「狭間」で失われゆくプロダクトの価値をサルベージ
「価値あるプロダクトをつくることは、エンジニア自身の幸せを作ることでもある」と口火を切った丹羽氏。SIer時代には、1年弱にわたるプロジェクトの炎上やメンバーの退職を経験。鎮火後にローンチしたプロダクトもユーザーニーズをとらえきれず利用されなかった……という苦い体験から、「狭いスコープで開発を進めていても、誰も幸せにならないのではないか」と考えるようになったと話す。
その後、別の新規プロジェクトで”徹底的に機能を磨き込む”スタイルへとシフトした丹羽氏は、「エンジニアの仕事は、プロダクトを通じて顧客課題を解決することだ」という結論に至った。

そして、プロダクト志向を中心とした、"エンジニア自身の幸せを作る開発"の旗振り役となるのがプロダクトエンジニアだ。2018年ごろから海外で語られ始めた概念であり、プロダクトマネジメントからインフラ構築までの開発領域・機能企画から運用サポートまでという、開発工程の広い領域を受け持つ。さらには専門性を持ったメンバーの力を活かしながらプロダクト開発を推進することも、プロダクトエンジニアの役割だ。

プロダクトエンジニアは、総じてプロダクトマネージャーの「バディ」に位置づけられる役職であり、国内企業でも新たなポスト創設の動きが広がる。特にスタートアップにおいては「高品質な体験を構築することに情熱を燃やし、新しいアイディアを学び探求することを求めている企業においては、多くの企業が求めるフルスタックエンジニアではなくプロダクトエンジニアを求めている」という。
また丹羽氏は、「プロダクトの価値は"領域の狭間"で失われる」と説く。プロダクト開発はテック・デザイン・ビジネスといった複数の領域にまたがって行われるが、各領域のコミュニケーション不足や専門性の差によって、価値の創出が阻まれることがあるためだ。
一例として挙げられたのが、CSV読み込み機能だ。エンジニアは「読み込み時間がかかるなら非同期にしてはどうか」、デザイナーは「CSV進捗率を表示して体感時間を軽減させたい」、プロダクトマネージャーは「そもそもCSV読み込みは使用頻度が低いのでこだわらなくてよい」と、ひとつの機能をめぐって三者三様の視点が対立することはよくある。
このような"狭間"が生じた結果、「誰がその仕様を考えたのかわからず、何か起きてもすぐに状況を把握できない」「リリース後の運用でもサポート工数がかかりすぎてしまい、歪な仕様になっている」といった問題につながるわけだ。
プロダクトエンジニアの役割は、こうした領域を「越境」することだ。テック領域においては、1機能を単独実装できる技術力を背景に「こういったアプローチができるのではないか」というソリューションを提案。デザインにおいては、仮説検証も含めたUIデザイン全般に対して提言。そしてビジネス領域においては、高い解像度で顧客やビジネスモデルを理解し、「ユーザーにどういった価値を享受してもらうか」の視点に立つ。これが、プロダクトエンジニアの存在価値だ。
