SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

【デブサミ2013】セッションレポート(AD)

【デブサミ2013】15-A-3 レポート
「モバイル HTML5 による世界への挑戦」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 2012年夏、FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグの脱HTML5宣言により、海外ではネイティブアプリの方向に進んでいる。それとは対照的に日本はHTML5へのシフトにきれいに成功。その結果、世界的に見てもモバイルHTML5の最先端を走っている。今後モバイルHTML5はどう進化していくのか。そして日本がどのような提案を世界に発信していくことができるのか、DeNA グローバルプラットフォームシステム統括部 ソフトウェアソリューション部の紀平拓男氏が解説した。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
株式会社ディー・エヌ・エー グローバルプラットフォームシステム統括部
ソフトウェアソリューション部 紀平拓男氏
株式会社ディー・エヌ・エー グローバルプラットフォームシステム統括部 ソフトウェアソリューション部 紀平拓男氏

PCの世界でのWebの歴史はモバイルでも繰り返す

 「モバイルHTML5の最先端を走っているのは日本。この分野はこれまでのように先行者に倣うことなく、自分たちでモバイルWebアプリの未来を作っていけるんだ」

 DeNAの紀平拓男氏は、HTML5によるFlash Player「ExGame」の開発者。現在はHTML5の専門家として国内はもちろん、海外の最先端プレーヤーと情報交換するなど、積極的に活動している。

 紀平氏はモバイルWebの話に先立ち、パソコン世界においてWebがどう進化してきたのかについて話を始めた。

 「最初のターニングポイントは、Windows 95の発売だった。このときに初めてOSの中にインターネットへの接続機能が標準装備されたからだ」と紀平氏。この当時は「コンピュータを使う=アプリを使う」という時代。インターネットも主にアプリを手に入れるために使われていた。ただしインターネット接続はISDN(64kbps)というナローバンドだった。

 「当然、開発環境もアプリ一色。インターネットを使うサービスはごく一部しかなかった」と紀平氏は振り返る。

 「そんなアプリ一色の時代から、徐々に変わってきたのが2001年」だと紀平氏は続ける。Yahoo! BBなどのADSLが登場したことで、インターネット環境は激変。ブロードバンド元年とも呼ばれている。ブラウザの開発も盛んに行われ、2001年にはInternet Explorer 6(IE6)、2002年にはOpera、03年にはSafari、04年にはFirefoxが登場。一般家庭でもインターネットを活用する機運が高まってきた。

 「私がJavaScriptに目覚めたのも2001年である」と紀平氏。

 開発環境もアプリ一色から脱し、Web系の開発環境が増加、充実してきたという。「当時、注目を集めていたのはJava系の新技術。PHPのメジャーバージョンであるPHP4がリリースされたのもこの頃(2000年)だ」と紀平氏は語る。時を同じくして、AmazonやブログなどのWebサービスが台頭してきた。またインターネットへの常時接続が主流となったことで、Webサービスもページ遷移(Request-response)型が登場した。

 「2004年に大きな変化が訪れた。それはリッチ・インターネット・アプリケーションの登場である」と紀平氏。AJAXアプリの台頭により、GmailやGoogle Maps、YouTubeなどネイティブアプリと比べても遜色のないUIを持つWebサービスが登場したのだ。これらのWebサービスのすばらしい点はそれだけではない。標準準拠でクロスブラウザを実現していたことだ。

図1 AJAXアプリの台頭により、ネイティブアプリと比べても
遜色のないUIを持つWebサービスが登場した
図1 AJAXアプリの台頭により、ネイティブアプリと比べても遜色のないUIを持つWebサービスが登場した

 この頃にはインターネット回線はさらに品質が向上し、FTTH100Mbpsなどのサービスも登場。さらにはFacebookやTwitterなど新たなリッチWebサービス企業も登場する。

 そんな状況下で、高い注目を集めるようになったのがJavaScriptである。

 それまでJavaScriptというと、ホームページの装飾的なものを作成するために使われるのが一般的だった。しかしGoogleがJavaScriptはもっとすばらしいアプリケーションを書ける言語だと証明したことで、prototypes.jsやGWT、jQueryなど、さまざまなJavaScriptのフレームワークが登場した。

 そして次のターニングポイントとなったのが、2008年のiPhone発売(米国では2007年発売だが)をきっかけとしたスマートフォンの登場である。そして2008年以降、スマートフォンの時代となっている。

 「長々とWebの歴史を振り返ったのにはわけがある。それはモバイルWebにおいてもこれと同じ歴史を繰り返すと思ったからだ」と紀平氏は説明し、本論であるモバイルWebの現在へと話は移った。

Webならではの可能性を追求することでアプリに勝つ

 「現在、モバイルWebの世界で最もホットな話題が、Flash Playerの攻防だ」と紀平氏。故スティーブ・ジョブスのかつての発言「HTML5があればFlashはいらない」がその発端でもある。

 しかし日本ではまだフィーチャーフォンが主流で、そのコンテンツのほとんどはFlash Liteで作られていた。とはいえスマートフォンの割合が増えることは、当時からもはや確定事項だったと紀平氏は言う。「このままでは、既存のコンテンツがスマートフォン上では動かなくなる」──そのような危惧を抱いたことから、紀平氏が開発したのが「ExGame」である。

