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マネジメント入門者が、「ボトムアップ」の開発チームを実現! 既存の手法を賢く使う、ミクシィの組織づくり【デブサミ2019夏】

【C-3】実践 Engineering Manager ~理想のエンジニアチームを目指して~

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2019/08/01 12:00

 組織でも少数派であり、難しい立場におかれることも多い「エンジニアリングマネージャー(EM)」。他部門に比べてマネジメントに関する情報が少なく、属人的な方法でメンバーを束ねている人も少なくない。そこで、汎用的なマネジメントの考え方や技術を学び、活用することでより柔軟で的確にチームをまとめることができるのではないか。その考えのもと、株式会社ミクシィ みてね事業部 開発グループ マネージャーとして現役EMを実践中の酒井篤氏が、自身の経験とともに実践的な解決策やノウハウを共有した。

目次
株式会社ミクシィ みてね事業部 開発グループ マネージャー 酒井篤氏
株式会社ミクシィ みてね事業部 開発グループ マネージャー 酒井篤氏

マネジメントにルールを設け、キャリアとして意識する

 エンジニアの中には一生現役で、できればマネジメントは避けたいと考える人も少なくない。しかし、組織の中で仕事をする以上、チームを束ねたり、成長させたり、場を管理する責務は誰にでも生じる可能性がある。

 今回登壇した酒井氏もまた、同サービスのSRE(Site Reliability Engineering)とグループのエンジニアマネージャーを兼任して2年目。経験もまだ浅く、最初は戸惑いもあったという。

 酒井氏は「今回は、マネジメント入門者として、どういったことを考え、実践してきたか。理論や思想ではなく、具体的で理由のあるアクションを中心に紹介したい。マネージャーの方はご自身と照らし合わせながら、そうでない方はマネージャーが何を考えて行動をしているのか、ぜひ今後の参考にしてほしい」とセッションの目的を語った。

 酒井氏がEMとしてマネジメントを行っているのは、招待した家族だけで子どもの写真・動画を安全に共有できるアプリ「家族アルバム みてね」の開発グループだ。ミクシィ創業者の笠原健治氏がプロデューサーという、注目のサービスであり、2019年5月には利用者数が500万人を突破。積極的な海外展開も開始している。

 そのEMになるまでの酒井氏の経歴は、もともと「みてね」開発のごく少人数のスクラムチームに所属したことに始まる。マネージャー不在のフラットな開発組織で、プロダクトの成長とともにスケール可能な組織にする必要性があったことから、長く在籍しておりドメイン知識が蓄積されていた酒井氏がマネージャーを引き受けることになったという。酒井氏は「新しいメンバーにとって安心感を提供することもマネージャーの役割の1つだとすれば、ドメイン知識が豊富というのは、大いに役に立った」と振り返る。

 現在、酒井氏が所属する「みてね」の開発グループは、ネイティブアプリと研究開発、SREの3チームによって編成され、総勢18名が所属する。その中で酒井氏はEMとして「複数のエンジニアの生産性を最大化すること」「事業の目標を大幅に超える成果を創出すること」の2点を目標として認識し、マネージャー職に取り組んできた。

 マネージャー職は、メンバーの成長やスケジュール、人事評価、予算など考えるべきことも多く、できれば避けて通りたいと思う人も少なくない。酒井氏も、自分のスキルやキャリアと照らし合わせ、不安やストレスを抱える可能性を感じたという。そこで、酒井氏はストレスをためないように、いくつかの「決めごと」を自らに設けた。以下の通りだ。

 「特に『キャリアとして』認識することによって、組織最適化のためのマネジメントスキルを汎用的な技術として習得し、活用することを意識するようになった。マネジメント力がつけば、自分自身の収入にも反映され、転職などの際にも強みとなる。たとえ大変なことでも、自分の市場価値や給料が上がると思えば、ストレスも減ると考えた」と酒井氏は語った。

マネージャーが意図して声をかけ、ボトムアップ型組織へと成長

 そして、酒井氏が目標として掲げたのが、「ボトムアップ」で一人ひとりが自立的に動き、「学習」し続ける「理想のチーム」だ。これを掲げることで、自分がどのようなことをすべきか、何が足りないのか、照らし合わせながら優先度やタスクを決定できると考えたという。

 まず「ボトムアップ」のチームになるために酒井氏が重視しているのは、エンジニアやチームの意見の重要性について、マネージャーである自分も含めてプロダクトオーナーや経営者など全員が理解し合っていることだ。一定のルールのもと、誰もがフラットに意見を言える環境を「何となく」そういう空気でつくるのは難しい。そこで、酒井氏はあえて言葉にして「誰でも意見が言えること」を強調し、意図してそうしたチームにしようと心がけているという。

 また「エンジニアの責任によってさまざまな課題が解決されるべき」と、エンジニア自身が感じていることも大切だ。プロダクト開発には複雑な問題が発生するが、決して誰かが解決してくれるわけではない。解決するために自分が行動するものだとエンジニアが認識し、実際に行動できることが大切だ。「これも勝手にそうした空気は生まれないので、どうしたら自立的な行動が生まれるのか、マネージャーが考えるべきなのでは」と酒井氏は語った。

 そして、ボトムアップの組織を目指してもトップダウンに戻りがちな理由として「大きい声」に傾きすぎることがあるため、そうならないためのコミュニケーションについても考える必要がある。どうしてもプロダクトオーナーや経営者などの「鶴の一声」で場の空気が変わってしまうことがあるだろう。その際にも、エンジニア一人ひとりが自分の頭で考えるよう、コミュニケーション方法を確立しておくことを大切にしているという。

 こうした取り組みによって「ボトムアップ」が盛んになると、効果として「チーム内の意見行動の自由度が上がる」「リスクに対して寛容になる」、そして、トップダウンよりもむしろ責任が大きくなり、「適切な緊張感が生まれる」といった様子に変わってきたという。

自律的に学習する組織づくりのため、問題や改善に気づかせる「振り返り」を行う

 そして、酒井氏が目指す組織づくりのもう一つのポイントである「学習」は、技術やスキルを身につけてプロダクトに反映させようという「学習」ではなく、開発プロセスやプロジェクト目標完遂のための「学習」を指す。

 これについては、プロセスや進捗管理など、さまざまな視点による短期的・中長期的な「振り返り」が重要だという。その時間をしっかり確保することはマネージャーの役割だ。それらを共有した上で、率直に問題や課題を出し合って、改善案を考え、具体的な行動が起こせるような場をつくること。また、他人やチームの失敗、意見の対立を冷静に受け入れられる空気をつくることも重要だ。

 「会議の場では感情的になったり、意見が拡散したり、なかなかゴールにたどり着けないこともある。そうした時のために事前にルールをつくって、明文化しておくと、冷静に会議を回せるようになった。すると、対立する意見に対しての好奇心が生まれ、チーム内に気づきが生まれるようになった」と酒井氏は会議運営のコツを語る。

 「学習」によって、「失敗が糧になってチャレンジが増える」やボトムアップと同じく「リスクに対して寛容になる」、そして、振り返りを通じて具体的な改善行動が伴うため「チームとして小さな成功体験の積み重ねと成長を感じられる」という効果もあったという。

 「ボトムアップ」と「学習」という2つのキーワードに基づき、理想のチームを目指すうち、「心理的安全かつ責任の大きいラーニングゾーン」を生み出すために両者が必要であり、同時に「相互に必要な要素」であると気づいたという。「学習ができていてもボトムアップができていなければ受け身になりがちで、ボトムアップができていても学習ができていなければ、誰もが好き勝手にやるようになる」と酒井氏は経験から分析する。


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