メンバー招集6月、公開7月20日――果たして、このスケジュールでAmazon Goは作れるのか!?
Amazon Goの1号店オープン後、クラスメソッドはAmazon Go体験ツアーを企画し、社内外から二十数名を集めてアメリカ・シアトルに向かった。現地にて、横田氏はその革新的な店舗体験に衝撃を受けたという。
「とにかく驚きました。本当にワクワクして、開発してみたくなって。帰国後に『あれを自分たちでも作ろう!』とメンバーに話したのです。みんなドン引きでした(笑)。『作れるはずがない』と。でも、私たちでも実現できる方法がきっとあると考えて、プロジェクトをスタートしました」
参加メンバーは、社内のエンジニア有志8名。かつ、全員が他のプロジェクトを抱えながらの兼任である。さらには、開発スケジュールも驚くほどタイトだった。
「5月にシアトルに行って、6月にメンバーを召集。公開は7月20日にしようと決めました。公開日を先に決めるのは、開発スピードを上げるための非常に良いライフハックです(笑)。もちろんお客さまのお仕事を請ける際にはやるべきではないですが、社内プロジェクトだからこそ、こういったスケジューリングが可能なのかなと思います。こうして開発がスタートしました」
プロジェクトの要件定義フェーズでは、文章ではなく「動画」による仕様の共有が行われた。Amazon Goを体験していない開発メンバーに対し「顧客にどんな体験をしてもらいたいのか」を直感的に伝えることを目指したためだという。
また、本プロジェクトでは「得意な領域はスピーディーに終わらせ、やったことがない領域に時間をかけること」が重視された。クラスメソッドは、モバイルアプリの開発やクラウド環境の構築を得意とする企業である。「スピーディーに」という言葉のとおり、モバイルアプリのプロトタイプは2日間ほど、クラウド側の設計図も1~2日ほど、テスト稼働も2~3日で完了した。
「効率的に開発できたのは、さまざまなコンポーネントをゼロから作るのではなく、既にあるものを再利用したからです。具体的には、AWSのマネージドサービスを積極的に活用しました。
例えば、ユーザー登録処理を新規で作ると非常に工数がかかりますが、『Amazon Cognito』を使うことで開発をショートカットしています。また、動画からシーンの検出や人物の追跡を行うのには『Amazon Rekognition Video』を活用しました。さらに、商品が何かを学習させるための機械学習サービスとして『Amazon SageMaker』を用いています。さまざまなセンサーから集約したデータは『Amazon DynamoDB』に格納し、分析に利用できるようにしました。これらの要素技術をパーツとして組み合わせ、実装していきました」
AWSのマネージドサービスの選定と利用がこれほどうまくいったのは、AWSについて高い知見を持つ同社だからこそだ。残りの日程は、物理的なデバイス類の「工作」に費やした。
「センサーが取得したデータをクラウド上にアップするには、小さなコンピューターであるマイコンの取り付けが必要になります。設置のため、私たちは木を削ったり、ネジ止めをしたりと、商品棚の工作をしていきました。マイコンや重量センサー、商品棚を組み合わせて、『お客さまが商品を手に取ったことを重量の変化で検知する仕組み』を構築していったのです」
プロダクト開発において、横田氏が何よりも大切にしたのは「顧客体験」だ。お客さまがスムーズに入店して商品を見つけ、購入して帰れるか。そして、自然に決済できるか。こうした良質な体験を、徹底的に追求していったのだ。試行錯誤の結果、見事7月20日に横田deGoは完成した。