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触れて初めて気づいたFileMakerの威力
水島氏がTXP Medical株式会社に参画したのは2019年。2020年3月よりVPoEとしてシステム開発のマネジメントを務めている。同氏は大学卒業以来、システム開発の仕事に従事してきた。現在に至るまで、金融系や物流系の大型案件から、社内で使われている業務システム開発などの小さな案件まで、さまざまな業種・業界のシステム開発に携わってきたという。
そんな水島氏が、医療系システムに携わるようになったのは2011年。「たまたま、担当した仕事の一つが、都内のある小児科クリニックの電子カルテを中心とした院内オペレーションシステムの構築案件でした。以降、電子カルテのシステム開発に携わるようになりました」(水島氏)
さまざまな業界のシステム開発に携わってきた水島氏だが、FileMakerに触れたのは、TXP Medicalに参画してからで、実はFileMakerをはじめとするローコード開発プラットフォームに対して、あまり良い印象を持っていなかったという。
「簡単に書ける=できることが制限されるように見えてしまっていたからです。おそらくFileMakerに触れたことのない多くのエンジニアも、私と同じようなイメージを抱いているのではないかと思います。ですが、実際にFileMakerを触ってみると一般的な開発言語に対して劣っていないことに気づきました」(水島氏)
FileMakerが業務システムの開発に特化した仕組みになっていることに驚いたという水島氏。「一つひとつのUIの作り方やデータの持ち方、処理の流れなどが業務システムの開発に適しています。例えば、一般的なDB開発だとメモリの使い方など、細かく考えなければならないところがたくさんありますが、FileMakerはプラットフォームとしてその部分をカバーしてくれる。余計なことに気をつかわずに済むため、開発スピードが上がります。従来の1/3~1/4の時間で開発できるのではないでしょうか」(水島氏)
スクリプトを英語ではなく日本語で記述するところに関して、最初は戸惑いがあったものの、使っているうちに慣れ、使いづらさは感じなかったという。なぜならFileMakerも他の言語での開発もロジックや考え方は同じだからだ。「FileMakerの作法を覚えてしまえば、開発経験のある人なら問題なくFileMakerでの開発ができるようになると思います」(水島氏)
TXP MedicalがFileMakerを開発プラットフォームに選択した理由は、この「開発が速くできる=現場に早く持っていける」という特徴が大きいのはもちろんだが、それだけではない。「医療現場での認知度が高いこと」と水島氏は付け加える。第1回で園生氏が話したとおり、多くの医療機関ではFileMakerが利用されており、園生氏のように自身でFileMakerを使いこなしている医師も多いからだ。
FileMaker以外にもさまざまな技術を駆使してソリューション開発
FileMakerを開発プラットフォーム基盤に採用しているといえ、同社で使われている技術はこれだけではない。TXP Medicalには、Web開発技術や他の言語で開発している部署があり、水島氏はFileMaker以外の言語技術者もマネジメントしている。例えば、音声AIやOCRを使ってテキストに自動変換し、画面に表示させる仕組みなどがその一例だ。
「FileMakerだけでは実現できないことを、複数の技術を組み合わせ応用することで、FileMakerで動作するアプリと連携させて医療DXにつながる効果をいかに生み出していくかを念頭に取り組んでいます」(水島氏)
では具体的にFileMaker以外にどんな技術を使っているのか。「インフラでは、AWSとMicrosoft Azureを使っています。言語としては、AI機能の開発においてはPython、フロントエンド開発においてはJavaScriptを使っています」と水島氏は言う。より具体的なソリューション名を挙げると、AWS AmplifyやAmazon API Gatewayなどになる。
また同社ではソリューション開発だけではなく、医療の未来を見据え、R&D投資も積極的に行っている。現在、TXP Medicalでは主に2つのAIがFileMakerと連動し顧客である医療施設や救急隊に導入され稼働している。
一つが、医療機関のリソースを予測するAIなど、救急医療現場に特化したAIアルゴリズムの研究開発である。「AIアルゴリズムの開発には大量の教師データが必要です。我々は広く救急隊・病院向けにデータベースを提供しており、その中のデータを契約上利用できる範囲で利用させていただき、AIのアルゴリズムに生かしています」(水島氏)
もう一つが、業務オペレーションに特化したOCRや音声入力などの研究開発だ。実は同社のソリューションで採用している音声入力やOCRの機能は、同社で独自開発されたもの。クラウドサービスで汎用的なサービスが提供されているにもかかわらず、自社で開発するのには理由がある。
医療の現場で必要とされるのは、救急車に搭載されているバイタルモニターの数字やお薬手帳に記載された薬の名称を読み取るOCRのほか、サチュレーションSpO2(酸素飽和度)などのバイタルデータや症状を音声で的確に入力できる医療用語専門の音声認識である。「医療現場に求められる要素に特化してAIエンジンの開発に取り組みました。現在、私たちがソリューションで活用しているOCRや音声入力の機能は、当社が継続的に研究開発しつづけているもの。だから現場に即した高い精度を実現できるのです」(水島氏)
このようなR&Dにも積極的に取り組むことで、ユーザーにとって使いやすく、現場オペレーションに即したより効果の高いソリューションが提供できる。