エンジニアの質が問われる「2029年問題」とは?
エンジニアやエンジニア組織の活性化支援、関連する同人誌の執筆などを手がける塩谷氏は、バブル世代と団塊ジュニア世代が重なる1972年に生まれ、就職氷河期が直撃した時代を生き抜いてきた。塩谷氏は2011年から新卒エンジニアの採用や配属・研修などの人事面も手掛けているが、「新卒入社の社員は年々優秀になっている」と所感を語る。

その背景には、技術を学ぶためのツールやスピードが向上しているうえに、インターンシップでの実務経験も当たり前となってきた就職市場の状況があるのかもしれない。しかしそれだけでなく、基礎的な理解力などの「頭の良さ」が向上しているようにも感じるというのだ。
その原因について、自身の中学2年生の息子の例を引き合いに出し「現代の教育環境では不良文化が薄れ、学習重視の傾向が強まっていることも要因の1つだ」と推測する塩谷氏。こうした教育環境の変化やそれに伴う人材の質的向上について、ターニングポイントとなるのは「2029年問題」だ。
2029年問題とは、2022年の教育指導要領改訂に端を発する教育構造の変化だ。この改訂により、従来は選択科目であった「情報」科目が情報Iと情報IIに再編され、「情報I」が必履修化された。つまり、「普通科の高校生は全員『情報I』を学ぶ。この世代が新卒社会人となるのが2029年」であり、社会が変わるターニングポイントなのだ。
塩谷氏は情報教育のレベルについて、工学院大学附属中高の校長の見解を引用しながら、「『情報I』はITパスポートから基本情報技術者試験レベル、『情報II』は基本情報から応用情報技術者試験レベルの内容を含む。これらの科目は単なる資格試験対策ではなく、より広範な知識を扱うものだ」と語る。

具体例として挙げられたのが、日本文教出版による「情報I」の巻末問題だ。ここでは「売上原価の実績を基に、回帰分析によって土日の売上を予測するシステムを作成する」「ネットワークがつながらない際に、デバイスや季節などの問題を切り分けてトラブルシューティングを行う」といった実務レベルの内容が含まれている。
他にも、POSデータを用いた売上データの導出、電子署名文書の送信手順の並び替えなどもカリキュラムに組み込まれている。情報IIでは、プロジェクトマネジメントの領域にも踏み込んでいる。2029年以降には、こうしたレベルの高い知識を「標準装備」として備えた人材が社会を支えるのだ。