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ミニCEOにならなくていい――新しい職種に挑戦してきた坂田一倫氏が語る理想に捉われないプロダクトマネージャー像とは

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2021/04/02 11:00

 迅速に最適なプロダクトを開発する上で、重要な役割を担うプロダクトマネージャー。しかし、近年急速に注目されるようになった職種だけに、実際に「あるべき姿」や「必要なスキル」について語ろうとすると、言語化が難しいというジレンマも聞く。そこでプロダクトマネージャーと呼ばれる以前からプロダクトマネージャー的な振る舞いのもと、楽天やPivotal Labsなどで数々のプロダクト開発に携わってきた坂田一倫氏に、プロダクトマネージャーの本質的な役割や仕事の進め方、育成の在り方などについてうかがった。

目次
坂田一倫氏
坂田一倫氏

2008年楽天株式会社へ入社。UIデザイナーとして特集ページなどのデザインを担当した後、UXデザイナーとして多くのサービス改善に携わる。2016年にPivotal Labsへプロダクトマネージャーとして入社。医療系スタートタップ「Ubie」を経て、現在はChatwork株式会社のUXディレクターに就任。

UIデザイナーから、「なぜ」を追求した先にプロダクトマネージャーがあった

――まずは坂田さんがプロダクトマネージャーになられた経緯、動機などについてお聞かせください。

坂田:大きく2つあります。ひとつは、UIデザイナーとして自分のキャリアをスタートさせ、さまざまな課題に突き当たる中で、自分なりにその事象や原因を解釈して解決していった”その先”にプロダクトマネージャーがあったということ。そして、もうひとつは前職のPivotal Labsに入社した時にプロダクトマネージャーという職種を紹介され、その肩書きで入社したことです。

 UIデザイナーとして楽天に在籍していた時は、静的なデザインやバナーの作成が主業務で、ピクセル単位で設計して印象が大きく変わることが面白くて、とことんのめり込んでいました。でも、ふと自分がやっているデザインが本当に正しいのか、自分都合でやってはいないか疑問に思うようになりました。「バナーがこうあるべき」という答えに到達するには、画面の設計から考える必要があるわけです。それで全体設計に関心が移り、さらにその画面に到達するまでの導線として、ユーザー体験を起点に全体の流れを考えるようになっていきました。

 表層的なデザインから、全体の設計、さらにはユーザー体験の設計と職域を自分なりに広げ、最終的には「誰のために何を作るのか」というサービスの価値について考えるようになり、事業責任者にリニューアルや改善案などを提案するようになりました。

 ただ、デザインを突き詰めていくと、幾度となく衝突が起きることがあります。そのひとつがビジネス側との衝突でした。デザイナーはユーザーが求めるものや体験を起点にして考えますが、ビジネス側は売上や事業として成り立たせなければならないという、それぞれ異なる意志があるわけです。今振り返れば、衝突はあるべきことと思えるのですが、当時はなぜなのか、着地点はどこなのか、随分と悩みました。そして、はじめは敵情視察のつもりでビジネス側に足を踏み入れ、プロダクトの上の戦略などについて考えるようになったんです。

――その時は、肩書き、職種としてはどのようなポジションにあったのですか。

坂田:いや、その頃は自分でもよくわからなくなっていて(笑)。ただ、日本に当時「UXデザイン」という言葉が浸透してきていて、「これかな」とは感じていました。そして、顧客体験以上にプロダクトの成功を考えた時に、デザインだけでは不十分だと考えるようになり、5年前にキャリアチェンジしました。それが2つ目、Pivotal Labsにプロダクトマネージャーとして入社し、経験を重ねていくことへとつながるわけです。Pivotal Labsは1989年に米サンフランシスコに設立されたアジャイル開発コンサルティング会社で、早くからプロダクトマネージャーを取り入れてました。

 面接の時に経歴を話したら「それってプロダクトマネージャーだよ」と言われ、その役割が「ユーザーの課題解決を起点にしながら事業戦略の設計に関わり、プロダクトを成功へと導くこと」だと聞いて、自分の課題感や価値発揮欲求の全てが重なったように感じたんです。ジョブズの語る「Connecting the dots」を体感しました。

要件を満たしたからといって、プロダクトマネージャーになれるわけではない

――坂田さんがプロダクトマネージャーの価値が発揮される部分として考えられているのは、どのようなことですか。

坂田:ゴールが「プロダクトの成功」だとして、役割は「プロダクト価値を最大化するための、ユーザー価値とビジネス価値の融合」にあると思うんですよね。となると、双方の橋渡しをする必要がある。ビジネスの言語をわかりやすく翻訳して開発側に伝え、逆にユーザー価値を追求しようという現場の言葉を翻訳してビジネスに伝える。時には経営陣と話すこともあるでしょう。それぞれにしっかりと理解してもらうためには、言語、シナリオ、伝え方などに工夫が必要となります。

 たとえば、「ユーザーはこれが求めている」といっても、それだけではビジネス側には響かない。ユーザーが求めている価値を提供することで得られるリターンを言語化して伝える必要があります。逆もそうですね、ビジネス側が「この機能を追加して欲しい」と伝えるだけでは不十分で、その背景にあるユーザーへの提供価値が考えられていないと、そのメリットが伝わらない。その翻訳をしながら、プロダクトを成功に導くところに面白さがあると思います。

 ただ、最近私が感じている懸念は、あまりに「プロダクトマネージャーとは何か」という議論が多すぎることです。というのも、10年くらい前に「UXデザイナーとはなんぞや」ということで、顧客体験の範囲や担うべき責任などについて議論が盛んになり、結果として「ここまでの権限でこういう仕事をして、給料このくらい」というように限定的なUXデザイナー像ができてしまったように思えるのです。そうした先入観のもと、そこに自分を当てはめるという傾向が生まれてしまう。プロダクトマネージャーにも同じことが生じるのではないかと危惧しています。

――確かにそういう面は往々にしてありますね。逆にそうした「あるべきプロダクトマネージャー像」に凝り固まらないためには、どうしたらよいと思われますか。

坂田:私がUXデザイナーやプロダクトマネージャーになったのは、先入観なく、感じたそのままの世界に飛び込んで、自分の経験から得た情報や知識を集積して、よりよいプロダクトにするという目的に向き合ってきた”結果”です。確かに、ジョブ・ディスクリプションの「すべきこと」「できること」という指標はHRや採用などで使い勝手がいいのかもしれません。

 しかし、「すべきこと」「できること」を積み上げていけばプロダクトマネージャーになれるというわけではないんですよね。プロダクトマネージャーが「どこを目指すべきなのか」と言えば、「プロダクトの成功」が到達地であり、そのためにチームが快適に価値発揮ができればいい。それに尽きるわけで、その責任をとるのがプロダクトマネージャーです。なので、そのためであれば、何をやってもいいと思うんです。それが経験として「すべきこと」「できること」として、その人の中に蓄積されていくという順番ですね。ジョブ・ディスクリプションありきで埋めていこうというのには違和感があります。

 もちろんフレームワークなど「How」の部分は、インタビューでも分析でも、どんどん外からいいものを見つけて使えばいい。でも、そのための「Why」や「What」は自分で考える必要があり、そちらのほうが重要です。


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