情シス担当1人でのシステム再構築を――高品質な帳票開発支援ツールが支援
続く2日目前半のセッションには、丸喜の荒川雄介氏が登場。「情シス担当が1人でVBレガシーシステムの移行に挑んだ話」と題する講演を行った。丸喜は仏壇や仏具、装具用品、ひつぎ、骨つぼなどを仏壇店や葬祭業者の顧客に供給する宗教用具卸業だ。京都に本社を置き、東京、名古屋、徳島、札幌など、全国に拠点を展開する、従業員数139名の規模の企業である。
同社ではかねてより、商品出荷に際して発行する、4~5枚つづりになった顧客宛ての専用伝票(指定伝票)を出力するためのシステムを長年にわたって運用してきた。このシステムは、UI部分がVisual Basic 6.0、帳票印刷部分がFileMakerでそれぞれ構築されており、Windows XPベースで稼働するものだった。「社内の端末がWindows 7やWindows 10になっても、それらのOS上では動作させることできないため、引き続きWindows XPの端末を設置して運用する必要がありました。加えて、実装されているソースも複雑で、帳票の追加にあたってはFileMakerのスクリプトを編集しなければならないなど、システムの運用やメンテナンスをめぐるさまざまな問題を抱えていたのです」と荒川氏は振り返る。
これに対し同社では、基幹システムの移行を手がけていたシステム会社に同システムのリニューアルを依頼。Visual Studio 2017(Visual Basic .NET)とActiveReports for .NET(アクティブレポート)の活用をベースに.NETベースでシステムを再構築し、それを荒川氏がメンテナンスしていく方針を打ち出した。「ところが、いざシステムができあがってみると、帳票の追加にVisual Basic .NETのソースの修正が必要だったり、ActiveReportsの利用についても、設計時のレイアウトがそのまま印刷結果に直結する最新のページレポートではなく、コードへの依存が高いセクションレポートを採用していたりするなど、メンテナンスを円滑に行う上では不都合と思われる点が多く、プログラムの納品を拒否せざるを得ませんでした。そして結局のところ、私自身の手で開発を進める運びとなりました」と荒川氏は経緯を明かす。
とは言え、既存システムには仕様書と呼べるものも存在しなかった。そこで荒川氏は既存システムのソースやデータを解析する一方で、システムを利用する現場担当者にヒアリングを行うところから開発の取り組みを進めていく。2019年3月末から開発を開始し、5月中旬には旧システムと並行稼働させる形をとった。「このとき、究明しきれない仕様上の不明点もあったので、まずは7割程度完成したらリリースして現場の利用に委ねることとし、不具合の修正や足りない機能の追加を重ねていくアプローチをとりました。その結果、11月ごろにはシステムを完成させることができました」と荒川氏は話す。
そうした中でも、ActiveReportsを採用していることのメリットは大きかった。例えば、帳票デザイナをスタンドアロンで利用できるので、それを使って帳票設計を効率的に進めることができた。具体的には、3日間で60種類ほどの帳票を設計したという。
また、テンプレートのフィールド内で各種演算が行え、スクリプトが記述できることも開発生産性の向上に貢献した。これについて荒川氏は「例えばテンプレート側で軽減税率を含む消費税や歩引き、合計金額などの計算や、顧客区分に応じたデータフィールドの出力の有無を制御するといったことをスクリプトの記述により実現できます。これによりVisual Basic .NETのプログラム側のソースコードを、よりシンプルなものにできました」と説明する。そのほか、令和対応を含む和暦の利用や専用伝票で多用される罫線の設定も非常にスムーズに行えたという。
「今回の取り組みを成功に導く上では、グレープシティのサポートが非常に大きな力になりました。今後に向けてシステムのWebサービス化も検討しているところですが、そうした局面でもグレープシティには変わらぬ支援を期待しています」と荒川氏は語る。
リッチでモダンなWeb帳票アプリの開発ニーズを満たす支援ツール
2日目後半のセッションは、グレープシティの福井潤之氏が「DX時代の帳票開発ツール『ActiveReportsJS』の使いどころを徹底解説」というタイトルで講演した。今日の企業ではDXの推進やテレワークへの対応が必須要件となっており、帳票に関しても「脱ハンコ」によるペーパーレス化の要請が高まっている。そのようなニーズに応える帳票アプリケーションの構築に大きな威力を発揮するのが「ActiveReportsJS」だ。
「グレープシティでは1998年から.NETの開発ツールとして『ActiveReports』を提供していますが、『ActiveReportsJS』はそのDNAを受け継いだ、モダンなWeb開発に対応する帳票開発支援JavaScriptライブラリです」と福井氏は紹介する。サーバーサイドで動く.NET版とは異なり、クライアントサイドで動作することが大きな特徴で、クライアントにダウンロードされたレポートファイルに対し、Web APIなどを介して取得したデータを埋め込んで必要な帳票を生成する形だ。
帳票の設計に関しては、WindowsおよびMacで動作するスタンドアロンのデザイナアプリケーションが用意されており、GUI画面上のツールボックスに用意された多彩なレポートコントロールを、ドラッグ&ドロップ操作で配置してデザインしていくことができる。そのほか、イメージの調整もツールバーやプロパティグリッドを使って直感的に行える。加えてActiveReportsJSには、さまざまなブラウザで帳票を閲覧するためのビューワがJavaScriptのライブラリとして提供されている。よって、幅広い種類のアプリケーションに組み込んで使うことが可能となる。
「データバインディングについては、データソースにJSON形式のものを設定する形となりますが、レポートに表示するデータソースとの接続もデザイナからGUIを使って簡単に行うことができ、Web API経由での取得に加え、固定のJSONデータを埋め込んだり、JSONファイルを指定したりすることも可能です」と福井氏は説明する。
そのほか、日本固有の要件に対応する機能も充実。縦書きや各種罫線、禁則処理、均等割り付けといった仕様にもきめ細かく対応している。
2020年12月には最新バージョンとなる「ActiveReportsJS V2J」がリリースされた。そこでは、エンドユーザーがWebブラウザ上で帳票の新規作成や変更を行うためのデザイナアプリケーションの作成を支援する「Webデザイナコンポーネント」を提供。さらに、JSON形式によるデータバインディング機能がさらに強化されていることに加え、.NET版のActiveReportsでも好評だったレイヤー機能が追加されるなど製品拡充が図られている。
「AngularやReact、Vue.jsといったJavaScriptフレームワークにも対応する『ActiveReportsJS』は、当社の提供する『InputManJS』や『Wijmo』などの強力なUIライブラリとの併用も可能です。リッチでモダンな『今どきの』Webアプリケーション開発のニーズに応えます」と福井氏は語る。