ツールや環境頼みではなく、原理から理解しておくべき
CTOに就任してからの3年で、川上氏は「現代はスクリプトエンジニアの時代。自分の頭で考えるより、誰かが実践した/まとめた結果をググって覚えるだけの文化がエンジニアの世界まで来てしまっている」とコメント。半導体の世界では“ムーアの法則”に倣い、過去40年間のスケーリングで3年おきに集積度が4倍になる状況が繰り返された結果、「努力しなくても半導体の性能が向上して行く」「一流の回路設計エンジニアの活躍する機会がなくなる」「半導体の性能向上がムーアの法則の限界に近づきつつある」「二流の回路設計エンジニアまで食えなくなる状況に陥る」という歴史があったことを川上氏は半導体業界の人から聞いたそうで、その状況が我々エンジニアの業界にも来てしまっているのでは、と危機感を持っているそうです。
毎年向上するサーバ性能、オープンソースの開発基盤も勝手に性能向上してくれるし、AWSに任せておけば諸々管理してくれるので安心楽ちんと、確かに似ています。この点については、どこかで終焉を迎える事象として、意識しておくべき必要があります。「Web企業やWebエンジニアが今後成長・向上して行くためには、ツールや環境に頼り切るのではなく、原理的なところまで理解して対応して行く必要がある」と、川上氏は今後エンジニアが取って行くべき方向性についてコメントしました。
この展望を踏まえて、川上氏は今後のドワンゴを「技術の理論的限界でサービス設計する会社を目指していきたい」とその抱負を語りました。「できることの中でベストを尽くすのが工業デザインの本質であるとし、制約条件を超える基盤を築き、その中で自社専用ハードウェアやデータセンターのような新しいことに挑戦して行きたい。今一番力を入れたいと思っているのはシェアハウス。エンジニアが集団で生活する場所を作れば楽しいのではないかと考えている。コミュニケーションも弾むのではないだろうか」と社内のエンジニアにも明かしていないという構想を示しました。
本編最後には、「ニコキャスをよろしく!」と昨年末にリリース発表後、短期間で終了してしまったサービスについて言及。「色々な失敗があり、読み間違えた部分もありましたが我々は諦めていません。もういっぺん勝負したいと思っていますので、改めて皆さんの前にお見せできる日を期待してお待ちいただければ」とサービスに対する強い思いを述べました。
質疑応答
本編後には、川上氏と参加者との質疑応答コーナーが設けられました。ここでもエンジニアが今後「成長」して行くにあたり参考になる部分がいくつか指摘されていましたので、抜粋して紹介し本稿を締めたいと思います。
Q:スライド終盤で触れていた「技術的限界」に関して、サービスを考える上でのバランスをどのように取っていくかについて、どのようにお考えでしょうか?
A:Webエンジニアの世界は新しい世界。日々技術革新が起こり、できることが毎年増えて行っている。そんな中重要となっていくのは、企画と開発の距離感。これは近いほうが良い。色々なインタフェースを思いつき、アイデアが技術的に可能かどうかを見極めることができる。そこまで分かった上で設計していくというのが正しいのではないか、という気がしています。今後はドワンゴや角川でも、企画職であってもプログラミング研修をさせたり、企画・開発両面でベストを尽くせるような施策を打って行きたいと思っています。読み書きそろばんに加えてプログラミングも基礎教養となっていくのでは、と考えています。
Q:(AWSのような)クラウドがあると、あまり組織に所属していなくてもそこそこ良いものが作れてしまうのでは? そう考えて行くと、組織に所属している意義、組織で作るという意義が薄れてくるのかなと思いますが、その点についてはどうお考えでしょうか?
A:世の中は個人では何もできなくなる方向に行くと考えています。できたとしても、その時間は非常に短い時間に限定されてしまう。輝けるのは一瞬。最近、個人でヒットしたサービスって何か思いつきますでしょうか? ないのではないでしょうか。一人で何でも作れるのは一流だと思いますが、個人で活躍できる部分の競争はビジネスにはならないと考えています。ソシャゲの例などを見てみても、実はもう個人ではカバーし切れない領域に来ています。CMをいかに打てるか、などの要素が影響して行きます。個人では太刀打ちできない方向に今後は競争が進んで行くと思います。
Q:「ドワンゴの強み」とは一体何でしょうか?
A:んー、うちは強くないですね。喧嘩したら弱いと思います(笑)。ドワンゴの「強み」があるとすれば、エンジニアが辞めないという点。これは「居心地が良い」というのがあるのだと思います。一流のエンジニア・ギークを見つけてきて、自分達エンジニア自身の会社を作ろう、とできたのがドワンゴ。そういう環境の中であれば幸せに生きていける、仕事ができるのではないか、と思っています。競争力を強くしようというのではなく、居心地の良い場所にしようとしてきて、実際そうなった。そんな状況でどこまで戦って行けるのかなという楽しみもあるんです。
