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CodeZineスーパー対談

受託開発は「納品」をなくせばうまくいく? なくさなくてもうまくいく?
ソニックガーデン倉貫義人氏、グロースエクスパートナーズ鈴木雄介氏対談

CodeZine スーパー対談 シリーズ 第3回


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 納品をなくすことが本当に開発者の幸せにつながるのか。今年6月に刊行され大きな反響を呼んでいる書籍『「納品」をなくせばうまくいく』を執筆した株式会社ソニックガーデンの倉貫義人氏と、同書に対し自身のブログで「納品をなくさなくてもうまくいく」と異議を唱えたグロースエクスパートナーズ株式会社の鈴木雄介氏が、「納品と開発者の幸せ」をテーマに対談。リモート開発での顧客との信頼関係、人月による契約と成果による契約、新人教育などについて激論を交わしました。

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 また、今回の対談のモデレータを、倉貫氏、鈴木氏とも交流の深い株式会社SyncThoughtの橋本吉治氏が務めました。

 

顧客企業と受託開発スタイル

橋本 ► 倉貫義人さんは、近著『「納品」をなくせばうまくいく~ソフトウェア業界の“常識”を変えるビジネスモデル』(日本実業出版社刊)で「納品のない受託開発」を提示し、話題を集めています。個人的には、この書籍は倉貫さんの試みの集大成で、開発者の幸せが顧客の幸せにつながる、1つの方法論を示しているのではないかと思っています。

 この書籍に対し、ブログで「「納品」をなくさなくてもうまくいく」と反論的な感想を寄せたのが鈴木雄介さんです。お二人の考えの違いを突き詰めると、個別の開発現場でより幸せな開発を模索するヒントが得られるのではないかと思います。

 では、まずお二人の会社と代表的な事例について紹介していただきましょう。

左から SyncThought 橋本吉治氏、グロースエクスパートナーズ 鈴木雄介氏、ソニックガーデン 倉貫義人氏
左から SyncThought 橋本吉治氏、グロースエクスパートナーズ 鈴木雄介氏、ソニックガーデン 倉貫義人氏

 

納品がなく成果で契約、IT部門がなく新規事業を始める会社が中心

倉貫 ► ソニックガーデンでは「納品のない受託開発」というビジネスモデルを採用しています。従来の受託開発では、システムを納品して初めてお金をもらえます。つまり、納品は受注側にとってゴールです。しかし、発注側では納品後にシステムの利用を開始します。つまりスタートです。このすれ違いが受託開発におけるさまざまな問題の原因であり、「納品」をなくせばその問題が解決するのでは、と考えました。

 まず、納品がなければ作業の終わりがなくなり、お客さんが必要とする限り仕事を続けられます。また、お客さんがほしいのは、エンジニアが働く時間ではなく、働いた結果、つまり成果です。そのため、開発費を人月で見積もるのではなく、定額にし、成果で契約しています。

 さらに、検収のために開発初期に行う要件定義が不要になります。僕らは、要件定義を行わず、お客さんと一緒にビジネスに必要な機能を検討し、設計、実装、運用を行います。お客さんにその成果を受け入れてもらったら、翌週には次に必要な機能を検討して設計し、……という形で、お客さんが必要とする限り仕事を継続します。その他にも、「ドキュメントを作らない」「お客さんのところにいかない」「営業担当がいない」「納期を死守する約束をしない」などを実践してコストダウンを図り、お客さんにとっては安く、僕らにとってはそこそこの金額で仕事をしています。

 お客さんには、インターネットで新規事業を始めたいという会社が多いです。たとえば、株式会社AsMamaは、インターネットでベビーシッターのマッチングサービス事業を行う会社です。事業を始めるときには、ビジョンはあるが、IT部門がなくどうすればよいかわからない。SIerに頼むと要件定義をすることを求められるが、新規事業で要件定義は難しくて頼めないという状況でした。ソニックガーデンは、AsMamaさんのようなお客さんに対し、社外のCTO的な立場で、ビジョンの実現のために何が必要かを話して、少しずつ開発や運用を進めていきます。それぞれのお客さんにはエンジニアがついて全工程を担当し、リモートで仕事をします。

 受託開発は、製造業ではなくサービス業だと思っています。そして、納品をなくすことが会社の幸せにもつながると考えています。現在は12名という少数精鋭で回しており、これからもゆっくりと成長していきたいと考えています。

プライム、非常駐、歴史ある有名企業が顧客に多い

鈴木 ► グロースエクスパートナーズは、SIとWebマーケティングの会社です。普通のSIerと違うのは、ほぼプライム(顧客システムの完成に直接責任を負うSI企業)でやっていること、非常駐の案件がほとんどであることです。

 また、お客さんには誰でも名前を知っているような会社が多いです。たとえば、株式会社東京商工リサーチさんです。規模は小さいですが、122年の歴史を誇り、「倒産」という言葉を世に広めるきっかけを作った、日本初の信用調査会社です。弊社は、tsr-van2という信用情報や財務情報をオンラインで検索して閲覧できるサービスを、リプレースで構築しました。システム規模は300人月ほど。まずはウォーターフォール型で基盤の8割を構築しました。ここでは中国へのオフショア開発も活用しています。その後、テストと改善を繰り返すという進め方で要望を取り込みました。ローンチ後の改修作業はバックログから優先順位順に行っていますが、定常的な保守改修とは別に、年に4回、比較的な大きな改善を行って定期的にリリースしています。

 開発では、東京商工リサーチさんの望む機能や方向性を共有し、細かなこだわりを明確にして仕様を決めていきました。東京商工リサーチさんには、プロダクトオーナーとして組織的に動いていただき、たとえば、プランニングにはシステム本部だけでなく経営企画室や業務部門にも参加してもらいました。バックログも、エンドユーザである現場の営業や調査員などの要望が透過的に管理され、まとめられていました。

 開発チームとの協力は非常に大切です。我々の会社のプロダクトマネージャと東京商工リサーチさんのシステム本部を中心に、エンジニアの要望をまとめ、いろいろなステークホルダーを巻き込むことで、良い信頼関係を築けたと思います。非常駐でしたが、さまざまなツールを使うことでコミュニケーションは活発でした。東京商工リサーチさんには、思いやリズムみたいなものを共有しながら二人三脚で走り切れたと喜んでいただけました。

次のページ
リモート開発で「お客さんとの信頼関係」をどう築いているのか

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この記事の著者

坂井 直美(サカイ ナオミ)

SE、通信教育講座の編集、IT系出版社の書籍編集を経てフリーランスへ。IT分野で原稿を書いたり編集したり翻訳したり。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/8030 2014/09/24 18:33

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