 「この技術を開発したことで、業界としてモバイルHTML5にきれいに移行できるようになった」と紀平氏は言い切る。

 しかしながら2012年夏、大きな出来事があった。「マーク・ザッカーバーグが『HTML5に賭け過ぎたことは、一番大きな失敗だ』という発言をしたこと。これは事実上、Facebookの脱HTML5宣言とも言える。これにより、米国ではHTML5離れが進んでいる」と紀平氏は説明する。その一方、日本での認識は違う。紀平氏を含め、HTML5に取り組んでいる人たちは、必ずHTML5の世界がくることを信じており、「一番のライバルが最先端から降りてくれたので、むしろ嬉しい」と捉えているというのだ。

 Facebookをはじめ、HTML5離れを起こすのには理由がある。それは速度や音楽、3Dに課題があるからだ。そしてもう一つが互換性の問題である。「iPhoneは問題ないが、Android端末の互換性は絶望的だ」と紀平氏は言う。その理由はベンチマークで有利になるよう、各社がブラウザのソースコードを書き換えてカスタマイズしていること。つまり「端末ごとのブラウザが誕生している」(紀平氏)状態だからだ。非常にリッチなインターフェースを用意しているCSS3はまったく使い物にならない。「メジャーな端末に対応するだけでも不可能なほどの工数が発生する」と紀平氏。DeNAが採用しているCanvasでも、問題が多数発生するという。

 どんな問題が発生するのか。紀平氏はその極端な例として、紀平氏にきたツイートを紹介した。それが「Androidを温めると表示が乱れる」という笑い話のようなバグの報告である。このようにとんでもないことが、開発現場では起こっているのだ。

 そのような技術的な課題は山積しているものの、マーケット的にはどうなのか。国内におけるソーシャルゲームは年間3900億円規模で、それだけモバイルHTML5には可能性があるというわけだ。

 そこでDeNAでは、誰もがモバイルHTML5を扱えるよう、ExGameなどミドルウェア展開に注力している。また、日本ではオープンソースによる貢献も活発だという。Arctic.jsやJSXなどはその代表例である。「このようにモバイルHTML5では、日本のほうが米国よりも先端を走っている」と紀平氏は自信をもつ。

 では、今後モバイルHTML5はどう進んでいくのか。私見ではあるがと前置きし、紀平氏は次のように語った。

 「PCの世界同様、モバイルWebにおいてもリッチアプリが出てくると思う。つまりGmailやGoogle Mapsのように、アプリと変わらないUIを持つWebアプリが登場してくるのは間違いない。そのような未来を見越し、私たちは研究開発に取り組んでいる」

 Rage of BahamutやMarvel War of Heroes、Blood Brothersは、米Google Playゲームランキングで常に上位に位置する同社のゲームだ。前2つのゲームはアプリで提供しているが、中身はHTML5で記述されているという。一方Blood BrothersはngCoreを使って開発されたもの。ngCoreとはJavaScriptで記述すればiOS、Android双方のOSで動作するゲーム開発エンジンである。

図2 米Google Playゲームランキングで上位に位置する同社のゲームでも
「ExGame」や「ngCore」が使われている

 「さらに私たちは、これらの技術を用いてHTML5でも動かせるように研究開発に取り組んでいる。すでにここまでできている」

 そう語り紀平氏は、Blood Brothersのデモを実施した。最初にアプリでの動作、次にモバイルSafari上のBlood Brothersの動作を見せた。「アプリとほとんど変わらない動作」と紀平氏が言うように、その動きは本当に滑らかだった。

 「将来的にはアプリとほぼ変わらないようなWebアプリが出てくるのは間違いない。しかし、どれだけ頑張って近づけようとしても、速度だけはアプリに絶対、敵わない。Webアプリのメリットはインストールが不要なこと。そういうWebならではの可能性を突き詰めていくことが大事」(紀平氏)

 URL一つで同じ情報を簡単に共有できるというのも、Webならではの特徴だ。例えばゲームの進捗や状況を友人たちに知らせたいと思っても、アプリだとスクリーンショットを撮り、FacebookやTwitterに貼り付けて情報を流すことしかできない。しかしスクリーンショットはスルーされてしまうのがオチである。一方、ゲームがモバイルHTML5で作成されていれば、URLを指定するだけで情報の共有が可能になる。それを見て面白いと思えば、すぐゲームを始めることもできる。「スクリーンショットよりも数倍大きい口コミの効果になる」と紀平氏。

 そして最後に紀平氏は、近い将来、JavaScriptがなくなる日が来るのではという。その要因の一つとして挙げたのが、Googleが掲げるネイティブクライアント構想『Google Native Client(Google NaCl)』である。ネイティブコードに書き直すなどの問題が生じ、工数が爆発的に増えるからだ。

 またオープンソースのJSXも、JavaScriptに取って代わる可能性があるという。JSXはどのブラウザでもベストのパフォーマンスを出せるように設計されているからだ。

 「当たり前だと思っていることを、考え直す。その先に新しいことが見える」

 こう語り、紀平氏のセッションは終了した。

お問い合わせ

株式会社ディー・エヌ・エー

〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ

http://dena.jp/

この記事は参考になりましたか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/7027 2013/03/08 14:00

イベント

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング