新刊のお知らせ
2016年12月17日に、この連載をベースにした新刊『エンジニアが生き残るためのテクノロジーの授業』が発売されました!
ITとビジネスの関係、コンピュータ、ネットワーク、プログラミング、データベース、セキュリティ、人工知能など、本連載で解説した内容も含め、エンジニアなら誰もが知っておくべきテーマを一冊で学ぶことができます。
エンジニアは将来に不安を抱きがち?
IT業界で働いていると、当然ながらいろいろなスキルが身につきます。日常の業務でおぼえたもの以外にも、個人的に書籍やセミナーなどで学んだスキルもあるでしょう。しかし、そのスキルが「世の中でどれくらいのレベルにあるのか」あるいは「転職した場合でも通用するのか」と聞かれると、なかなか答えにくいものです。社内では誰にも負けない技術力があると思っていても、社外に出てみるとまったく通用しないこともあります(逆のパターンもあります)。
情報処理推進機構(IPA)による「IT人材白書2016」に、「IT企業IT技術者の仕事や生活に対する考え方」の調査結果があります。その中では、「今後5年程度の間に自分の仕事で求められる技術・スキルは変化すると思う」に当てはまる人が58.8%、「将来のキャリアに対して強い不安を感じている」に当てはまる人が48.9%存在します(図1)。
環境は変わることが当たり前
誰もが知っているように、IT業界は変化の激しい世界です。「自分のスキルが将来も通用するか」「常に新しい技術を勉強しなければ」という焦りは、業界の移り変わりを目の当たりにしているから感じるものでしょう。
かつて、「ユビキタス」や「Web2.0」が革新的だといわれた時代がありました。それから「クラウド」や「ビッグデータ」の時代がやってきました。そして今は「IoT」の時代だといわれています。
IPAの「IT人材白書2016」には、ズバリ、「IoT時代の人材に必要とされる能力とは?」という項目があり、「ビジネスアイデア構想力」と「技術力」が上位になっています。ここで必要とされている「技術力」の内容を見ると、「事業全体の技術を俯瞰し、全体を設計する能力」がトップになっています(図2)。スキルや知識の習得に焦るエンジニアに追い打ちをかけるように、ますます幅広い知識が求められるようになっているのです。
広くて深いITの世界にある「柱」
しかし、ITの世界はあまりにも広くて奥深く、事業や業界全体を見通すのは困難であるのも事実です。当然ながら、すべてを一人の人が理解できるものではありません。しかも次々と新しい技術が登場するので、一つ一つを理解するだけでも大変です。
ではどうすればよいかというと、応用のきく基礎知識をしっかり理解しておくことが有効です。IT技術には、いくつかの「柱」があります。言い換えると、「時代や環境に左右されない知識」というようなものです。例えばプログラミングであれば、アルゴリズムや計算量の考え方は大きく変わることがありません。ネットワークならTCP/IPなどのプロトコル、データベースでは正規化などが該当します。
こういった知識は、時代が変わっても、ほかの部署や会社に移っても通用します。また、新しい技術であっても、これらの技術の上に成り立っていることがほとんどです。つまり、一定の分野の知識を身につけておけば、相違点だけを把握すればよいため、新技術をスムーズに理解できます。
さらに、これらをビジネスの視点につなげてイメージしておくことが重要です。会社の中で、もっと言えば社会の中で、どのように使われていて、どのように変化しているのか、全体としてイメージしておくだけでも身につけるべきスキルが見えてきます。