年配者の「価値」を示すことが生存戦略
では、こうしたエンジニアが“ロートル”にならないためには何が必要なのだろうか。塩谷氏はこれらの課題に対する生存戦略として、「認識の改善」「結晶性知能の活用」「モダンエルダーという理想像」の3点を提案する。
認識の改善について、まず重要な要素となるのが権威勾配の排除だ。たとえば新卒エンジニアに対しては「子たち」や「〇〇くん」といった、若手を子供扱いするような言葉遣いを避けるべきだと指摘した。
またコミュニケーションのプロトコル変化を学ぶ手段として『ビジネスコミュニケーション新常識』という書籍を紹介し、チャットベースのコミュニケーションやリモートワークにおける若い世代の価値観を理解することの重要性を説いている。
続いて、加齢とともに獲得される「結晶性知能」の活用方法として、「螺旋」「実績」「行動律」という3つの概念を提示した。「螺旋」はさまざまな技術領域を往来することでその差分を把握できるというベテラン独自の強みであり、流動性知能の高い若者にとって有利な技術の世界で生き残るためには欠かせないものだ。また「実績」は過去の経験を引き出しとして活用できるよう整理しておくことであり、「決して、過去の栄光を振りかざすためのものではない」と強調する。
最後の「行動律」は、自分自身の経験から得た行動指針やポリシーの言語化だ。塩谷氏は「コントロールできないものと戦わない」「全体最適を優先する」といった行動指針を定義したうえで、「選択し、行動し、それによる結果を引き受けて未来に進む[1]」という言葉で行動律を定期的にアップデートすることの重要性も示した。
[1] 出典:STORES Tech Conf 2024でのSTORES株式会社のCTO藤村大介氏の発言
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最後に塩谷氏は、こうした資質を備えた「モダンエルダー[2]」という理想像を提示する。これは、優れた判断力や洞察力に加え、EQ(心の知能指数)や俯瞰的思考力など、ベテラン特有の特質を活かして若い人材の仕事を助ける人材を指す。「全体最適のために奉仕することが、年配者の存在価値になる」というのが、塩谷氏の見解だ。
さらにモダンエルダーには、若い人材を支え導くメンターとして働くだけでなく、新たなことを学び取り入れるインターン的な姿勢も求められると塩谷氏は説く。モダンエルダーとしてのキャリアに「メンターン」(メンター+インターン)としての姿勢を取り入れることこそが、ベテランエンジニアの生存戦略になるのだ。
高齢化の進む日本では労働者人口も減少する一方であり、65歳でリタイアしても安穏と過ごすことは難しいという展望を示す塩谷氏。2029年問題をはじめとする社会全体の変化や、エンジニア自身の衰えや認知の歪みを認識しつつ、それでもベテランとしての強みを生かしたメンターンとして全体に奉仕・貢献するモダンエルダーとなることを改めて推奨し、講演を締めた。