Vyatta社買収から2年経過した現在
今年で2012年のBrocade社によるVyatta社買収から2年が経過しました。仮想ルータを取り巻く環境も変化してきていますが、まずSlideShareに掲載した「Unbreakable VPN using Vyatta/VyOS」のアクセス動向グラフ(図1)を見てみましょう。ご覧のように去年一年間に限定しても、広く全世界に閲覧者が分布していることが分かります。現在もVyattaとVyOSによる仮想ルータを使った技術ノウハウへの関心は世界的にもあるようです。
つぎに、キーワードで「Vyatta」と「VyOS」のTwitterトレンドを見てみましょう。図2は、Topsy Labs社のAnalyticsを使って比較したものです(VyattaおよびVyOSは特徴的な言葉なので、おそらくトレンドを示すには十分かと思います)。
日本Vyattaユーザー会のブログを紐解けば、2012年の段階でVyatta社は買収後も「オープンソースコミュニティをサポートし続けることをお約束」していました。しかし、この部分に現在変化が見られています。もともとVyatta社から提供されていたリリースには「Vyatta Community Edition(無償版)」と「Vyatta Subscription Edition(有償版)」の2つがありました。もっとも世界中でダウンロードされ使われていたのが無償版であるVyatta Community Editionでしたので、Brocade社による買収後の、Vyatta Community Edition(無償版)のISOイメージおよびパッケージリポジトリの公開停止は大きな動揺をもって受け入れられました。その後、有志により旧Vyatta Community Edition(無償版)はオープンソースの「VyOS」のメンテナンスが開始され、さらに「日本VyOSユーザー会」が立ち上がったのです。
現在のVyattaおよびVyOSを取り巻く利用者動向を時系列で俯瞰するイメージとして、図3のように整理しました。
旧Vyatta Subscription Edition(有償版)は、Brocade Vyatta 5400/5600 vRouterとして新機能追加および保守・リリースが行われており、一部のクラウド事業者およびシステムインテグレータによって継続的に利用されています(※さらに大規模なキャリアやデータセンター向けに異なる進化も重ねられています)。
筆者も「ソフトウェアルータとしてのVyatta」から「仮想ルータとしてのVyatta」への8年近い変遷を利用者として見てきました。しかしながら、それでも現在の状況を見ると、「やや混乱気味かな……」という気持ちです。
旧来からのシステムエンジニアであれば苦もなくiproute2やiptables, quaggaなどを利用し、必要とされる機能を好みのOSでパブリッククラウドにデプロイできますが、こういったスキルセットを持ち合わせていないシステムエンジニアにとっては「簡単便利なネットワークOS」であるVyattaとVyOSの存在は、やはりまだ不可欠であると感じます(若干、過保護な見方ではありますが)。
では、現在利用可能なVyOSとBrocade Vyatta vRouterが現在どのように変化しているか見てみましょう。
図4は、Brocade Vyatta vRouterおよびVyOSの最新メンテナンス状況を示したものです。コア・コンポーネントのバージョン番号をもとにして、それぞれの違いを示しています。ご覧のように、すでにVyattaとVyOSではコア・コンポーネントと機能が異なっています (Linux kernelバージョンも異なりますね)。
賢明な読者の皆様なら「これは、もう完全に別物だろ...」という点にお気づきになるかと思います。筆者も詳しくは調べていなかったのですが、どうやら旧Vyatta Subscription Edition(有償版)の段階から、コード体系も異なっていたのです。
VyattaとVyOSは異なるコア・コンポーネント、異なるベースOSバージョン、異なるメンテナンス体制と、旧来でVyatta Community Edition(無償版)とVyatta Subscription Edition(有償版)がある程度は保っていたコマンドや機能体系のすべてが変わり始めています。
1つ例を挙げると、Brocade Vyatta 5600 vRouterではL2TPv3機能追加や近い将来にMPLSやVXLANへの拡張がアナウンスされています。VyOSでもVXLANやL2TPv3機能追加があるのですが、これらはそれぞれ異なる実装やコード体系であることが容易に想像できます。このため今後Brocade Vyatta vRouterとVyOSの機能や保守・リリースは、別々の道を歩んでいくのだろうと筆者も容易に想像できます(プロトコル互換性も気になりますよね……)。