SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

Developers Summit 2025 Summer セッションレポート

生成AI時代のSREはどう事業に貢献するのか──LayerX中川伸一氏が語る、信頼を起点にしたチーム立ち上げの実践知

【18-B-5】ゼロから始めるSREの事業貢献 - 生成AIプラットフォームSREチームの立ち上げと現在地とこれから

 単純作業をAIに委ねられる昨今、エンジニアの業務は大いに効率化された。しかしその分、SREには組織や事業全体を支えるという、より複雑で責任の重い役割が課されている。こうした状況の中で、「一人目SRE」として現場に立ち、その課題と正面から向き合ってきたのが株式会社LayerX Ai Workforce事業部 SREの中川伸一氏だ。本セッションでは生成AIプラットフォームを舞台に、中川氏がSRE組織の立ち上げを主導し、信頼を積み上げてきた実践の軌跡が語られた。

生成AI時代、SREに本当に求められるものは何か

 株式会社LayerXの中川伸一氏は、コンサルティングファームでSRE/クラウド組織のマネージャーを務めた経験を持ち、ベンチャー企業ではフルスタックエンジニア、EM、CTOといったロールを歴任してきた人物だ。現在、中川氏が所属するAi Workforce事業部では、エンタープライズ向け生成AIプラットフォーム「Ai Workforce」を提供しており、Azureを基盤に生成AIサービスを中核に据えたクラウドネイティブな構成を採用している。本セッションでは、このプロダクトを支えるSRE組織の立ち上げ経験を軸にトークが展開された。

株式会社LayerX AI・LLM事業部 SRE 中川 伸一氏
株式会社LayerX Ai Workforce事業部 SRE 中川 伸一氏

 冒頭で中川氏は、生成AI時代のSREには「変わったこと」と「変わらないこと」があると指摘する。変わらないものとして挙げられたのは、オブザーバビリティの整備、SLO/SLAの設計と運用、トイル削減、インシデント対応といった基本的な実践である。システムの状態を可視化し、異常を早期に検知し、障害発生時には迅速に対応したうえで透明性のある振り返りを行う。これらは、生成AIが登場してもなお揺るがない、SREの中核的な役割だ。

 インフラの信頼性向上やクラウドコストの最適化も同様である。高可用性・高スケーラビリティを前提とした設計、ボトルネックを生まない構成、DRやBCPを見据えた設計判断などが、これまでと変わらず重要であり続ける。オートスケーリングなどの仕組みを活用し、SLAを維持しながら運用負荷とコストを抑える姿勢も、SREの基本としてあらためて確認された。

 一方で、生成AIの普及によって顕在化した課題もある。中川氏が挙げたのは、生成AI導入を前提としたアーキテクチャ設計、AIサービスやLLMモデルの急速な進化への対応、そしてステークホルダーとの連携である。

 生成AIをシステムに組み込む以上、トークン上限やレート制限といった制約は避けられない。PoC(検証)段階では表面化しなくとも、本番運用で利用者が増えれば、これらを前提にした設計は不可欠になる。結果として、アーキテクチャ設計の難易度は従来よりも上がっているという。

 しかも、LLMやAIサービスは更新サイクルが極めて速い。モデルの切り替えや廃止、デプロイ戦略の変更はインフラだけで完結せず、アプリケーション設計との密な連携を要求する。DevOpsやCI/CDの文脈においても、これまで以上の柔軟性が求められる状況にあると中川氏は分析する。

 加えて重要性を増しているのが、ステークホルダーへの説明責任である。障害対応後のポストモーテムをエンジニア内部に閉じず、事業部門や顧客にまで説明する場面では、システムやクラウドの構成を理解するSREが前面に立つケースが多い。デリバリー全体を通した可視化と説明は、生成AI時代のSREに強く求められる役割になりつつあるのだ。

 こうした「変わらない責務」と「増え続ける新たな責務」を整理したうえで、中川氏が生成AI時代のSREに求められる要素として示したのは、「クラウドネイティブ」「クラウドストラテジー」「マネジメント」という3つのキーワードである。

生成AI時代のSREには、クラウドネイティブな設計力、事業と技術をつなぐクラウド戦略、そして技術起点のマネジメント力が求められる
生成AI時代のSREには、クラウドネイティブな設計力、事業と技術をつなぐクラウド戦略、そして技術起点のマネジメント力が求められる

 まず、「クラウドネイティブ」について。生成AIを組み込んだサービスはリソース消費の変動が激しく、クラウドネイティブな技術スタックを前提としなければ、可用性とスケーラビリティを両立させた運用は難しい。

 次に、「クラウドストラテジー」とは、「なぜクラウドを使うのか」「なぜその構成を選ぶのか」を、事業や組織の文脈に沿って説明するための視点を指す。生成AIサービスでは、モデル選定やコスト構造、将来的な拡張性が事業戦略に直結する。そのためSREには、技術的に正しい構成を示すだけでなく、その選択が事業にとってどんな意味を持つのかを説明する役割が求められるという。

 最後に「マネジメント」は、生成AIという不確実性の高い領域において、新しい技術やサービスをどのように組み込み、運用し、問題発生時にどう対処するか、その一連の流れを設計・推進するテクニカルプロジェクトマネジメント能力を指す。SREは単なる運用担当者ではなく、技術と事業の間に立ち、複数の要素を束ねながら前に進める存在になりつつある——それが、中川氏の見解だ。

次のページ
一人目SREが信頼を勝ち取るまでにやったこと

この記事は参考になりましたか?

Developers Summit 2025 Summer セッションレポート連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

CodeZineは、株式会社翔泳社が運営するソフトウェア開発者向けのWebメディアです。「デベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディア」をコンセプトに、現場で役立つ最新情報を日々お届けします。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/23022 2026/02/25 09:00

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング