1.1 SQL Anywhere Studioとは
iAnywhere Solutions, Inc.(以下、iAnywhere Solutions社)は、企業情報システムを「いつでも、どこでも」「オンラインでも、オフラインでも」利用できるように、そのインフラとなるソフトウェアをパッケージ製品として提供している。データベースや同期ツールを含む「SQL Anywhere Studio」や「Afaria」、Webベースのアプリケーションやコンテンツをモバイルデバイスで利用可能にする「M-Business Anywhere」、RFIDデータを管理する「RFID Anywhere」、自然言語によるGUIや検索を可能にする「Answers Anywhere」、IBM Lotus NotesやMicrosoft Exchange Serverとスマートフォン間とでメールなどの情報を同期する「OneBridbe」などのパッケージ製品がある。また、製品の保守や製品にまつわるコンサルティングサービスも手がける。
本連載では、これらのうち主力製品である「SQL Anywhere Studio」を解説する。まず、開発元のiAnywhere Solutions社と製品の簡単な歴史を紹介してから、製品概要とデータベースの役割について説明し、技術的詳細については次回以降で解説する。
1.1.1 歴史
SQL Anywhere Studioの歴史は、Watcom SQLというデータベースから始まる。このデータベースを開発したのはWatcom International Corporation(以下、Watcom社)である。Watcom社は、1981年にカナダのWaterloo大学の研究グループが母体となって誕生した。そして1992年、MS-DOSとQNX上で動作する省リソースなデータベースとしてWatcom SQL 3をリリースした(※1)。
1994年、Watcom社はPowersoft社に買収され(※2)、続く1995年、Powersoft社はSybase社に買収された。Watcom SQLは、Sybase社の製品群に加えられ、「Sybase SQL Anywhere 5.0」と名前を変えて発売された。現在と同じ製品名称が用いられたのは「SQL Anywhere Studio 6」からである。1999年、Sybase社内に、Mobile and Embedded Computing(MEC)事業部が設立され、この事業部がSQL Anywhereの開発・サポートを担当するようになる。2000年、MEC事業部が分社化され、iAnywhere Solutions社が誕生した。
一方、日本では、サイベース株式会社のアイエニウェア・ソリューション事業部がSQL Anywhere Studioの販売を行っていたが、2003年にこの事業部は、iAnywhere Solutions社の子会社であるアイエニウェア・ソリューションズ株式会社(以下、アイエニウェア・ソリューションズ社)として独立し、現在に至る。
1992年 | Watcom SQL 3リリース |
1994年 | Watcom SQL 4 |
1995年 | Sybase SQL Anywhere 5 |
1996年 | Sybase SQL Anywhere 5.5 |
1998年 | SQL Anywhere Studio 6 |
2000年 | SQL Anywhere Studio 7 |
2001年 | SQL Anywhere Studio 8 |
2003年 | SQL Anywhere Studio 9 |
2004年 | SQL Anywhere Studio 9.0.1日本語版 |
2007年初夏 | SQL Anywhere 10.0.1日本語版発売予定 |
1981年 | Watcom International Corporation設立 |
1994年 | Powersoft社がWatcom社を買収 |
1995年 | Sybase社とPowersoft社が合併 |
1999年 | Sybase社MEC事業部が設立 |
2000年 | iAnywhere Solutions, Inc.設立 |
2001年 | サイベース株式会社アイエニウェア・ソリューション事業部が設立 |
2003年 | アイエニウェア・ソリューションズ株式会社が設立 |
1.1.2 SQL Anywhere Studioのターゲット市場
SQL Anywhere Studioがターゲットとする市場は3つある。
1. モバイルソリューション市場
現在の企業活動においては、オンライン/オフラインを問わず、「いつでも、どこでも」会社のデータにアクセスして活用できることが求められている。そのためには、企業の情報システムをモバイル化するためのツールが必要だ。
SQL Anywhere Studioは、ノートパソコンやPDA(スマートフォンを含む)といったモバイル端末でも動作するデータベースをユーザに提供する。また、データ同期テクノロジもある。代表的な活用分野はCRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)だ。顧客情報や商品情報などをデータベース化し、ノートパソコンやPDAに入れて携帯することで、渉外活動中に企業データを利用できる。データが個々のデバイスに分散してしまうことになるが、同期テクノロジによりデータを中央に集約することが可能だ。
2. アプリケーションやハードウェアへの組み込み市場
パッケージソフトなどのアプリケーションでは、データの保存や検索といったデータベース機能が必要なことが多い。SQL Anywhere Studioは、たとえば、企業会計パッケージやPOS端末などに組み込まれて利用されている。このような利用形態の場合、データベースが高性能なマシン上で使用されるとは限らないが、SQL Anywhereならばエンドユーザにデータベースの存在を意識させないほど省リソースで動作する。また、数多くの店舗や代理店に配備するシステムとして大量のローカルデータベースが必要とされるようなケースにも、SQL Anywhereは適している。SQL Anywhereは、省リソースかつ高機能で、アプリケーションに組み込みやすいからだ。
3. 中小企業・中小規模向け(SMB)市場
中小企業や大企業の支店などの中小規模向け(Small to Medium sized Businesses)市場で用いられるデータベースには、エンタープライズ級の高性能・高機能が求められる一方で、専任のIT担当者やデータベース管理者を設けられないため、できるだけ管理コストを抑えることも必要とされる。
SQL Anywhereは、管理の手間を不要とすることを設計コンセプトに掲げている。また、バージョンを重ねるにつれて中・大規模向けの機能が拡充され、エンタープライズレベルの用途にも対応している。クライアント/サーバシステムやWebアプリケーションのバックエンドにあるデータベースサーバを、PCサーバ上で運用することも多いだろう。そのような場合にも、SQL Anywhereの利用価値は高い。
1.1.3 コンポーネント
SQL Anywhere Studioには、3つの代表的なコンポーネントとGUI管理ツールがある。
SQL Anywhere(データベース)
SQL Anywhereは、SQL Anywhere Studioのメインのコンポーネントであるデータベースだ。Adaptive Server Anywhere(ASA)が現在の正式名称であるが、いずれSQL Anywhereに統一される予定となっている。このため、本連載ではSQL Anywhereという表記を用いることにする。
Ultra Light(データベース)
Ultra Lightは、Windows CEやPalm OSに対応する超軽量データベースである。
Mobile Link(同期テクノロジ)
Mobile Linkは、SQL AnywhereやUltra Lightと他のデータベースとを同期するためのコンポーネントである。なお、Mobile Link以外の同期テクノロジとしてSQL Remoteと呼ばれるコンポーネントもあるが、本連載では説明を割愛する。
GUI管理ツール
GUI管理ツールとして、データベースを管理するSybase CentralやSQLを実行するInteractive SQLなどがある。