DevOps成功の答えは組織の中にしかない
米国の給与に関する調査(Dice Salary Report)によると、過去1年で給与が上昇したIT職種にDevOpsエンジニアが3位にランクインした(なお1位はサイバーセキュリティアナリスト、2位はデータサイエンティスト)。DevOpsエンジニアの価値が高まっている背景についてSB C&S 加藤学氏は次のように分析している。
「予測が難しい時代です。ビジネスモデルが急速に変化し、安泰と思えたビジネスや企業が窮地に追いやられることもあります。一方、企業のサービスもオペレーションもほぼITに頼らざるをえません。ITとはデータをアプリケーションでどう取り扱うかです。アプリケーションの開発とリリースをスムーズに行い、より良いものをユーザーに届けるのがDevOpsエンジニアだとしたら、企業が価値を見出すのも分かる気がします」
アプリケーションのライフサイクルが早まると、新しいビジネスサービスのリリースも早くなり、顧客からのフィードバックにも早く応えることができる。顧客満足度が向上し、企業の売上も向上し、エンジニアの給料も上がるという好循環が生まれると考えられる。
これは開発と運用が協力するDevOpsを超え、ビジネスも加わるBizDevOpsの考え方になってくる。加藤氏は「かっこいい言葉で言うと、よりインクルーシブになるということ。互いに認め合い、事業を進めていくことが今後必要になるのでは」と言う。
DevOpsについてはこれまで何度も語られ、意義も流れも多くが理解している。しかし現実を顧みると、理想的な形で実践できている組織はまだそう多くない。どこが壁になっているのだろうか。加藤氏は「自組織に応じて、言語化していく必要があります」と指摘する。そして「実際にできている組織を見ると、あまりDevOpsやアジャイルという言葉にとらわれていないですよね」とも言う。どういうことか。
「DevOpsと関連する技術にテストの自動化やCI/CDがあります。CI/CDを意識していなくても、Jenkinsで夜間バッチしている、自動化のためのスクリプトを書いているという人は山ほどいると思います。小難しいワードから入らなくても、本質に近いことを実践している人はたくさんいます」(加藤氏)
なすべきことを実践している人たちはいる。その一方で、うまく行かない組織も多い。難しいのはカルチャーやプロセスを変革していくことだ。「答えはその組織の中にしかない」と加藤氏は言う。
陥りがちなのは○○モデル、○○ルールなど、成功するための秘策を探し、それに頼ろうとしてしまうことかもしれない。「もちろん理論はひとつのテンプレートですので、その存在自体は悪くありません。しかしステレオタイプに組織論を語ることには危うさもあります。まず自組織でできることはなにかと考えるところから」と加藤氏は諭す。
組織に目を向けると、DevOpsやBizDevOpsは所属や役割を超えた連携になる。縦割りで風通しが悪いとDevOpsの弊害になりかねない。ましてやDevとOpsが対立してしまうなんて、もってのほかだ。加藤氏は「サッカーでフォワードとディフェンスが競ってもダメじゃないですか。それぞれ役割があり、同じチームで勝利を目指して仕事をしているのですから」と言う。互いの役割を認めて、仲間としてともに勝利を目指していくことが大事だ。
こうしたマインドを育んでいくのは組織のカルチャーとなる。カルチャーに並んで、もう1つ重要なことにプロセスがある。リリースを早くしようとした時に障壁となるのが手動のプロセスだ。自動化できないプロセスが残存していると、そこがボトルネックとなりがちだ。
典型的なのが承認。リリース前に必要以上に多数の承認を必要とすると、「待ち」の状態が生じてしまう。本当に必要なプロセスなのか確認するべきだろう。加藤氏は「(コードを)理解できない人が承認しても意味がないですから、分かる人間がレビューしたほうが確実にリリースする流れに変えるなど、改善方法があるのでは」と提案する。
繰り返しになるが、自組織でやるべきことは何かを見定めていく必要がある。内製化を進めていくために社内公募してみるとか、内製化が難しければSIとコラボしていく道もある。
自組織でDevOps文化を追体験し、より便利な技術を選ぶ
自組織で何ができるかを1から考え、見出していくのは難しい。そこで、いい気づきを得られそうなのが「フェニックスプロジェクト DevOpsシミュレーション研修」。DevOps研究で有名なジーン・キム氏の小説「The Phoenix Project(邦訳:The DevOps逆転だ!究極の継続的デリバリー)」をもとに構成されている。SB C&Sにて何度か開講されており、好評だという。
研修では10人程度の参加者が、今にも経営破綻しそうな企業を舞台にシミュレーションを行う。それぞれCIOやアプリケーション開発者などの役割が割り振られ、それに応じたカードが配られる。カードには役割が抱える課題、施策の工数やコストが記されている。目標は会社の売上と株価を、不死鳥(フェニックス)のように回復させること。
