生成AIへの3社の取り組み
「生成AIを本気で推進するトップランナーが語る!AIの展望2024年とその先」と題したパネルディスカッションでは、PIVOT 蜂須賀大貴氏がモデレーターを、メルカリ 石川佑樹氏、LayerX 松本勇気氏、Algomatic 南里勇気氏がパネリストを務めた。
冒頭で蜂須賀氏は「他の2社に負けない生成AIへの取り組み」というテーマを提示し、各社はそれぞれの事業フェーズに即した特色を紹介した。
LayerXの松本氏は、PMFを達成したスタートアップを代表する立場だ。請求書受領、法人カード、経費精算などの法人支出管理サービス「バクラク」を中心に事業を展開する同社は、松本氏を中心にAI・LLM事業部を立ち上げ、企業の中で大量に発生するドキュメント処理への生成AI活用を目指している。
一方メルカリは、スタートアップを既に卒業し、2000人近い従業員を抱える上場企業だ。石川氏は、生成AIへの取り組みとして、データの重要性を強調しながら、AIの社会実装とそこから得られるフィードバックの収集に力を入れているという。具体的には、社内向け、消費者向けを問わず各種サービスのバックエンドでのAI活用はもちろん、渋谷スクランブル交差点の屋外広告に生成AIで作成したCMを流すなど、ユニークな取り組みも行っている。
Algomatic南里氏は、「0 to 1」のスタートアップとして、生成AIを活用する事業なら内容を問わず取り組んでいるという。指針は、とにかくボトムアップでアプリケーションを開発することと、データ量で勝負しないことだ。創業当初のスタートアップなので、保有するデータ量では既存事業者に勝てない。そこでデータに依存せず、生成AIプロダクトそのものの価値で事業成長できる領域を探すことに注力しているという。
生成AIは業務をどう変えていくのか
松本氏は、LayerXの生成AI活用の特徴的なところとして「チャットはやらないと決めた」と述べた。IT業界では、何度もチャットUIによるサービスが現れては消えていった。松本氏は、チャットUIがなかなか定着しない理由として、チャットUIの本質は一種のCLIだからだと指摘した。やりたいことを実現するには、多数のコマンドを覚えなければならず、LLM以降もプロンプトエンジニアリングが必要になるなど一定のスキルが必要だ。「必要なのは、機械学習を適切にユーザー体験に組み込むことだ」と、松本氏は強調した。それをLLMに当てはめるなら、チャットとしてではなく、汎用性が高い自然言語処理アルゴリズムとして用いた方が、ユーザー体験向上に役立つ。そこでLayerXでは、もっぱらLLMをドキュメント処理に用いているのだという。
一方、石川氏は、Slackボットのように、既にワークフローにチャットが組み込まれている領域であれば、生成AIとチャットとの親和性は高いと指摘した。石川氏によれば、今後チャットに限らず、既存の業務サービスに自然と生成AIが溶け込んでいくという。石川氏は、「アーリーアダプターだけでなく、より受動的なユーザーも含め、全ての人が生成AIを容易に導入できるようにするためには、日常の業務で自然と生成AIに触れる環境を整えることが必要だ。Microsoft Copilot for Microsoft 365やDuet AI for Google Workspaceはそのための試金石となるだろう」と述べた。