スクラムの原則を個人の行動管理に適用した「アトミックスクラム」
片岡氏は「ラボ」と呼ばれる部屋からオンラインで登壇。この部屋で約1年間にわたって「ポモドーロ・テクニック」を実践し、行動管理やタイムマネジメントについて実験・実証し続けたという。その経験から、自己管理や生産性向上には原理原則があることを実感し「その原則はスクラムと近いと言うよりも、そのものだと感じた」と語る。
そんな片岡氏は、京都大学に在学中に株式会社ゆめみを創業。失敗を繰り返しながらも、現在はユニークな経営が行われていることで有名だ。昨年創業20年周年を迎え、日本で最もQiitaやSlackを活用する組織にまで成長し、さまざまな企業のWebサービスの内製化を支援してきた。手掛けたWebサービスのユーザーは毎月5000万人にも及ぶ。
それでは本題に戻ろう。片岡氏が実践した「自己管理」とは何か。そして、自己管理はなぜ挫折するのか。片岡氏は挫折する理由を「多くの人が誰からも学んだことがなく、我流で行った結果、うまくいかないと『自分は自己管理能力がない』と結論づけてしまうことが多いからだ」と分析する。
そこには自己管理についての誤った考え方が多く関係している。例えば、理性的な脳が本能的な脳をコントロールすると考え、コントロールできないと「意志力がない」と自身を総括してしまう。しかし、本能的な脳はそもそもコントロールなどできるはずがなく、本能は人類が長い歴史の中で生存するために身につけてきた習慣だ。例えば、集中力が続かないのは、1つのことに集中してしまうと、外敵から襲われたときのリスクが高くなってしまうからだと考えられる。
それでは、自己管理がうまくいっている人はどうしているのか。片岡氏は「本能をコントロールしようとするのではなく、行動管理システムや環境にアプローチし、それらが本能に働きかけるという二段構えを心がけている」と語る。とは言え、自己管理システムを設計し、完璧なものにしようとすると、結果として複雑になり運用することも困難だ。まずは最小限のシステムを作り、そこに能力を成長させる機能を組み込み、さらに成長した能力に合わせてシステムを成長させるという「漸次的共進化」を進めていくことが重要となる。
アジャイル開発で言えば、リーンスタートで始め、アジャイル的に行動管理システムを作ってシステム成長を図り、次にグロースハッキングで自己の能力成長を行うイメージだ。しかし片岡氏は、「これによってめちゃくちゃ自己管理能力が向上し、生産性が爆上がりしたとして、それで本当にハッピーなのか」と問いかけ、「いや、流れ作業のマシーンになっても幸せであるはずがない」と強調する。
そこで考えるべきことが「自己定義の重要性」だ。エンジニアには積み上げ型で最適化が得意な人が多いが、それ以上に自分がやりたいことを見いだし、プロダクトオーナーとしての夢を描くことが重要だという。つまり「自己実現」とは「自己管理と自己定義を合わせたもの」であり、それは「プロダクトオーナー」と「開発者」「スクラムマスター」の帽子をかぶり分けていく難しさをも意味する。
片岡氏は「自己実現には『最小限の行動管理システム』『能力成長を促すシステム』『やりたいことを見いだせるシステム』の3つが必要」と語り、それをまとめたものを「アトミックスクラム」とした。
アトミックスクラムは、複雑な状況の中でも個人が高い価値を生み出すための「スクラム」を基にした軽量なプロセスフレームワークであり、個人の行動管理だけでなく、能力成長も促しながら生産性を高めることを狙いとしている。そして、スクラム同様に経験主義(やってから考えること)を重視しながらも、予測主義(考えてからやること)とも統合可能な発展を想定しているという。
また、片岡氏は「アトミック」と名付けた理由について、チームではなく「個人」という最小単位を対象としていること、個人の日々の行動の中でもこれ以上分解できない最小限のスプリントから始めること、そしてスプリントがフラクタルに発展していくことの3つにあると説明した。