講師は社長役を務め、指示を出す。それぞれがカードにあることを手当たり次第に実践するものの、大抵の場合、売上も株価も下がってしまう。シミュレーションを何度か繰り返すことで、役割分担や連携、優先順位の判断などを学んでいく。このシミュレーションはDevOpsやアジャイル開発の本質を理解することにとても役立つという。
成功のコツとして加藤氏は「隣のチームがやっていることを覗きに行くこと」を挙げる。互いに何をしているのかを理解すると、「じゃあ、こことここを繋げよう」と組織内で連携が進み、好循環が生まれる。コンセンサスをとり、素早くPDCAを回すための試行錯誤を経験することでDevOpsカルチャーへの理解が深まっていく。アジャイル開発の勘どころをつかむのに役立つだろう。
なお研修は自組織でシステムをアジャイルで内製しようとする企業だけで開催したり、企業が一緒にプロジェクトを進めるSI企業と一緒に開催したり、多様なパターンがある。
DevOpsやアジャイル開発では理論だけではなく、現場の内発的なモチベーションが欠かせない。マインドを変えていくには自組織に照らし合わせて気づきを重ねていくこと、行動に移していくことだ。「ボトムアップの地道な活動が大事です。小さな成功を重ねて、組織内で広げていく。会社全体でそうした導入を支援する形がいいのでは」と加藤氏は言う。
DevOpsに関して技術的な観点で課題はあるだろうか。加藤氏は「今はツールもサービスがいいものが揃っていて何でもできるような気がします。機能で困ることはあまりなく、より良いものを使おうとするマインドが大事かなと思います」と話す。自組織に導入すると効果的なものはどれか、どう組み合わせればいいのか目利き力が重要になりそうだ。
「各種テクノロジーを独自に選定して組み合わせるか、広いポートフォリオを持つベンダーに一任するか。前者は技術要件に対応しやすいものの、運用で工夫が必要でしょうね。後者はある程度の妥協はあるかもしれませんが、まるっとお願いできる可能性もあるので運用しやすいでしょう。ただ完全に二者択一ではなく、よりオープンにするか、どこかのベンダーを頼るかの方向性は重要な検討項目になるかと思います。また今は実質的にはハイブリッドクラウドで運用することになるため、ベンダーがどれだけハイブリッドなデザインに力を入れているかも重要な見極めのポイントになります」(加藤氏)
前者(オープンにツールを選定)に関しては、各組織が求めるものにもよるので本稿では割愛するが、後者(幅広いポートフォリオを持つベンダーを選定)の選択肢の1つとして、加藤氏はVMware Tanzuを挙げてくれた。「VMwareは仮想化の印象が強いので、仮想化プラットフォームの延長にTanzuがあると考えられがちです。しかしVMwareは近年デベロッパーファーストの企業へと変貌を遂げました。Pivotalの統合がまさにそうです。デベロッパーのための視点でサービスやプラットフォームを再定義しています」と説明する。
VMware TanzuとはVMwareのKubernetesプラットフォームの総称で、いくつかのエディションがある。VMwareの強固なインフラ(コンテナ)に、DevOpsを実現するための幅広いポートフォリオが揃っている。アプリケーションサービス、アプリケーションカタログ、DaaS(SQLデータベースサービス)、それからSpring Runtimeなど。SpringはJavaの有名なフレームワークであり、アプリケーションの最新鋭化には欠かせない。
さらにPivotalが提供していたコンサルティングサービスがTanzu Labsとして提供されている。加藤氏は「Pivotalはアジャイル開発ですごく有名な企業でしたので、こういう実績のあるところにコンサルテーションしてもらいながらプラットフォームをご利用いただくというのはいい選択肢になると思います。セルフホステッド(オンプレ)とパブリッククラウドなど、インフラとしてのハイブリッド性もあります」と話す。
もしVMware Tanzuを試したいなら、無料のVMware Tanzu Community Editionで試してみるのもいいだろう。加藤氏は「まずは『何だこれ?』くらいの感覚で触ってみるのがいいと思います」と勧める。
最後にあらためてDevOpsに挑戦している人たちに向けて加藤氏はこう述べた。「あまり難しい言葉にとらわれないほうがいいと思います。目的はより良い製品やサービスをユーザーに届けることであり、DevOpsはそのための活動かと思います。それを忘れないでいたら結果的に『DevOps、できていたね』となるといいかなと思っています」
関連情報
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