう。
現在開発中のツールに関して
――クロスコンパイラ「Falcon JS」についての開発は?
Falcon JSは、ActionScriptをクロスコンパイルし、JavaScriptに変換するツールですが、現状はまだ実験的な技術です。クロスコンパイラとしてだけでなく、そのほかに考えられるFalcon JSの主な用途なども模索しながら、良いソリューションになるのかどうか、開発を続けていきたいと考えています。
――今、アドビが手掛けているHTML5関連のツールは?
既に発表しているHTML5のオーサリングツール「Edge」だけでなく、他にも未発表のものをいくつか開発中です。主に、今Flashデベロッパーが慣れ親しんでいる現状のものを、HTML5にエクスポートすることを目的としたもので、FlashコンテンツをHTML5にエクスポートする「Wallaby」などがあります。
HTML5は若い技術のため、いろいろな研究を行い、その有効な用途を模索している最中です。来日の際、顧客訪問などで、HTML5の必要性などを聞き出しています。やはりユーザーからは、Flashと同じようなものをHTML5で実装するには? という質問などは多いですね。HTML5のCanvasを、Flashのように扱える「Easel JS」といったJavaScriptライブラリも開発されていますので、これらもFlashデベロッパーがHTML5技術を学ぶための手助けとなるでしょう。
大事なことは、技術の一長一短を相互に受け入れること
――エンタープライズアプリ開発におけるHTML5の課題とは?
HTML5の一番大きな課題は、いろいろな種類のブラウザをまたがる必要があることです。CappuccinoやjQueryなどのJavaScriptライブラリが有効になる部分で、この点は、Flashが優位性を持てる部分とも言えるでしょう。
エンタープライズ領域において、HTML5で対応できるのかと問われれば、もちろんYESだと思います。FlashやFlexとは、開発モデルから全く別のものなので、開発における課題も別物となるでしょう。自分がどのコミュニティに属しているかにより、優位性や課題に関しても、考え方は異なってくるものだと思います。
何よりも重要なことは、このように異なる技術があるとき、その技術の一長一短を相互に受け入れることです。アドビは、ユーザーに最適な選択肢を提示できるよう、今後もあらゆる可能性を模索していきたいと思います。