お客さんの懐具合でプロジェクトの評価が決まる?
倉貫 ► プロジェクトマネージャによって見積もりに差が出ませんか?
鈴木 ► プロジェクトマネージャというより、お客さんによって変わりますね。
倉貫 ► たとえばの話をします。SIerにプロジェクトマネージャが2人いて、一方は評価が高くボーナスがたくさん出る。もう一方は全然うまくいかない。何が違うのでしょう。
一番の違いは、1人はお金持ちのお客さんについていて、もう1人はそうじゃないこと。お金持ちのお客さんから予算をとればとるほど、優秀なプロジェクトマネージャとして評価されてしまう。つまり、ものづくりの本質に関係なく、お金持ちのお客さんがいて、強気のプロジェクトマネージャがいれば、プロジェクトが成功する。そういう不公平なことが起きてしまうのではないでしょうか。
鈴木 ► 確かに現象として、そういったことは起きています。ただ、うちの会社では、プロジェクトがどれだけ黒字になろうと赤字になろうと、最初にプロジェクトマネージャが約束した数字になっているかどうかしか見ません。なので、エンジニアの賞与や給与は、そのプロジェクトでいくら儲けたかと完全に分離して評価します。
倉貫 ► プロジェクトマネージャが強気に出なければ、お客さんもそれほど予算をかけずに済むのでは?
鈴木 ► 強気で予算をとってきても、それだけの価値があるものを作ればよいという問題だと思います。予算がないお客さんに無理強いはできないので。
うちの会社の理念として、プロジェクトマネージャには、案件が成功するか失敗するかより、次の仕事がもらえるかどうかで判断しろと言っています。1つの案件だけでとりあえず儲ければいいということはやらないし、やれない。
倉貫 ► でも、お客さんの懐具合は見ますよね。製造業とサービス業の大きな違いは、製造業は見積もりをする仕事、サービス業は見積もりをしない仕事であることです。たとえば、コーヒー豆の栽培は製造ビジネスなので、コーヒー豆は分量を量って買う。でも、スタバにいけば決められたメニューを定価で買って飲む。お客さんがお金を持っていそうだから、コーヒー豆の値段を高めに設定するみたいなことは嫌だなあと思うんですよ。
それでお客さんが満足していれば、予算がたくさんあって、エンジニアをたくさん雇って、エンジニアも給料がもらえて、ハッピーな世界です。全然悪くないけど、僕はその世界で仕事をしたくなくて、足を洗ったんです。
鈴木 ► それは全然否定しません。ただ、相手を見ずに、エンジニアがこれだけ仕事をしたらこれだけお金がかかるというのは違うと思います。相手をちゃんと見て、困っているなら、我々も困っているお客さんを助けたいのでやらせてください、あとでお金が儲かったときにその分を返してください、というのは、すごく商売として真っ当だと思っているんですよ。相手を見ずにいつも定額ですというより、押し引きしながらやっていくことが大事かなと。そこで信頼関係を築けるかどうかがポイントなので。
お客さんに満足してもらえる成果と定額の関係
橋本 ► 成果で計ればそういった問題が解決するかもしれないですね。お客さんが満足する「成果」をどう定義されていますか? エンジニアの稼働を超えた成果を約束するのは問題ですよね。
倉貫 ► 僕らの仕事は、ナレッジワーク、つまり再現性のない仕事だと思っています。あるECサイトと似たサイトを、同じ金額で構築できるかどうかはわかりません。出来上がったECサイトはまったく違うものになるはずですから。
わからないことは試すしかないので、1か月間無料で試してもらう。1か月間の仕事を見てもらって、同じエンジニアが担当するという前提で、それ以降も同じように仕事をしますという感じです。
鈴木 ► そこで定額にすると、良いエンジニアであれば同じ金額でより良い成果が上げられるということにならないですか?
倉貫 ► 僕らの会社では、どのお客さんも誰が担当でも金額が一律です。金額が一律ということは成果も一律で、お客さんに出す仕事量は一緒になります。エンジニアが優秀であろうが優秀でなかろうが。
鈴木 ► お客さんからは成果を計れない以上、定額で担当エンジニアがより良いものを作れば、より成果が上がったことになるのでは? お客さん自身は気づかなくても、すべてを横に並べて見たら成果に差がつくことはあり得ますよね。
倉貫 ► そこを社内でマネジメントします。僕らは時間を約束しない代わりに、仕事量で調整します。ルーキーだったら時間をかけてベテランと同じだけ成果を上げる。ベテランはルーキーほど時間をかけなくても成果を出す。
鈴木 ► その点はものすごく同意です。